第89回会合(2009/7/16)

総選挙ももうそろそろ佳境に。今出ている世論調査の通りだとこの分権委がこれからどうなるのかまたよくわからなくなってくるところではありますが,当面は義務付け・枠付けと税財源,という話になるのでしょう。第88回会合から始まった税財源の議論は,第89回会合も引き続き行われることになります。
冒頭は,鳩山前総務大臣と交代した佐藤勉大臣のあいさつ。政治状況もあり,総務大臣の出席が遅れていることについて一部委員から意見もあったりしたわけですが,スケジュールが合ってようやく参加ということになります。あいさつとしては自らの地方議員の経験を踏まえてやはり改革が必要だ,という趣旨のもの。猪瀬委員と,最近猪瀬委員がよく言及するマニフェストについて,大臣がどうかかわるのか,といったやり取りもありましたが,大臣からはまああれは政府ではなくて党の立場でやるもんですから党との議論が重要という至って当然の答え。
続いては文部科学省に対する教育委員会についてのヒアリング。もうこの話もやや食傷気味ではありますが,文科省からは教育委員会の意義として,政治的中立性の確保,継続性・安定性の確保,地域住民の意向に配慮する,というような趣旨があげられていて,基礎的自治体への権限移譲も進めているし,必置を前提としても最近何とか工夫していますよ,ということが述べられます。しかしこの話を聞くたびに思うのですが,文科省はいつもいつも教育においては「政治的中立性」が重要だというわけで,そうすると議院内閣制の政府で首相の指揮下にある独任制の文部科学大臣が管轄する文部科学省の政治的中立性はどうなんだ,と思わずにはいられないですが。この点たとえば民主党政策集INDEX2009で中央教育委員会の設置を謳ってるわけですが,それが良いか悪いか別として,これを言われた時に文科省がどういう反論をするのかややミモノ。その反論は地方の教育委員会制度についての自らの主張と矛盾なくできるものなのだろうか。
まあそれはいいとして,今回の会合での委員と文科省の間で行われた議論の主な論点は,「どのように必置規制をやめるか」という話に見えます。文科省としては,「現状の制度の中で必置規制だけを外すのには反対」ということですが,委員の中で以前に地制調に参加していた西尾代理や小早川委員は,地制調としては文科省を差し置いて細かい制度設計を議論する状況にはなく,一連の提言に対して文科省は常にゼロ回答,それ以上の代替的な制度設計を示してこなかったというのが問題ではないかと指摘しています。地制調では少なくとも執行機関である教育委員会に変えて,執行は首長部局が行うとしても,少なくとも諮問機関としての審議会のようなものがあってもよいのではないか,という趣旨で議論していた,ということだそうです。地方側としては,一般的な執行機関である首長部局から半ば独立した存在として教委があり,ここで教員の世界が構築されてしまっていることが問題であるとしていて,他の政策分野(たとえば保育,私立学校)との総合調整も困難になっている部分があることから,教委制度に価値があるとしても,せめて選択性を考えるべきではないか,ということになります。大分県教育委員会汚職の問題もあって,文科省としても現状で問題がないと言わないが…ということのようではありますが,かといってどうするかという見通しもない,というのが実際のところという感じでしょうか。
続いて税財源,という話ですが,その冒頭では税財源とちょっと外れて知事会のマニフェスト評価の話に。猪瀬委員から,知事会でマニフェスト評価の基準案が出たことから,それについて知事会の代表者からヒアリングしたいという希望が出ます。露木委員・横尾委員からは賛成というコメントですが,西尾代理と小早川委員は,野党案の議論を政府の審議会でするのはどうなのか,という観点でやや慎重。ただ今の時点で,点数をつけた結果を聞くというのではなくて,「どういう評価をしようとしているか」ということならば,地方が何を重視しているかという話になると思うから聞いても差し支えないのではないか,といったようなスタンスとなっています。これについては次回の会合でも若干話し合われることになります。
