第91回会合(2009/7/28)

早いものでもう9月。中旬には鳩山総理,という話ですが,分権委はどうなるのだろうか。新聞報道などを見ると,民主党としては比較的好意的に見ているらしい(ただ「分権委よりやる」と言ってるらしいが)。今朝の時事通信・官庁速報では,今日の会合で第三次勧告の素案が出る(義務付け・枠付けに限定)という話だったので,これはもう一回くらい叩いて鳩山新総理に手交する,というかたちになるのだろう。いきなり受け取れるもんなのか,というのはよくわからないところではありますが,一般というより政治関係者の間で分権が大きなテーマだったことを考えると,スタートアップで取り組む課題のひとつになるのかもしれない(鳩山代表第一声で「地域主権は一丁目一番地」と言ったとかいう話もあるし)。ただ,選挙の後のいろいろな話を見ていると,民主党は本当に「政策決定過程」をよく勉強しているんだなぁ,というのがよくわかる。実質的な政策云々よりも「政策決定過程」に関する決定というある種のメタ決定がアジェンダになっているのが面白い。さらに興味深いのは,あくまでサンプルが限られているけども,別に政治学や経済学が専門でなく,官僚でもないような方もこの論点に興味を持っているのではないかと思われるところ。最近,僕の研究を知っている人からは割と意気込んで民主党の政策決定過程のあり方について意見を求められたりするのですが(まあ他に話すネタがないということなのかもしれませんが),こっちも初めてだしよくわからない中で,本当にいろいろ知識を仕入れてるんだなぁと思ってしまう。これはやっぱり今回の選挙の主要なアジェンダのひとつだったということなのではないか。

国土交通省ヒアリング

さて,分権委の観察は91回目。この回は国土交通省ヒアリングをやったあとに税財源についての論点整理の続きが行われています。国土交通省ヒアリングはまず北海道開発局関係から。第52回でも不祥事で北海道開発局が問題になっていましたが,今回はそのとき(農業土木関係)とは別の,車両に関する入札での不正が問題にされています。北海道局の方では,内部統制の強化・コンプライアンス強化計画を作ってやってきたことを踏まえて,今後は人事配置・業務の見直し,入札プロセスの見直し,職員のコンプライアンス強化の取り組み,監察機能強化を進めるというわけですが,短期間に続けてということなのでどうも説得力が弱い。まあ考えようによっては集中的に「膿を出す」作業を進めているのかもしれませんが…。委員会の方では,主に猪瀬・露木の両委員から,前回の問題と同様に北海道開発局の問題として捉えて,北海道で独立王国のような状態になっているのは監視の目がないからだ,この際道庁と合併したらどうか,というような指摘が相次ぎます。国交省の方ではまあもちろんというか,そこまでは言わないのでとにかく(汚職の温床とされた)委託の数を減らし競争性・透明性を確保します,というしかないわけですが。
続いては道路・河川の移管に係る協議の状況と直轄事業負担金の見直しについて。国交省の総括審議官は,都道府県との協議については何回も「きめ細かく」を繰り返していてまあとにかく誠意を持ってやってるんだということを主張します。これに対して横尾委員からは,九州で国交省が誠意の見えない?対応をとったという話や,「きめ細かく」といっても個別の事業に関する協議回数は非常に少ない,というような指摘が。まあそれに対しては「きめ細かく」としか言いようがない,といった感じでしたが。次に露木委員が,主に直轄事業負担金の中身についていくつか質問。抽象的に言えば,国の役割と地方の役割をはっきり分けるべきだ,ということを特に技術・研究の分野で議論していたのですが,国交省としては簡単には割り切れないという趣旨の,まあいつもの答弁。あとは猪瀬委員が東京都の取り組みを紹介しつつ,国交省が(自分の提案する?)呼び水に乗ってこないことを非難していたようですが,これはあんまり詳しいことはわからず。

