第87回会合(2009/6/17)

もうすぐ追いつくか,と思っていたらあっさりえらく離されてしまいました…。最近は会合の時間が微妙に伸びていて150分くらいというのがデフォルトのようです。聞くこと自体はやっぱりある程度慣れてきたわけですが,長いと書くときにある程度構成を意識しないといけないからめんどくさい,ということで,聞いてまとめても書いてない,という感じでたまるようになります。まあいいんですが。
さて冒頭ではまず委員長から,義務付け・枠付けの中間報告を受けて政府の地方分権改革推進本部に行ってきましたよ,というご報告。今となっては遠い前のような気もしますが,一月前はまだ千葉市長選挙が終わったところで,解散まで地方選挙で自民党が負け続けるという話ではもちろんなく,本部会合の話も何となくのんびりしたところではあります。で,本題(?)に入ってはじめは国交省ヒアリング。件の直轄事業負担金の明細というやつについて,猪瀬委員が東京都と国交省のやり取りで発見したという問題点を指摘しながら議論を進める形式になってます。非常に細かい話ではあるのですが,明細で出てきた「庁費等」という項目についての国交省の説明がいろいろと。だいたい「等」という言葉が付いてくると何なのかよくわからない,というのはよくある話ではありますが,猪瀬委員としてはここのところに問題があるとして突っ込むわけですが,どうもあんまり実体的な問題としては見えてこないまま。その他も,直轄事業負担金を複数の都道府県が払う場合の按分の方式のような技術的な議論が続きます*1。直轄事業負担金に関して財政的に大きな問題といえば,とりあえずはここの交付税措置をどうするか,という話だと思われるわけで,国交省の審議官も「直轄事業負担金は基準財政需要に入っているから,他の要素が変わらないと減るということではないか」と発言したりしているのですが,猪瀬委員からは,「脅すような言い方はおかしい」という話。もうちょっと突っ込んで議論するかと思っていたのですが,結局それだけというやや消化不良なかたち。はじめに猪瀬委員が進めていた東京都の経験からの議論以外に結構時間をかけてやっていた印象があるのは,丹羽委員長から出ていた資材費の内訳というところでしょうか。この数年の燃料費の乱高下を踏まえると資材費というのは時期によって変動が激しいものだから,きちんと明細を出していないのは理解できない,という内容。まあその通りだと思いましたが,国交省は「工事だけで15000件あって内訳は公表できるが集計はできない」というちょっと?な答え。好意的にとると情報を集約するのが難しい,ということでしょうか。だったらとりあえず全部公表だけしてあとの分析はやる人に任せれば?と思ったりするわけですが。
次は出先機関の庁舎問題。これも猪瀬委員がメインだった感じですが,要は広さ的に余裕があるのに何で建て替えないといけないのか,という趣旨の質問。これに対する答えは主に二つで,ひとつは柔軟に使えるようにするから問題ない,というものと,もうひとつは耐震性が必要,というもの。露木委員からは,耐震基準を超えているもので建て替えられるものがあることが指摘されていますが,国交省の答えとしては周辺に建て替えるべき庁舎があるから併せて建て替える,との趣旨の返答。小学校より庁舎を優先するのか,という議論も出るもののあとは何というか水かけ論的な感じで。個人的にも「小学校か庁舎か」と言われるとどうなんだろう,と思うわけですが,国交省の議論としてはそういう優先順位の話ではなくて,「建て替えるかどうか」という選択の話にしているので全く噛み合いません。まあ結局のところ国交省が決めることができるのはそういう優先順位ではないことも事実であるのではないかとも思いますが。
次は露木委員提出資料の説明を経て,森田朗東京大学教授へのヒアリング。森田教授は以前の地方分権改革推進会議の議員で,以前の分権会議が特に税財源の議論を巡って分裂し,成功とはいえないかたちで終わってしまった原因について,税財源をめぐる「出口のない三すくみ状態(トリレンマ)」があることを説明し,その状況は現在でも変わっていないと指摘しています。この「出口のない三すくみ状態」とは,

 1.歳出抑制 + 税源移譲 → 格差の拡大
 2.歳出抑制 + 格差是正(財政調整)→ 税源移譲は困難
 3.税源移譲 + 格差是正(財政調整)→ 歳出膨張 → 破綻 or 増税? 

