第四回

やり始めてみたもののやっぱりこれキツイですわ。特に審議が本格化して週二回の会合とかが常態化してくると,フォローしきるのは難しい。議事録の公開も他と比べるとたいがい早いわけですから,そっちをみてやってもいいのですが,それだとなかなか雰囲気がわからないし,メディアの反応(ない場合も多いだろうが)もずれますからねぇ…。
とよくわからない言い訳はおいといてとりあえず第四回会合のウォッチ。今回の会合は何というかかなりの程度「聞きごたえ」のある内容だったのではないかと思います。第一回で発表した三人(増田委員長代理,猪瀬委員,横尾委員)が知事会・市長会の代表とまあ良くも悪くも会議を引っ張る猪瀬委員といういわば華々しい「オモテ」の顔であったのに対して,今回発表された三人(井伊委員,小早川委員,露木委員)はどちらかというと「ウラ」の顔に近いのかもしれない。しかし,今回の議論はかなり本質的な内容に迫るものであったのではないかと。特に露木委員は,小規模町村の首長という立場でありながら,その立場を超えて発言を行う様子が見られ,今後のキーになるんじゃないか,という予感がしたりします。
今回の会合を一言でまとめると,今後の基本的な議論の軸として小早川委員−井伊委員というラインができたのではないか,ということだと思います。もちろん別に委員同士が対立しているわけではなく,基本的な考え方の幅として,二つの見方が登場した,ということです。具体的には,小早川委員は垂直的役割分担の見直しに力点を置き,国による地方への義務付け・枠付けをいかに縮減し,その決定においてどのように地方の意思を反映させるか,を論じます。それに対して井伊委員が論じるのは,地方政府の財政責任の確立であり,国(中央政府?)が行うべき基礎的サービスについては全額国庫負担で財源保障を行う一方,地方が行うべきサービスや追加的なサービスについては最小限の財政調整を行ったうえで独自の財源が用いられるべきであると議論します。そして,前回の議論と同様に,「補完性の原理よりもナショナル・ミニマム」ということで,国の機能を積極的に定義することを主張します。*1
この二つの見方が披瀝された今回の会合のクライマックスは,小早川委員が井伊委員に対する質問として,基礎的サービスの供給において垂直的な役割分担,というのがはっきりしているが,議論としては国と地方の分離をするという話なのか。しばしば国と地方が融合すると表現される日本において,融合を抜本的に変えるというのは難しいのではないか,その意味では国が地方に対して最低限の枠付けをすることはやむをえないのではないかと聞くところにあったのではないかと思います。残念ながらこの質問の意図は井伊委員にはっきりとは伝わらなかったようで答えはちょっとよくわかりませんでしたが,まあ長期的に考えてここで旗幟をはっきりさせるべき話でもないといえばそうなので,これはこれでいいのかなぁ,とも思いますが。
僕自身の考え方は小早川委員の議論と非常に近いと思いますが,会合で委員が発言されているように,日本は世界的に見ても非常に大きい単一国家であるために,有権者が行政サービスの供給について自己決定を行う際の意思決定機関があまりにも遠すぎる,という問題はあるのではないかと。ここについては中央政府から地方への委任,ということは考えられないのかなぁ,と常々思うわけですが。この点に関して,井伊委員の発言の中に,次のような一節があります。

「よく民間に委託すると,民間が好き勝手なことをするという批判があるのですが,民間に任せることが悪いのではなくて,民間にまかせきりにすることが悪いのだと思いますので,行政が委託先のモニタリングをすること,それでよいのではないでしょうか。」

この「民間」を「地方自治体」に置き換えることはやはり難しいものでしょうか。中央−地方関係を権力関係ではなく契約関係と捉えることである程度は解決できるように思えるのですが…まあ「国」が地方自治体のパフォーマンスを評価する,ということが受け容れられないと無理なわけですが,やっぱりそこになるのかなぁ。
随分長くなるのですが,露木委員のお話を取り上げないわけには行きません。委員は自らの経験から「中央政府が許認可権を持つことの利点」を強調していて,地方分権がばら色の未来を約束するものではないと戒めます。しかし同時に,地方自治体が独自の裁量を発揮することによる利点を説き,非常に説得力のある議論だったのではないかと思います。理論とは異なるところで,小規模の地方自治体の首長からみた地方分権の実行可能性みたいな議論になっていて,個人的には非常にいい話だったのではないかと。その中で,制度改革に伴ってコンピュータシステム変更の出費がものすごいというお話をされていて,これは非常に興味深いところでした。「官が民に食われる」ほどに出費が激しく,実務的には制度改革を最小限に抑えてもらわないとやっていけないし,この出費をなんとかしないと道州制みたいな制度改革は絶対無理,という話は研究者的には落ちてしまう視点ですが,非常に大きい。丹羽委員長が結構食いついてたのが印象的でしたね。
あとは地方消費税の話とかちょこちょこ出てたのですが,これはまあまた別項で。やっぱりキツイなぁ,これ。

*1:まあ要するにシャウプ勧告以来の多くの財政学者の主張ですが。