第90回会合(2009/7/21)

最近観察記録を書くのがだいたい一月遅れで定着してしまっているような。これはまずい。しかもこの選挙のあとはいろいろ観察しなくてはいけないことが増えることが予想されるので,なんとか追いつかなくてはと思うところですが。
さて90回の会合は,税財源の議論を一回お休みして省庁ヒアリング。今回の対象は総務省農林水産省です。総務省には分権委としても一次勧告のときから関心を持っている財務会計制度についてのヒアリング。総務省の説明としては,地方自治体の財務会計における透明性の向上と自己責任の拡大の観点から見直しは必要としつつも,国の財務会計制度との均衡にも留意しなくてはいけない,という趣旨のもの。具体的な論点としては,まずこの分野で地方自治体をリードしていると考えられる東京都の副知事・猪瀬委員が提起するもので,複式簿記・発生主義の企業会計に準じた制度の導入を進めるようにするべきではないかという議論。総務省としても,いまの考え方では,そこで作られる決算書類が必ずしも地方団体の財務状況を説明できていないところがあるとして*1貸借対照表,行政コスト計算書,純資産変動計算書,キャッシュフロー計算書といった財務四表を順次導入するようにしたいとは考えるものの,現時点では現金主義の考え方は捨てられないという立場をとっていることに加えて,非常に先進的な団体とそうでない団体の差が非常に激しくなっているという問題もあることも指摘されています。また,もう一つの論点としては,財務会計制度を導入するときに地方自治体に生じるシステム投資への負担が過重になるのではないか,というもの。横尾委員からはITシステムベンダーを潤すだけのようなことをしてはまずい,ということで,総務省で標準的なパッケージソフトを作るなりして欲しい,という意見も出ますが,現状の問題点として指摘されているように,実は自治体間での差(というか違い)が大きく出始めている現状で,また規格化するのも簡単ではないだろう,という問題も。まあやるなら早いうちがいいとは思いますが。
次は農水省農水省ヒアリングはテーマが二つあって,まずは農業委員会について。これも教育委員会と同様でいつもと同じ議論ですが,農地の移動という個人の財産権に対して介入するという性質をもつ農業委員会の業務にあたっては,公平中立で高い専門性が求められるということ。そしてまた一方で,地域の事情によく通じていなくてはいけないと。で,そのためには基本的に農業者がやらないといけないという話。加えて,先の国会で議論された農地法改正があって,農地の権利移動に関して農業委員会が果たすべき役割が増えているからますますその重要性も高まっている,と。このテーマについて積極的に発言していたのは露木委員で,選挙が不活発になっている点や自治体の財政難を受けて農業委員会(特に事務局)に振り分けられる資源が減っている点,さらには公平中立で専門性が高いといっても地域の代表であるわけで,地域の利害の虜になっているのではないかという点を指摘しています。まあ全てもっともな指摘だと思われるわけですが,これに対する返答は基本的に原則を繰り返すのみで,資源の不足についても「協力員を置く」という微妙なもの。露木委員の「農地の適正な管理が非常に重要な任務を帯びてくるということになると,専門的といって農家が入るよりは,本当の専門家が入って権利移動をチェックする機関が必要ではないか」というコメントは,ちょうど昨日の日経新聞・経済教室に出ていた明治学院大学の神門先生の,そもそも現在の農業委員会がちゃんと機能していない,という主張とも通じるところですが,原則を繰り返す農水省の立場から言うと「農業委員会が機能していない」という状態はあり得ないわけで,どうしても議論がやや噛み合わない状態になってしまう感じです。
農水省ヒアリングのもうひとつのテーマは,旧食管部門の不祥事の問題について。食糧業務については分権委の二次勧告で独法化も含む抜本的な見直しが謳われていたわけですが,その後の工程表では,食糧業務のもとになる食糧・農業・農村政策本部のもとで基本計画の抜本的な見直しが始められたことを踏まえて,それとの整合性を配慮しながら的確な執行の在り方を検討するという表現になっています。露木委員からはそういう変更で二次勧告の意図(独法化を含んだ見直し)は残るのかという質問があり,説明した内閣府の担当者からはそれは残るという返答が。まあ「検討」ですが。続いて不祥事を起こした当事者である農水省からの報告ですが,今回の不祥事は食糧行政の業務統計を取るところで起きた問題であり,これまでまあいわば不要の統計を惰性で残してきてしまったものがあったので,その見直しを含めつつ,業務統計の一部を食管部門から統計部門の方に移す対応をとった,というもの。これに対して露木委員からは,農水省がとっている統計は専門性が高いから地方に任すことができないという話ではなかったのか,これでは専門性云々ではないだろう,という趣旨の質問がでます。はじめ僕もよく分かってなかったのですが,農水省の言い分としては,「専門性が高い」のは農林統計を専門にやってる方であって,今回の不祥事はあくまでも食管部門の業務統計での問題であるということらしいです。だから,猪瀬委員や横尾委員からも,国と地方の役割分担に関連した見直しをするべきだという主張が出ますが,農水省の側ではあくまでも省内の問題として対応したいし,見直しをするなら食糧・農業・農村基本計画の見直しとの関連でやりたい,というところ。結局のところ,従来からずっと問題になっている農水省の食糧部門の人員整理をどうやるか,という話で,最近は行革の流れで配置転換をしているわけですが,委員の側としては国と地方の役割分担を再整理する観点からやるべき,という議論をしていて,農水省側はこれまでの行革に沿って中央省庁の中での配置転換という形で進めたい,ということになるのでしょう。こういう人の移動の問題は二次勧告で取り上げられて,

  • 人材の地方自治体への移管等について総合的な調整を行うための国と地方を通じた横断的な組織(調整本部)を設置
  • 人材の移管にあたって必要となる制度的な措置(退職金の負担、身分取扱い、給与を含む処遇上の取扱い等)の具体化
  • 人材の移管にあたっては、地方に移譲される事務・権限を実施するために必要な資質や能力を備えた人材が十分に確保されるよう配慮
  • 事務・権限の廃止・縮小や、組織の統廃合等に伴う要員規模のスリム化については、一定の期限を設けて計画的に実施

ということが書き込まれているわけですが,このあたりをどういう風に進めるか,という問題とダイレクトにかかわってくるところなのだと思われます。
最後は,前回も少し議論に出てきた知事会・市長会にマニフェストの評価についてのヒアリングをかけるか,という話が出てきます。猪瀬委員は政令指定都市市長会なども呼ぶべきという主張をして,それに対して西尾代理は六団体とは違うということで否定的(ただし,直轄事業負担金問題のように市の中でも指定都市だけ係る問題については肯定的)。まあ基本的には委員会がお呼びする,というかたちではなくて,向こうから話がしたければ,ということのようですが。後知恵的ではありますが,結局のところ直近の8月27日の委員会で六団体のうち執行三団体(知事会・市長会・町村会)の代表を呼ぶことになったようです。

*1:特に問題点として挙げられているのは,経常経費と投資経費の分離。これは非常に重要な論点だと思うものの,実は交付税の元利償還をどう考えるか,みたいな問題ともかかわってくるので財務会計のところだけでは論じられないところもあるはず。