第71回会合(2009/1/14)

ようやく新年一回目の会合の観察記録。新年初めということで,冒頭委員長から今年を地方分権改革の集大成の年にしたいという意気込みが語られ,今後の勧告に向けた委員間討議が行われています。形式としては,はじめに事務局から主にどのような検討課題があるのかという点について,以下の三つが示されています。

  • 義務付け・枠付けの見直し:第2次勧告のメルクマール非該当条項について、① 施設・公物設置管理の基準,② 協議、同意、許可・認可・承認,③ 計画等の策定及びその手続,の3類型を中心に具体的に講ずべき措置を調査審議
  • 税財源:中央地方の財政関係,財政力格差の問題,財政規律の問題
  • 行政体制の整備:自治関係法制の見直し等(行政委員会、議会、財務会計、広域連携の制度など)について,29次地制調でも監査機能・地方議会制度については議論されていることを踏まえて分権委でも議論

特に義務付け・枠付けの見直しについては,二次勧告を踏まえて,1月8日付けで,各省庁に対してどのように見直すかの照会をかけているということで,1月末がその期限だということが報告されています。ここのところの論点としては,この分権委では特に社会保障制度や統計制度について議論するときと同様に(21回24回58回)地制調という他の審議会での議論との兼ね合いが問題だよね,という議論。結論としては,監査委員の機能や地方議会については地制調の答申とすり合わせる必要があるものの,地制調が27次・28次で議論した(そしてあんまり答申が実現されていない)行政委員会制度については,分権委なりのアプローチで進めてもいいのではないか,というかたちでしょうか。
進め方としては,各委員が用意したペーパーをもとに,今後の議論の進め方についてコメントしていく,ということになるわけですが,その中で特に問題として挙げられたのが,昨年12月24日に閣議決定された,持続可能な社会保障構築とその安定財源確保に向けた「中期プログラム」についての議論と,二次勧告の義務付け・枠付けの見直しを踏まえた今後の補助金制度の議論。まず「中期プログラム」については,その「Ⅲ.税制抜本改革の全体像,2.税制抜本改革の基本的方向性」において,消費課税が

(3) 消費課税については、その負担が確実に国民に還元されることを明らかにする観点から、消費税の全額がいわゆる確立・制度化された年金、医療及び介護の社会保障給付と少子化対策に充てられることを予算・決算において明確化した上で、消費税の税率を検討する。
その際、歳出面も合わせた視点に立って複数税率の検討等総合的な取組みを行うことにより低所得者の配慮について検討する。

と謳われたことが問題視されます。「中期プログラム」では,同じ節において

(7) 地方税制については、地方分権の推進と、国・地方を通じた社会保障制度の安定財源確保の観点から、地方消費税の充実を検討するとともに、地方法人課税の在り方を見直すことにより、税源の偏在性が小さく、税収が安定的な地方税体系の構築を進める。

