第66回会合(2008/11/19)

第66回会合は,小早川委員からの義務付け・枠付けに関する報告と,事務局からの第一次勧告のフォローアップについての報告。昨日(12月2日)の会合で,義務付け・枠付けを大幅に減らす勧告案が出たという報道が出されてましたが(朝日産経時事日経),66回の小早川委員の報告は,この素案のもとになる整理ということです。しかし報道は本当に数の話が多いよなぁ…。まあ数を出せって噛み付いてた朝日の記者もいたくらいですからそこに注目するんでしょうが,数よりもどういう発想で制度設計を行うかという点が重要だと思うわけですが。
はじめに小早川委員の報告。これはあとで委員からも出ていましたが,非常に難解でした。何回か聞いて整理すると,まず現状として,「メルクマール該当性についての委員会としての考え方」を各府省に提示し,各府省からの回答をWGとして精査しているという現状報告があったうえで,各府省とのやり取りの中で共通して主張されているパターンがあることが示されます。具体的には,以下のとおりです。

  1. 条例ではなく、長その他の執行機関が定める規則による決定の余地を許容しているもの
  2. 国による税財政上の特別の措置の直接的な前提となっているもの
  3. 国による法制上の特別の措置の直接的な前提となっているもの
  4. 公示、公告、公表等
  5. 同意、許可・認可・承認、協議

これだとよくわかりませんが,まず1.では省庁が「首長や行政委員会が規則で定める余地を残しているからメルクマールに該当しない」という主張に対する答えであり,地方政府の議決機関たる議会で決めるべし,という理解を示しているそうです。2.については,国がやるべきものは直接執行,財源については税財源を移譲して協議・同意は廃止という方向で議論すべきである,と。3.については,私人と違う「自治体」への義務付け等はいらなくて,何か客観的な要件を用いるべきだ,という考え方をとり,4.については義務付けがなくても自治体が公表等の必要性を判断し,公示・公表などを行うのは当然である,ということです。また,5.については個別の議論ということで。これについて1・2についてはわかるのですが,3・4についてはやや微妙な点もあるように思いますが…。3について公営事業のようなところで最近equal footingが厳しく言われる中で,自治体と私人の違いをそんなに強調するべきなのかはよくわからないし,4の公示・公表についても,自治体が自分にとって都合の悪いことを公表しないインセンティブがあるのをやや過小評価している感じがします。
各省庁の主張とそれに対するWGの考え方,またメルクマールの若干の修正について説明された後で,報告は義務付け・枠付けの見直し方針に移ります。そして,第二次勧告で委員会として,メルクマールに該当と判断したもの/非該当と判断したものを一覧表で示したうえで,メルクマール非該当と判断した条項については,

  1. 廃止(単なる奨励にとどめることを含む。)
  2. 手続、判断基準等の全部を条例に委任又は条例による補正(「上書き」)を許容
  3. 手続、判断基準等の一部を条例に委任又は条例による補正(「上書き」)を許容

のいずれかの見直しをかけていく,という方針が示されます。さらに,この見直しを行う中で,

(a) 施設・公物設置管理の基準<児童施設や福祉施設,道路の基準など>
(b) 協議、同意、許可・認可・承認
(c) 計画等の策定及びその手続<農山漁村電気導入計画など>

