第83回会合(2009/5/14)

83回会合は,今後の税財政の議論を行うにあたって,事務局がこれまでの議論を整理したものを説明し,それについて委員間で議論するかたち。その前にまず冒頭で丹羽委員長が例の「意見」(もうだいぶん昔の気がする…)を鳩山総務大臣(当時)に手交した旨を報告し,欠席の猪瀬委員に代わって事務局から,猪瀬委員提出資料として出された国交省からの直轄負担金の明細に関する資料に対する疑問点について説明(基本的に「補足説明」の部分の読み上げ)。それから国交省に対して,猪瀬委員が調べた東京都の以外での同様の問題を検討するための基礎的な資料の開示を,丹羽委員長名で要求することが確認されています。
さて税財源についての論点整理として事務局から関連資料の説明があるわけですが,このうち資料1については,いままでに提出してきた勧告・取りまとめについての関連内容の確認ということで,→第一次勧告・第二次勧告・中間的なとりまとめなどで指摘してきた部分を整理して提示されています。それから資料2としては,今後の各論ベースの議論の前に,総論ベースで共通して認識が必要なところを整理するということで「自治財政権」の確立を目的にするんだ,ということを強調しながらまとめが行われています。この中での事務局のまとめとしては,

  • 国家財政論:ナショナルミニマム達成のために国が地方政府に一定の関与,省庁ヒアリングの見解
  • 機能財政論:市場メカニズムを利用,地方自治体の自助努力を重視「地方にできることは地方で」
  • 自治財政論:(機能財政論に加えて)独自領域として地方財政が一定の体系をもつ,課税自主権・起債自主権

という考え方がある中で,これらを一つの線で区切れるわけではないが,制度をまとめるときには機能財政論に加えて自治財政論を含めて議論が基本ではないか,ということが言われていました。あとは総論ベースの留意点として事務局が考えている内容が5項目ほど整理して出される,という感じ。
質疑を聞く限りでは,必ずしも事務局としての統一見解(というのがどういう性質のものなのかよくわかりませんが…)というのではなくて宮脇事務局長の意見がかなり反映されている感じ。たとえば露木委員から,資料1で挙げられている地方税地方交付税・地方債・国庫補助負担金といった問題群について,これから同じような強度で議論していくというのかという質問が出ますが,事務局長の回答としては,私見として,(1)地方税については抜本的税制改革ですでに政府与党から示された消費税増税を前提としつつ,課税自主権や税源配分を議論することになるのではないか,(2)国庫補助負担金については,直轄事業負担金など重要な個別議論は個別に議論したい,多くは社会保障関係など義務的経費,単純に削減して税源移譲というのは難しいのではないか,(3)抜本的に国庫補助負担金を削減して税源移譲というのは限定的に考えるべきで,三位一体改革の中で地方自治体が苦労した,交付税問題・財政調整の問題について,税源移譲が前提であるならば地域間格差を是正する財政調整が重要になるのではないか,(4)地方債は交付税と密接不可分,交付税の問題を議論しながら元利償還の問題など地方債について議論することになるのではないか,といったような見解が示されています。それらをまとめた感じで言うと,地方税交付税といったものが制度設計上重要であるというのが基本で,同時に補助金の個別問題,というところになるかと。
この見解を受けた委員の議論で論点になっていたのは,まず消費税増税を前提とするべきかどうか,というところでしょう。前提にできるのか,という立場からは中期プログラムで消費税増税の話が出てきたけど税調は全然動いてないのにいいのか*1,そもそも増税・減税というより国と地方の税源配分の仕方が問題だろう,という意見も出ます。一方で,宮脇事務局長が指摘したように三位一体の経験を踏まえて現在の国税地方税の配分を前提として税源移譲をするのは非常に困難ではないか,という指摘も出ています。委員の雰囲気としては,三位一体のときの地方の不満を考えると増税という形は望ましいかもしれないけれども,それを前提にすると話が動かなくなるかもしれない,という矛盾を抱えている感じでしょうか。なおこの辺は後でも議論になっていて,最終的に森田朗東大教授が議論している「トリレンマ」の問題として今後の委員会でヒアリングを行うということになるようです。
次の論点は,「どこを議論の入り口にするか」ということ。西尾代理の説明では,これまでの勧告等では,地方税交付税・地方債・補助金が一体というもので,これらは相互に深く連動しているから一体不可分に解決を描くことは重要だが,どこから議論を進めるか決めないと何も動かない,と。第一次分権委(の二次勧告)では,補助金を削減して,それで浮く国費を税源移譲するという戦略だったけれども,最終報告ではそれではことが進まないということがわかったので,国税から地方税への税源移譲ということで三位一体の改革につながったということ。要するに税源移譲必要額を決めて,それに見合う補助金の削減リストを知事会が出したりすることで議論が進んだということになります。委員間の議論では,やはり地方消費税を中心とした税制改革とそれに伴う税源移譲を入口にするのが大勢,という雰囲気ではありますが,露木委員がまとめていたように,財務省系では東京問題(偏在性)を強調して,それを均すことを出発点に考えていたり,総務省や地方六団体は交付税の法定率を充実させることで改革を目指すという見方もできるわけで,いろいろなシナリオがありうるのだろうな,と。
また,この委員会では既に,国と地方の税源配分は5:5を念頭に置き…,という話をしているので,当然この5:5というのも議論に出てくるわけですが,これもやはり難しいところ。あくまでも「念頭に置き」,という表現なので別にこれを議論の入口にするというわけでもなく,また,既に分権委でさらなる権限移譲を勧告しているためにそのための税財源も考えなくてはいけない(by西尾代理・露木委員)という主張もあります。まあこの会合ではKickoffの段階ではありますが,基本的な部分ではある程度委員のコンセンサスも見えそうであるものの,各論の部分で合意をとるのは難しそうだなぁ,という感じのする議論ではなかったかと思います。

*1:その後骨太09の素案で「消費税12%」という議論が出てきますが,それはこの会合の後。