第88回会合(2009/6/30)

もう随分前の会合になってしまいますが。分権委は税財源について集中的に議論しないといけないこともあるので,これまでの二年間と違って今年は夏休みも開催されるようです。となると追っかける方も大変,ということになるんだろうと思いますが。
さて88回会合は冒頭から波乱(?)。というのは丹羽委員長が骨折されたということでしばらく会合を休まれるということですが。で,その間は西尾代理が会議の運営に当たるということが報告されます。その審議の内容としては,総務省に対するヒアリングのあとに,税財源に関する審議が行われるわけですが,今回からは(後知恵的ですが)このあと数回続く,宮脇事務局長が出した「論点整理の素案」に関する議論が始まるということで,委員会は新しい局面を迎えることになります。
まずは総務省に対するヒアリング。総務省からの説明は,地方制度調査会の今回の活動について,という形で行われていて,いわゆる「平成の大合併」が一応打ち止めになったのではないかという問題意識からその評価・検証について説明がなされた他,主要な論点であった監査委員制度の充実強化(議会選出委員の廃止は失敗),議会制度のあり方といった論点についての地制調の考え方が説明されています。委員との意見交換の時間もありましたが,意見交換というよりも,どちらかというと委員が地制調の議論の内容について確認するという趣きで,具体的には内部部局の共同設置(露木委員),今後の合併への支援措置(横尾委員),特に小規模自治体の事務処理のあり方(小早川委員)といった点についての確認がありました。
さて,この日からはじめる本題ともいえる税財源問題。はじめに横尾委員と井伊委員から,前回にお二人が出した提出資料の説明を行うというところからスタートします。横尾委員の方は,しばしば見られる「地方の主張」のような感じのものをまとめたポジションペーパー,といったもので,具体的には

