第77回会合(2008/3/4)

ようやくやや落ち着いてきまして,もういつやねん,という話ですが3月初旬の分権委第77回会合について。id:dojinさんから頂いたトラバとかもコメントしたいところですが,またそのうちということで…。

冒頭

この会合では冒頭で猪瀬委員から提出資料をもとに直轄事業負担金の問題が出されてます。主要な主張としては,直轄事業負担金にかかる税財源を地方にまわして地方で独自に管理することが望ましい,と。露木委員も同趣旨の意見で,都道府県の側から積極的に事業実施の権限と税財源を求めることが必要である,というのが基本的な意見になります。で,それに対して丹羽委員長からは3月中に知事へのヒアリングを通じて直轄事業負担金の集中討議をする,と。
次の話題は出先機関の工程表について。最終的に工程表については松井望先生の記事にあるとおり,弱めの結論になっていくわけですが,この会議では,「35000人」と書かれた人員削減の目標についてどうするかという議論が中心でした。興味深いのが,猪瀬委員から6系統の出先機関で現行の49000人が31000人を目指すことを強調すべきだという意見が出ていたのに対して,丹羽委員長が「35000人の削減」を非常に協調して他の委員と議論していたところでしょうか。これ,わかりにくいんですが,第二次勧告で6系統の出先機関を地方振興局・工務局に統合していく時に人員を49000人から31000人程度まで削減すべきだ,ということになっていて,猪瀬委員はそのうち地方移管が11000人程度ある,ということを強調すべきだとしているのに対して丹羽委員長は35000人削減という数字を強調すべきだ,としていると。この35000人というのは,「将来的」な数字であって,ハローワークの縮小(11000人)などを含めた数字になるという説明を猪瀬委員はするのですが,委員長はとにかく35000人だ,と言い続けるというやや奇妙な絵柄になってました。結局「35000を目指すんだ」という話で何となく終わるわけですが(結局のところ工程表には盛り込まれず)。

総務省財務省ヒアリング

両省の議論は基本的に以前と変わりませんが,簡単にまとめると,総務省としては,安定性の高い税源が重要,多くの事務事業が法律で義務付けられているために財政措置が必要,地方は財源不足で交付税率を上げたいが国も厳しいね,という話。一方の財務省は,国・地方は財政赤字を縮減しようとしている中で地方のために国の赤字が増えて税負担が増えるのはだめ,水平調整を考えることは避けられないのではないか,税源移譲は必ずしも偏在性の是正に寄与しない,という話。後で露木委員が質問していましたが,例の「中期プログラム」については両方ともに明確なことは言わないのでよくわかりませんが,固定的な解釈がないという話なんでしょうかね。先日も総理が「消費税上げ全額社会保障」といったとかいわないとか*1
他の論点としては,井伊委員から,まず交付税一般財源であるから財源保障したとおりに使わなくてもいいというのはあるとしても,入り口と出口の乖離,使い方の違いはどのように納税者に説明するのか,という話と,算定基準が複雑だ,という「説明責任」に関する質問。これについての総務省の答えは,決算乖離の是正は努力しているし,他の国でも財政需要を積み上げると複雑だし租税特別措置だって複雑だ,という答えが…。だからいいのかはよくわかりませんが。加えて井伊委員からは,義務付け・枠付けが少なくなって地方の裁量が増えると,新型交付税が重要になってくるのではないか,という質問が出たものの,総務省としては「基準財政需要額の1割程度を目処にやっている」というのみでややすれ違いが。
興味深かったのは,偏在性に関する議論。財務省提出・説明資料の32-34ページが議論になったのですが,財務省地方税財源の種類と特徴ということで,交付税・譲与税・地方消費税・その他地方税を並べたうえで,地方消費税と譲与税を「機械的な基準で配分される税」として一括して扱う試算を提示し,格差是正についてはこのよう名種類の財源が有効だ,という話をしています。それに対して総務省は消費税と譲与税を並べるな,と反発するという感じで。なぜ並べてはいけないのか,という部分は個人的にはよくわからないところではありましたが。また一方で,消費税を地方に移譲したくないとされる財務省が,消費税による移譲を重要な選択肢とするような資料を出してきたこともなかなか興味深い,と。