という形態の義務付け・枠付けについては,特に問題があり重点的に見直しを行うべき項目として設定できるのではないか,という意見が述べられました。
意見交換では,ここまでの報告について,大筋で異議が述べられることはなく,補足的に意見が加えられる感じでした。具体的には丹羽委員長から,もっと期限を切ったコミットメントを省庁に要求すべきとか,多くの委員からもっとわかりやすく,とかそういうことです。そのほかに重要な問題提起としては,露木委員から,省庁からの「調べもの」を何とかすることができないのか,というコメントが出ていました。「調べもの」というのは,たぶん法的に決められているものではなく,各省から自治体や出先機関に対して要請するかたちで行われる調査で,これについて言及がある論文によると,「ある特定の課題があった場合,全国で同じあるいは類似の課題を持つ事例があるかどうかを探すために,多用される手法」であるという理解がされるやつだと思います。この調べものは,少なくとも以前,また自治体に対して同じかどうかはわかりませんが少なくとも出先機関に対しては,「各課の課長補佐級以上の者は自由に発議することができ,かつ,それは横の連携は全く取られずに実施される」うえに,「調べものの集計結果は概ねその調べものを発議した系列のみの財産となるが,それを課全体,局全体の財産として蓄積する仕組みはない。また,人事異動で人が変わると,その財産の存在すら忘れられてしまうことはしばしば起こる」というようなもので,組織だって行われているわけでもないようなものなわけです。本来ならこういうのは組織としてきちんとデータを取って統計のように扱うことが重要なはずですが,個人が気安くやってしまうというのが現在の日本の官僚制の特質の一端を表しているような気もします…。定性的に制限しようと思っても難しいわけで,この際逆に制度化して,「年に何回まで」とかしたほうがいいような…(半分以上冗談)。回数制限があれば,慎重に行われるでしょうし,蓄積だって進むかもしれないし。

中央省庁の政策形成過程―日本官僚制の解剖 (計画行政叢書)

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あとは一次勧告のフォローアップですが,これについては勧告の個別の項目を少しずつ説明していく形式だったので,総論的には特に目新しいところは無かったような気がします。まあ読んでる限りは前向きな感じがしていたのですが,松田専門委員は,「各省の回答はうまく書いているので,ごまかされないようにしないと」ということを言っていたのでそうなのかもしれません。いずれにせよ勧告やその後の計画,さらにはそれを受けた立法,とハードルは何回も出現するわけで。
やや感想めいた話になりますが,いまさらですがやっぱりこの議論は難しいなぁ,と。だいたい10000個以上の義務付け・枠付けをひとつひとつ精査するなんてちょっと普通の人間の所業じゃないし,委員が全部わかって討議するのはほとんど不可能でしょう。超人的な努力をされてこられた小早川委員はじめWGの先生方には本当に頭が下がりますし,実際現時点でそういう「精査」の作業をするのに当たって行政法に精通されたWGの先生方以上の方がいるかといえば,おそらく他を探すのは大変な困難でしょう。しかしそれでもこの方式に問題点がないわけではないのだろう,と。このWGは政府の委任を受けた分権委の委任を受けたすごい専門家の集団なわけですが,このWGが制度設計に決定的な判断を行うというのは果たして妥当なのか。もちろん理想的には選挙で選ばれた政治家がこの判断を行うべきだと思いますが,分権委のメンバーが行う以上に専門性の点から難しいことが予想されます。民主的な正統性という観点からは,おそらくWGが行った判断に対して,これから個別的な項目においてまず委員会で,それから政治の場で拒否権(item veto)が発動されていくことになるのでしょうが,拒否権を行使されなかった項目については分権委・国会を通じた正統性が付与されていくわけです。そういう意味では,「数が減った」といってマスコミは騒ぐのでしょうが,拒否権の行使というのは民主的な正統性という観点から否定されるべきではないのだろうな,と。また,WGの作業にいちゃもんをつけるつもりは全くありませんが,現状で全ての義務付け・枠付けを通して統一的な基準で判断できる唯一の専門家としてのWGへの負荷がちょっとかかりすぎてるんじゃないかなぁ,という印象は持ちます。今回の議論の経過は蓄積として残しておくべきだし,義務付け・枠付けを外したことによって新たな問題が発生した場合に再度見直しをかけるようなメカニズムも必要になるのではないかな,と。そういう作業を通じてメルクマールがまた修正されていくことで,次第にある種の上位規範としての位置づけを持つことができるようになれば,「役割分担」の議論にとって非常に重要な意味があるのではないか,というように思います。
しかし,民主的正統性を持つ機関が統一的・整合的な提案をすることで制度設計を担うというのはやはり難しいのですね。逆に(一定の)統一的・整合的な提案に対する個別の拒否権として顕れ,その結果ひょっとすると提案の整合性を掘り崩してしまうかもしれない,というのはなかなか皮肉な話です。複雑化しすぎた社会の習いなのかもしれませんが。
The Rise of the Unelected: Democracy and the New Separation of Powers

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