といったかたちで,前回出てきた森田教授の主張に近いものになっています。発想としては,地方への税源を厚めに配った上で,特定補助金をできるだけ縮小し,足りない部分は基本的に交付税による財政調整というかたちで,なるべく一般財源を増やそうという趣旨になるかと思います。ひとつ大きく違うのは財政調整の原資に対する規律を森田教授ほどは強調しない,といったところでしょうか。この点について関係するのは「法定率を見直す」という話で出てきますが,具体的にどのように規律付けられるかはちょっと微妙なところ。
次の井伊委員は,総務省に対する再質問と税財政の論点整理に向けた意見ということで,後者については特別交付税についての問題意識を示しているということが触れられていました。前者については,地方交付税の機能についての指摘で,以前の井伊委員の質問に対する総務省からの回答で「義務付け・枠付けの緩和」が交付税の財源保障機能に「直接影響を与えるものではない」とのことであるということ(これ自体はまた事務局から説明がありますが)を受けて,国の地方に対する義務付け・枠付けと財源保障の関係を質す内容の説明がありました。その内容は井伊委員が従来主張されているように,現行の交付税制度が財源保障と財政調整を同時に行おうとするために,納税者に対する説明責任があいまいになってしまうのではないか,という趣旨になっています。
次いで,露木委員・猪瀬委員からは新たに出された資料の説明が入ります。まず露木委員は,納税者への説明責任を重視した制度にするべきだ,ということを主張していて,この点から井伊委員の提案に理解を示すものの,格差の是正についてどうなるかわからない,という発言がありました。加えて財政規律を重視するべきだ,ということで,以前提案があった「地方共有税」だと財政規律が取れるのかわからない,というコメントが。それから特別交付税を改革するべきだという話があって,この辺はまあ他の委員と同じ範囲についての議論になっています。で,露木委員の独自路線というのは国税地方税の比率が5:5という言い方ではまだ緩いのではないか,というところで,もっと厳しい認識を示さないとキチンと税源が来ないのではないかという危機感が表明されていました。最後の猪瀬委員は資料として知事会からの各党マニフェストに対する要請というのを出していて,分権委としても政党に対する働きかけができないか,という提案をされていましたが,西尾代理や事務局からは,それは委員会の管轄を考えると難しいという意見が出ていました。可能であれば,西尾代理が主張してきたように,総選挙の前に何らかの勧告を出してそれに対する賛否を選挙の中で明らかにする,というのがよかったのかもしれませんが,政治状況から勧告を受け取る姿勢ではなかったということもあって*1,それはうまくいかなかったという背景があるのは残念なところですが。
で,ここまでで既に長くなっていますが,ここから宮脇事務局長による論点整理の素案の説明が入ります。事務局長の立場としては,地方財政の改革に向けた道筋を作るのは委員で,その前の論点を示すのが事務方ということで,この素案は勧告案を示すわけではないということが強調されます。また,わかりづらいと思うが,委員間で議論するための資料として使って欲しいということで,これまでの取りまとめや勧告を整理したとしています。事務局長は,「研究者としての考え方はあるがそれは出していない」とコメントしているのですが,確かに「研究者としての考え方」とは違うのでしょうけども,宮脇事務局長の独自の世界観?が随所に出ていて,観察している僕としてはどう理解すべきなのかよくわからないところが多々あるというのが正直なところですが…。まあひとつひとつ書いていっても仕方ないので,細かい内容は資料を見ていただくとして,その骨組みだけ見ると,「4つの基本認識」ということで,地方税の役割を重視して自治体が自由度を高めるようなかたちで改革を行いつつ,自治体間の財政力格差を是正し,また経済成長も阻害しないように,という総論が置かれて,あとは地方税・国庫補助負担金・交付税・地方債の順番で各論が並ぶかたちになっています。で,その説明が終わった後に事務局から追加で,各省庁に対する調査からは,「これまでの義務付け・枠付け見直しの作業から,国庫補助負担金の見直しが行われるわけではない」という趣旨の説明が。上述の,井伊委員が指摘していた義務付け・枠付けの見直しを補助金の見直しに繋げることができるのではないか,という議論を否定するような調査結果ということになります。宮脇事務局長の整理と併せて,西尾代理からは,義務付け・枠付けの見直しとは別個の「税財源の観点」から,国庫補助負担金についてどういう改革を求めるか,ということも論点になりうるという説明がありました。
これを受けて委員間の議論,ということになりますが,問題となったのは「地方税比率」という言葉。論点整理素案で地方歳入の中の「地方税比率」を引き上げる,という話が出てきて,これは分母の地方債とか移転財源をいじれば実現することもある,ということで複数の委員から批判が出ます。事務局側の意図については小早川委員が汲んでいて,第一次勧告の書き方を見ると,「地方税比率」という言葉があるけれども,そこには地方税財源における地方税の割合と書いてあるから,そちらの方が基本で,5:5はそのための手段ということになるのではないか,という理解ができるとフォローが入ってます。要するに,出した側としては,分権委の目的が「地方税比率」なのか「5:5」なのかをはっきりさせるべきだ,という議論になっているわけですが,委員からは事務局(長)が何か別の意図があってこういう言葉を入れているのではないか?という趣旨の質問が相次ぎます。最後の方では,一部委員の反対はあるものの,だいたい「目的」を5:5にして「地方税比率」という言葉はなしでいいのではないか,という方向でまとめられつつありましたが。
まあこれに限らず5:5の「運動論的な意義」とか正直なところよくわからない言葉が多くて,それについていちいち議論があったりするわけですが。そうなるのは,委員にとってこの文書の性格がよくわからないって言うのがあるからだとも思うんですよね。いままでは「中間的なとりまとめ」とか「勧告」でそういう文書が出てきたら細かいところを直して承認,という話だったわけで。委員もそのノリで,文書の中で「等」という言葉が何を示すのか?とか聞くわけですが,事務局長からは「それは委員のご議論で」とか返される始末だし,一方で委員が文書の中の言葉について質問しても,事務局長の独特の言い回しで注意深く聞こうとしている方としても煙に巻かれる場合もあります(出て聞いてる人は巻き戻せないのにわかってるのだろうか…?)。税財源がデリケートな問題であるが故に,「誰が文書を書くのか」というのが大きな問題となってしまい,事務局長が可能な限り多方面に中立的に書こうとしていることはまあ理解できないわけではないのですが,ただ「わかりにくい」ことは事実だろうなぁ,と。他方で「わかりやすさ」を追求するならば,はじめに委員間で分権改革の基本的な哲学について議論したうえで,ある特定の考え方に沿って(いわば「書き手」を決めて)やってしまうのが望ましいのだろうけど,今度はそうするといろいろなところから批判を受けることになってしまうことも予想されるわけで。小泉政権時代の竹中経済財政担当大臣がそれに近かったような気もしますが,現状ではそういうわけにもいかない,というのも事実なわけで,やはりかなり苦しい運営が続くことになりそうです。

*1:分権委でも,この間やろうと思えば税財源の議論はできたと思われますし,実際税財源についての意見を出している委員もいたわけですが,委員会としてはずっと義務付け・枠付けとか他のヒアリングをやってたわけで。