本題の税財源の部分については,まず井伊委員と横尾委員から補足の資料説明があります。ここでは井伊委員が,従来の両委員の議論を敷衍した資料をもとに「財源保障と財政調整の分離」,横尾委員が「財源保障と財政調整は一体不可分」と主張していますが,この時点で両方の立場から議論が行われるわけではなくて,基本的には一方通行な説明となっています。それから猪瀬委員が自由度が高く普遍性と安定性が重要という原則を強調するとともに,去年の4月に問題になった揮発油税等の暫定税率について単純に廃止するという議論に反対するという主張がなされていました。
続いて,前回事務局長が出された「論点整理素案」に基づく議論になるわけですが,事務局長からは,前回の議論を踏まえると税財源の問題について現状においてはこのまま事務局で整理できない,ということで,委員間での議論が必要であるとしています。その議論の方法としては,「素案」に手を加えることはせず,今回提出される「補足資料」を議論のための参考材料として利用して進めていってほしいということが表明されます。事務局長のポイントとしては,この委員会が時限のものであり,文章の意味や語句の定義を詰めておかないとあとで解釈が色々出てしまうので詰めて欲しいというのが趣旨であるとされています。その具体的な例が,前回議論になった「地方税比率」のようなもので,今までの勧告やとりまとめでは国と地方の税源配分なのか,地方税が地方歳入に占める比率ということなのかはっきりしないからあとで困る,以前に委員長から委員会として5:5を決めたわけではないという発言もあるわけで,委員会として目標にするなら明確に決めて欲しいという旨説明されます。整合性をとろうとして批判されたということになっている去年の第二次勧告のときの再審議のような話は避けたい,ということもあるかと思いますが。で,具体的な手順としては,各論点で<検討の視点>とあるところについて,委員同士の議論で詰めていく,ということになるようです。
ここから各論点に,と行きたいところですが,まだもうひとつ。これまでに税財源についてはほとんど意見を表明していなった小早川委員から,口頭で税財源の改革についての考え方が説明されています。内容は非常に穏当,といったところですが,地方税によって財源を賄うのが重要で,その地方税をいかに確保するかは住民の選択による,というのが理念的には基本になるとされています。補助金交付税のような財政移転の制度についてもコメントがあり,これはとても整理された内容だと思われるので,一応そのまままとめてみます。

税源を充実するという場合に,ひとつは国庫補助負担金を整理してその原資を地方に移すということだったが,それにも限度があると。もちろんやるべきだと思う,また申し上げるが。それと増税ができるのであればそれも加えるということであろうと思う。国庫補助負担金を減らして地方税に回せるかということだが,これは色々な観点からご発言があるところだと思う。結論からいうと,いまの国庫補助負担金の仕組みの中で,どうしても国が全国一律に制度を作りそれを運用していかなければならない,社会保険なんかではよくある話だが,そういったところでは最小限そういう制度を運用していくための財政設計責任みたいなものは国にあるわけで,その財源について地方が自分で考えろということにならない部分があると思います。地方がそれに回せるだけの一般財源を用意するのが一番いいだろうが,国の負担金を残す部分が出てくると思います。問題は何がそれに当たるのかだが,そこは厳選していかなければならない。機関委任事務のような,国にも地方にも関係があるから割り勘といういい加減なやり方ではだめだと思います。そこは役割分担の原則に照らして現実に考えるべき。
国が財政設計責任を負わないものをできるだけ多くとったうえで,それについては現在の補助金・負担金,もう既に減っていると思いますがそれを原則としてなくす,そしてその分を地方税に回すということだと思います。地方税源充実という場合に,具体的には地方消費税の問題があるが,あれは技術的には各自治体の税率変更権を認めるのは難しいと思うが,最初の原理的な出発点からすると,国の都合で税率が決まるというのはおかしいわけで,そこは地方の意思を,地方消費税なら地方消費税の税率決定にどうやって反映させていくかというしくみなりプラクティスなりが重要だと思います。その辺は具体的には重要な点だと思います。それがあれば,個別の課税自主権は認めないにしても,一応改善にはなるのではないかと思う次第です。