文部科学省ヒアリング

次は第一次勧告のフォローアップということで,まずは文科省。議論になるのは教員人事権と給与負担の移譲可能性です。文科省からの報告としては,現状で自治体代表者を含めた協議会を作ってこの辺に関する問題を討議し,考えられる論点を整理してきたということで,これから叩き台を作りたいと表明しています。ただそこでの問題としては,(1)広域人事交流が可能になるような方針・計画をどのように担保するかという点,(2)給与負担については,都道府県・市町村の税源のあり方にもかかわるので文科省だけでなく総務省も絡む点に留意して欲しいということがある,と。また,学級編成・定数については給与負担と切り離して議論するほか,都道府県・市町村間で意見にギャップがあるからまとまるかわからない,という状況である,と…。なお結論に関しては,勧告では「20年度中」だったということですが,地方分権改革推進本部の本部決定では推進計画までということだったのでそれまでに,となってます。
委員との討議としては,横尾・露木両委員から,いっせいに権限移譲しなくてもやりたいところから選択的にやればよいのではないか?という質問が出ますが,文科省はどうも消極的。何でこの辺消極的になるのかは必ずしもわからないところではありますが,従来から総合行政からの教育行政の独立を主張していることや,「教育」という営みについての説明を「(地域)社会」にするという考え方が馴染まないと考えている,といったところがあるのかもしれません*2都道府県とか政令市みたいな「地域社会」で教育についての責任が完結されることを嫌うというか。まあここのところは僕の苦手な議論ですが,「国民の教育」みたいなことをどう考えるか,ということをキチンと議論する必要もあるのかもしれません。ただそれを文科省という官僚組織がやるべきかというと微妙なところだと思いますが。

農水省ヒアリング

ヒアリング最後は農水省,ということで,テーマは農地関係です。2月24日に農地法の一部を改正する法案が閣議決定され,従来堅持されてきた所有者=利用者という路線から転換して利用促進を図る,ということになるそうで。で,その転換の中で農地が消失しないように農地の総量確保に関する法規制を入れた,というのが今回のヒアリングでの報告でした。どちらかというと規制強化という方向で,農水大臣が食料・農業・農村基本計画に基づいて都道府県レベルで確保すべき農地についての指針を出し,確保できない場合については是正を求めていくということになるそうです。これ自体は,従来から問題となってきた開発主義的な農地転用の問題(例えばこのエントリ)に対するひとつの回答として評価できると思うわけですが。ちなみに,分権委で議論してきた農地転用許可の権限移譲については,二次勧告で「農地の総量を確保する新たな仕組みを構築した上で」ということなので,まず今回の新たな仕組みを作ったうえで5年をメドに検討する,と*3
総量確保の実効性を担保するための方策としては,利用主体として株式会社の参入が大幅に緩和される他,「無許可転用」を許しているといわれる農地情報の一元化(農地基本台帳:法定ではないそうですが)を進めるなど,きちんと実行されれば有意義だと考えられる「目玉」が多いように思います。ただ一方で全く手が付けられていないところとして農業委員会の問題が残っていました。委員からも質問が出ていますが,ここについては変わらない,ということなので,制度を変えても実際の運用を行うことになる農業委員会の部分が一緒だと難しい,というところもあるのかもしれませんが,逆に考えるとなんで今回これだけ「大改正」といってるのにこの部分の見直しはなかったんだろうか…。そんなに農業委員会が強い,ということなんだろうか。この回の会合の最後で,小早川委員が今後の行政体制整備の見直しについて,地制調との関係を踏まえてということだと思いますが,行政委員会を中心に据えるということだったので,この日のヒアリングで関係する教育委員会・農業委員会は「行政体制の整備」という文脈から扱われることになるのかもしれません。

*1:引用だけ見るとそうは読めないですが…。

*2:徳久恭子[2008]『日本型教育システムの誕生』木鐸社

日本型教育システムの誕生

日本型教育システムの誕生

*3:このあたり,農水省の姿勢の変更っていうのは同評価できるんですかね。もちろん「本当に変わった」のかという問題がありますが,「本当に変わった」として,なぜ変わったかを説明するのは政治過程論的な分析としてありうるような。アイデアなんでしょうか…。