ということで,まあこのような三すくみについてはいろいろなところで指摘されているのではないかと思われます。ただ気をつけなくてはいけないのは,ここでいう「税源移譲」は地方税と国庫補助負担金の交換を意味していて,「格差是正」は地方交付税の拡大を意味しているということでしょうか。だからこれを三位一体のときに当てはめると,歳出抑制+税源移譲が行われたから格差が拡大したんだ,というロジックになるわけです。会合の一番最後での委員長とのやり取りからは,森田教授としてはどれかを選べといわれると,難しいとはいえ3.で増税という選択肢が望ましいのではないかということでしたが。
このような問題に対する解答として,地方分権改革推進会議で議論になったのは「地方共同税」という考え方である,ということなわけです。この「地方共同税」というのはしばしば「地方共有税」とごちゃごちゃになってしまって正確に何を意味するのかわかりにくいのですが*2,森田教授が説明する「地方共同税」とは,国と地方とを分けてしまうことで,地方の中で収支が完結する仕組みであり,税収については,一定の基準に従って配分する(場合によっては地方の間で議論して決める)という性格を持つものであるとされます。ただ地方の中で収支を完結させるといっても地方が仕事を行うために必要な額と一定の基準に従って配分される額で乖離があるので,国が義務付けを行う以上国が補填する必要,これは別のかたちで行われると。ただもちろん義務付け等の廃止に伴ってこれは次第に減らしていくべきということになっていますが。で,このような「地方共同税」については特に地方側から強い批判があって,中身の議論に立ち入ることなくひとつの提案として終わったわけですが,森田教授としては,他にいい提案がないなら叩き台として検討できるのではないかという考えが述べられています。
このような説明に対する委員との討議でまず問題になったのは,「地方共同税」を考えたときにどのような基準で配分するのか,ということ。森田教授の応答では人口と面積などでシミュレーションをやったということで,まあそれに限らずわかりやすい基準で配るべきだろうということ。それを決めるのが誰か,というのも難しい議論になるわけですが,とりあえずは地方側の意向に配慮するべきだろう,というくらいで,あまり具体的な話ではありません。次に議論になるのが地方税の考え方についてで,共同税として地方で完結させたときに最終的な財源選択の手段として地方税が重要になるわけですが,そのときの地方税のあり方をどう考えるかと。ここでの議論は抽象的ですが,小早川委員とのやり取りを中心とした議論では,国から地方への税収の移転を前提としつつ,移転した税収について自主課税権(税率の変更の権限)を伴うことでカバーするのが理想だと。その場合,いわゆる「超過課税」できる税目であることは重要なわけで,その点を考えると地方消費税は重要であるとしてもそういう税率の変更権を行使しにくいという問題は残る,ということが指摘されます。
もうひとつ重要なのは井伊委員との議論です。井伊委員はこれまでの提案からも,「新しい交付金」というかたちで財源保障を重視して,国が地方に義務付けた仕事の執行についての格差を減らした上で,財政調整で地方の財政力を平準化する,ということを主張されているわけで,これは明らかに森田教授と異なる主張になるわけです。この主張と森田教授の主張の大きな違いは,「どのように格差を均すか」ということなわけですが,森田教授の場合は国庫補助負担金と交換で税源移譲をしたうえで交付税で格差を均す,そのうえで場合によっては国から地方へ補填が行われる場合がある,ということですが,井伊委員の場合には財源保障の役割を重視した上で,残る地方自治体特有の仕事をするための財政力格差を均すのが財政調整の役割,という整理になっているかと思います。かなり重要なポイントだと思うわけですが,残念ながら「交付税」「交付金」という言葉について微妙に理解のすれ違いがあるところがみられて,やや議論がかみ合っていなかったように思います。井伊委員としては,国が義務付けた仕事は国が責任を持って財源を調達すべきであるとしますが,森田教授としては地方負担に当たる部分がないと,国の支出が際限なく増えてしまうのではないかという懸念があり,この論点でどちらを重視するかというポイントがもう少し議論されるべきかと思ったのですが。厳格な二者択一というわけではないでしょうが,それこそ森田教授が言うように分権会議のとき以来問題になっている論点ではあるわけで,他の委員の見解が知りたいところではありました。

*1:実はここは先日学会の討論者をさせていただいたおかげで勉強していたところだったので微妙に理解できたものの,そうじゃないと全然わからなそうな話だった。

*2:よくわかりませんが,業界的にはこの違いが重要,ということみたいです。しかしこの二つの違いを正確に説明したとしても,それをきちんと受け取る人がどのくらいいるのかは疑問ですが…。