地方税源充実というのが基本でありまして,それができるならその分だけ,交付税は総額が減ってもいいのであろうと。機能的には財源保障部分の機能よりは財政調整の機能,中小の自治体のためという性格を強めることになる,それはそれでいいことではないかと思います。そういうわけで,5:5の話ですが,理論的には宮脇事務局長から説明があった通りで,自治体にとっての地方税比率を高めることは出発点の考え方には適うわけですが,そのためにはやはり,それだけ言っていますと,地方税以外の財源を減らせば地方税比率は高まるわけですから,それでいいじゃないかととんでもないことになるわけでして,そうでないためにはやはりパイを増やすということが必要で,目下のところ,これまでの議論の流れではさしあたりそこに焦点を当てて5:5といってきているわけですから,私も現段階では5:5の旗はきちんと掲げるべき,5:5で足りるか,という意見はあるでしょうが,少なくとも堅持すべき,以上です。

地方消費税の税率決定に関する議論や税源移譲と交付税の関係などは,これまでに出ている中では比較的井伊委員に近いのかな,という印象を受けます。前段の部分についても,単に補助負担金の削減を言うのではなくて,国が制度設計をする部分についての補助負担金は厳選した上で,ある程度残るのはやむを得ないとしているところも通じるのではないかと。まあただこれは小早川委員が言う「役割分担の原則」をどの程度厳格に考えるか,といったところが問題になるような気がします。役割分担を明確に分ける,ということにすれば井伊委員の考え方と近いし,あるいは国が制度設計した仕事において財政的にも地方がある程度の役割を果たすべき,ということであれば従来のいわば融合的な文脈でも議論できるところなのではないかと思います。
で,ようやく個別の論点に入っていくわけですが,今回の会合で議論になったのは,「5:5をどうするか」というテーマと,「税制抜本改革との関係をどう考えるか」というテーマ。まず5:5の方については,西尾代理のまとめでは,西尾代理と猪瀬・小早川・横尾の各委員が賛成,露木委員は5:5ではまだ十分かわからない,井伊委員は5:5を目標にすることに納得いかない,ということであとは委員長のご意向ではないかと。そのうえで,前回出た「地方税比率」をどう考えるかについての議論になるわけですが,西尾代理からは,「国税地方税の税源配分の比率を問題にして,5:5まで高めれば,年々の変動はあるものの地方税財源における地方税の比率は高まるということで,要するに矛盾はしていない」という観点から,「地方税比率」についてこれからは「国税地方税の比率」と注意書きしておけばよいのではないか,という提案がなされます。なお,「5:5ではまだ十分かわからない」という意見とされた露木委員は,5:5というだけではこれから地方消費税を縛られて固定資産税や住民税の増税が求められる可能性があることに懸念を示しているようです。
次の税制抜本改革の関係というテーマは,5:5の話とも関連してるわけですが,要するに地方消費税を含んだ税制改革のときにいっぺんに国税地方税の比率を変えるようなことを目指すべきかどうか,という議論です。この点についての西尾代理のコメントは,国税地方税の比率を変えていま組み替えろという議論もありうるが,それでやると三位一体と同じことになるので,大きな改革をするときに,パイ全体が膨らむという理解が必要ではないか,そうでないと国と地方双方の傷が深まる,というもの。まあ個人的には「パイ全体が膨らむ」って言っても別に税金とるからってその税金のもとになる経済の方のパイは広がらないのではないかと思ったりするわけですが…。まあそれはいいとして,具体的にこの委員会で「こういうかたちで税制改革しろ」とは言えないとしても,実際に税制改革がおこなわれるときに「こうしてほしい」とは言えるのではないか,という話になります。これに対しては,以前委員長も税制改革前にできることがあると主張していたことにも言及があり,また,今回の会合では露木委員から,今やれることをきちんと打ち出すべきという意見が出されています。ということでこの点についても必ずしも意見の一致は見てません。そういう場合について西尾代理からは,最終的には票決のようなかたちで決めていかなくてはいけないかもしれない,ということが示唆されていますが,このように各論点で委員の意見が錯綜するときの決定の仕方についてはまだよくわかりません。さすがにはっきり議論があると「事務局提出の素案」でまとめるわけにもいかないと思うのですが,この辺はまあこれから,というところでしょうか。