第76回会合(2008/3/4)

76回の会合は,神野直彦東京大学教授と田近栄治一橋大学教授からのヒアリングに加えて,国交省ヒアリング。まず両教授ですが,神野先生は地方分権の目的が民主化にかかわる重要なものであるということを強調した上で,ご自身の「ドイツ財政学」の立場からいわゆる水平調整・垂直調整の制度をいくつかの類型に分け,分権改革では中央の行政任務を地方に割り当てるだけでなく,割り当てた行政任務における決定と執行の非対応を減らすとともに(二次勧告:義務付け・枠づけの廃止),行政任務と課税権の非対応,補助金によるコントロールを減らしていくべきだという主張です。その中では,行政任務に応じて課税権を配分するべきであり,その配分は租税体系を構成する基幹税(所得税・消費税)によるべきであるとされています。ただ,税源の移動可能性/政府機能を基準に考えたとき,どちらかの基幹税を国・地方が(たとえば国−所得税/地方−消費税というかたちで)それぞれ持ち合うよりも,それぞれの基幹税を5:5で分け合う振り方が望ましいという考えを示されていました。そのうえで,今後の方向性としては,地方税であることを明らかにして(特別会計直入),配分に地方の意見を入れるながらも(地方の参加を法律で規定),「水平的効果を持った垂直的財政調整」である交付税を緩やかに改革していくのがいいのではないかという意見になっています。
一方の田近先生は,地方交付税地方税源の改革に焦点を当てた非常にはっきりした提言で,現在の地方財政制度の問題として,(1)交付税が実質的に出来高払いの制度になっているために,地方自治体の非効率な歳出に対して財源が移転されてしまうこと(要するにソフトな予算制約であると),(2)地方自治体(特に交付団体)が税源を涵養するインセンティブを持たないしくみになっていること,の二点を挙げた上で,今後税源を移譲していったとしても,分け方が問題になることを指摘されています。改革を行ったあとの新たな制度では,地方自治体が税収確保の意欲を持つ仕組みとなることを重視し,国による一定の負担に加えて地方も一定の負担をしてプールに入れたものを,(国がテーブルを用意するとしても)基本的には地方自治体間で交渉・調整をして分け合うべきだという議論をされています。そして国と地方の財政ルールが確立させていく中で,国が一定の役割を果たした上で地方に委ねるべきであり,地方が自らを管理するメカニズムを確立させていくことが地方分権ではないか,という議論になっています。
このように両先生の意見を並べると,印象としてははっきり違うように思うのですが,実際のところ議論で強調する点がずれているので,具体的にどの辺が対立点なのかはまあよくわからないところがあります。前提となっているようなところまで含めると,神野先生は消費税の税源移譲で地方財政自体を大きくするべきだという傾向があるのに対して,田近先生は歳入中立(あるいは減少?)を所与として分け方をいかに変えるかという議論になっているのではないかと思います。ただ僕がどうしてもよくわからないのが,神野先生の主要な主張で「地方交付税地方税であることを明らかに」という話があるのですが,そうしたらその瞬間に国と地方の税源の比率が5:5よりも地方よりになるうえ,交付税の原資で地方に回っている部分も含めた消費税は50%弱(正確には44%程度)なわけで,その後どういう問題点が見えてくるのだろうかと…。井伊委員や露木委員も特に交付税の原資になっている消費税の話について神野先生に質問していましたが,その答えはちょっと僕には理解できませんでした…。他には小早川委員から,田近先生に対して,地方の自主的な交渉・調整について法定化するべきか,という質問が出ていて,これは例の「地方行財政会議」の問題も含めて,統治機構的に結構大きな議論なのではないかと思われます。田近先生のお答は,どちらかというとある程度現状を認めながら改革を進めていくべきではないか,というものでしたが。
そのあとは,国交省に対して,下水道関係と港湾関係のヒアリング。下水道については,市町村が原則管理する「公共下水道」と複数の市町村にわたり都道府県が管理する「流域下水道」について,それぞれ事業計画を策定し,数年間の実施計画としての性格を持つということですが,その計画について一部のものは国交大臣が認可し,全体の8割は都道府県知事の認可するという認可の義務付けを廃止すべきだ,というのが分権委の主張です。小早川委員から,計画を事業主体が策定し,別のところが認可するという現在のしくみにおいても,計画のチェックをするときは一定の基準に従ってやっているわけだから,その基準さえしっかり定めておけば, あとは事業者である市町村/都道府県がクリアできるような計画を作るのではないか,また,どうしてもおかしいということであれば,必要に応じて個別に技術的助言をするなり関与すればいいのではないか,という指摘が行われます。それに対して国交省は,個々の水流によって異なる事情があるので基準を逐一書くのは技術的に難しいし,また客観基準でガチガチに縛ると,自治体の柔軟な事業運営が難しくなるのではないかという懸念を示します。どう転ぶかわからない?国交省との協議があることで自治体が柔軟な事業運営ができるのか?というツッコミは当然出るわけで,それに対する国交省の反応は「マニュアルがある」というどっちやねん!的な感じで…。次の港湾にも通じるところがありますが,国交省としては(これまでの分権の要求もあって)そんなに縛ってないという感じで主張するのに対して,分権委では(程度問題ではなく)そもそも縛るという行為自体をひとつずつやめさせていこうと考えているわけで,どうも平行線になります。また露木委員からは,「事業計画を定められると国が補助を講じることができるために当該計画の適正性を確保」という文言が当初委員に配布された資料に入っていたというところから,要は金が張り付いていることが問題なのではないかという指摘がありますが,国交省としては「必ずしも事業計画の認可と予算の執行がイコールではない,誤解を招くから削除した」の一点張り。この点で丹羽委員長と国交省の担当者がよくわからない揉め方をする場面もありましたが,小早川委員による,「事業計画の認可→下水道法上の下水→補助金が出る」という整理を踏まえると,「地方が勝手にやってる(下水道法上の下水ではない)下水」がありうるのか,というのが論点になるべきだったのではないかなぁ,と思ったりします。
港湾については,港湾入港料の上限規制についての議論です。船主からすると,そもそもなぜ入港料なんてとられるのか,という不満があって,自治体が勝手に入港料を上げないようにしてほしい,という要望が背景にあるようです*1。この話は何回聞いてもよくわからないのですが,そもそも現状で日本の港湾が周縁化されつつあるといわれる中で,入港料を積極的に上げて競争条件を落とそうとするところってあるんでしょうか。ここはよくわからないところで,各港湾が独占体的な性格を持っているなら上限規制は合理的だと思われるのですが,競争的なのであれば入港料を上げれば船主は違う港湾に行ってしまうような…。国交省としても,条例で決めるということにすればいいのではないかと考えている節もありますが,それでも船主が嫌がるというのが大きいのかなぁ。あるいはある港湾で勝手に上限を超えてその港湾がさびれるのを黙認できない,ということなのかしらん。うーん。よくわからん。

*1:昔某市が突然入港料を取った(上げた?)ことがあるらしい。