とあるわけですが,この両者の関係がわからん,現在の消費税の全部か,国税である消費税のことだけか,というのが不明確である,という意見が。一部の委員からは,中央省庁間の妥協によって生まれた両論併記の文言だ,という見解も出ていましたが,この点についてはこれから内閣府の担当者を呼んでヒアリングする,ということに。委員の間では,地方消費税を拡充すべきだ,というところでコンセンサスがあるように見えるものの,増税に当たっての地方の努力,という観点から国の消費税を上げたときに地方消費税が自動的に上がる現在の制度はどうか,という論点についても議論されています。この議論は遠い前に(11回)出ていますが,いろいろと議論のある論点で,これからの進め方は難しいところではないでしょうか。
もうひとつの,義務付け・枠付けと国庫支出金の関係については,義務付け・枠付けの緩和に伴って負担金・補助金の性格付けが変わるのではないか,という議論。事務局としては,法律で縛るのをやめることと,国が財政支援するかは必ずしも一対一で対応せず,法律の縛りは止めるけど,財政支援は必要,ということがありうることは指摘されているものの,委員からは,金額をゼロにするかしないかとは直結しないにしても,補助金の算定基準などで法令による義務付け・枠付けと連動している部分はあるはずで,法令の方を変えれば,補助金の支給基準の見直しに直結する部分はあるという指摘が。問題としては西尾代理が指摘されているように,法令による義務付けが緩められて各自治体ごとに行うサービスが異なってきたときに,「一律のサービスについて国が(一部を)負担する」という理屈が立たなくなるのではないか,というところがあります。裏側から言うと,義務付け・枠付けの見直しを進めるときには,このお金の話を進めないと,義務付け・枠付けの理屈が残ってしまうのではないか,と*1。なかなか膨大な作業量になりそうということですが,この議論を踏まえて,事務局が各省と義務付け・枠付けについて議論するときは,法令による義務付けに引っ付いている補助金・負担金についても洗い出して,それをリスト化するように要請されています。いや,本当に大変そうですが。
他の論点として興味深かったのは,井伊委員から現行の義務的な負担金と裁量的な補助金の区別をきちんとするべきだ,という提案がなされたのに対して,西尾代理がこれまでの経緯からその区別を最後までやりきるのは難しいのではないか(他の道筋で行くべきではないか)という議論が出された点でしょうか。負担金と補助金の区別を明確にして,「ナショナルミニマム」だけ保障するべきだ,という議論で突破しようとしたのは地方分権改革推進会議ですが,最終的にこの会議の議論が散々な結果に終わったことを踏まえると,この指摘は傾聴に値するのではないかと。
それから,露木委員から特に小早川委員に対して出された議論として,「最近(一部の新しい)自治事務機関委任事務化しつつあるのではないか」というものがありました。これはあんま考えたことなかったのですが,非常に興味深い論点。つまり,機関委任事務を廃止するときに,基本的に国が自治体をきつく縛るものについては法定受託事務として整理したはずなのですが,その後法定受託事務を新たに作るのは,地方自治法の別表に載せないといけないこともあって面倒くさい,と。そのときにどうするかというと,「自治事務」の方に法令による義務付け・枠付けを重くくっつけて自治体の行動を縛る,と。まあ確かにこれはありうる話で,分権委でもたまに「新たな義務付け・枠付けについてのチェックシステム」という議論が出ていますが,法定受託事務との兼ね合いという意味でも考えるべき論点なのでしょう。ただまあ小早川委員からは,今次の分権委で全部は難しく,その必要性を訴えることになるのではないか,という指摘がありましたが。関連して,一次勧告・二次勧告の中で,国から地方への権限移譲という文脈の中で,県の法定受託事務を市に移譲するとか国が行っている事務を県に移譲するとかいうときに,それは「どんな自治事務になるのか」という議論が出ていましたが,ここも難しいところ。まあひとつは移譲される事務に限定して,またメルクマール該当/非該当を判断する,ということになるのでしょうが。
あとはまあいつもの税財源の5:5の話。横尾委員と猪瀬委員が5:5が重要だということを主張し,猪瀬委員からは「そのためには7兆円くらい」という指摘も出ていましたが,露木委員などは結果として5:5,ということではないかという指摘が。その議論でも触れられていましたが,交付税をどう扱うのかというのもあるわけで,ここもまあいつもながらややこしい論点になるのだろうなぁ,という感じ。
会合の議論はこんな感じですが(まあ委員同士でそれほど討論されていないものはさすがに落としてますが…),あと非常に興味深かったのが,日経新聞の磯道記者の質問。議論の中で義務付け・枠付けで見直し対象となる補助金を各省に出させるという話が出ているのに対して,義務付け・枠付けと関連する部分の(交付税を算定する際の)基準財政需要額への参入額は求めないのか,というもの。磯道氏の指摘するとおり,補助金よりも交付税の方が量としては大きいわけで,この質問は実に当を得ていると思いましたが,猪瀬委員と宮脇事務局長の質問に対する反応はなぜか微妙。やや「補助金」ということに意識が集中している委員会の議論を浮き彫りにする鋭い質問だったのだと思います。「三次勧告はいつ出す予定ですか?」みたいなくだらない質問ではなくて,こういう質問が出ていればもっと記者質問での緊張感もあるだろうになぁ,と思ったりして。

*1:具体的には,「負担しているから義務付け・枠付けするのだ」と。卵が先か鶏が先か,見たいな話ですが。