税財源・論点1

続いては税財源の論点整理へ。はじめは論点1「税制の抜本改革」を見据えた消費税に関連する議論から。口火を切った露木委員は,税制抜本改革を待つまでもなくできることをきちんと主張すべきだ,という意見。具体的には地方消費税を国の消費税から分離独立したうえで,その充実を図り,偏在性の高い法人税との交換などで踏み込む必要があるという話。近い立場は井伊委員で,それに加えて地方消費税だけではなく固定資産税や住民税についても考える必要があるのではないかという指摘が。それに対して西尾代理のコメントは,両委員の意見に理解を示しつつも,抜本的改革の時にはこうして欲しいということとは別に,その前にするべきことも勧告になる,というやや離れた立場。全体的には税制抜本改革で消費税を増税するときに,税調を中心とした機関が細かい議論をすればよいのではないか,というご意見のようです。ただ地方消費税を拡充し法人税を減らす,という方向性については共有している感じで,違いはタイミング,というところかと。この方向性についてやや違う意見を持つのが猪瀬委員で,さすがに地方法人税を強調するのは難しいけど,地方の「やる気」を活かすためには法人税が重要だよね,ということを主張する感じ。まあ東京都副知事,ということなのかと思いますが…今から思うと東京DCの話が懐かしい*1
全体の方向性の話のあとに出てきたのは権限移譲と財源の関係について。特に第一次勧告以来出ている都道府県から市町村への権限移譲を進めると,その分財源も動かさないとねぇ,という話になります。他に直轄事業負担金がらみで,現在の直轄事業の一部をたとえば都道府県に移譲したらやっぱり財源も移さないといけない,というのも。これもよくある話ですが,既に(国と都道府県の協議で)移管が決まった事業を踏まえて税財源に関する勧告をするのか,それとも分権委が考える権限移譲を満たすようなかたちで税財源に関する勧告をするのか,という論点になるわけです。加えて,二重行政を廃止するんだから二重になってる部分は削れるんじゃないか,というのもかかわってここはなかなかややこしいところ。若干錯綜している論点なので,委員の間でもいまいち論点が共有されていない感じで,あまりまとまった意見が固まったわけではないですが,なんとなく権限に見合った財源をつけることは大事で,また移管するときに「国に無駄がある」ことを過度に強調することはやめよう,という感じでしょうか。後者については地方の意見という感じですが,前者の方はいまいち共有されていないので,また何回か蒸し返されることになりそうです。

税財源・論点2

続いて論点2。これは「標準税率」の制度上の位置付けや「超過課税」という用語の問題,さらには法定外税についてどう考えるかということになります。この辺は主に第84回で土居慶大教授が指摘していたところですね。この論点も,委員によってはどうも事務局が出してる意図がいまいち伝わってないところがありますが,議論を聞いているとおおむね以下のようなイメージ。つまり,現在の「標準税率」は交付税制度において基準財政収入を算定するときの基礎になっているものであるので,地方自治体が「通常課すべき」税率であるという規範性は要らないのではないか,という話。ただこれが実質的に問題になってくるのは,名古屋市のように減税しようというときに,地方債の起債がちゃんと認められるのか,というところ。「標準税率」以下に減税しようとすると地方債発行で総務大臣の許可がいる,となるわけですが,そことの関係をどうするかと*2。あとは実際のところ「標準税率」を超える課税というのは難しいし,それは大した額にはならないからどうすんの,という話になってます。まあこの辺は個人的には論文書いたりしているところですし,ポシャったけど秋田県の「子育て新税」のような感じで限界的な歳出のための税金というのはストレートにアジェンダになるのではないかと思うのですが,委員会の議論としては,やっぱり大物=消費税だよね,という感じ。

財政再建と税制改革 (財政研究 第 4巻)

財政再建と税制改革 (財政研究 第 4巻)

税財源・論点3

で,次の論点3は地方消費税を独立税化し,その充実を目指すという論点。主に井伊委員が主張しているところですが,現在の地方消費税が「国の消費税」を賦課ベースとしてその1/4とされていることについて,国の消費税と賦課ベースをそろえた上で税率を設定した方がよいのではないか,という問題。井伊委員の主張は,国の消費税を上げようとするたびに内閣が何回も倒れていることを考えると,現在の設定では国の消費税を上げるのに連れて地方消費税が拡大するので,まあいわばタダ乗りみたいになってしまうのではないかというもの。地方も何らかの形で説明責任を果たすべきだ,というわけですが,これについて西尾代理は否定的というか,立法技術の問題に過ぎないのではないか,という意見。その意見の背景には議院内閣制のもとでは地方が説明責任を持つというのは本質的には不可能,というのがあるように思われます。具体的には小早川委員が言うように,「実際の立法過程に地方がどう参画するか」という問題がどうしても付きまとうわけで,この点は「国と地方の協議の場」の在り方の問題に関わってくることになるのではないかと。

税財源・論点4

この日の最後は論点4。この委員会でしばしば議論されてきたように,義務付け・枠付けを緩めた時に補助金の要綱だけが残ってそれで縛られるのはどうかと。ただ小早川委員が常々指摘したように,今回の義務付け・枠付けの見直しは,該当する事務事業それ自体をやめるべき,というような話ではなくて,国が地方に仕事を義務付けていること自体は所与として,そのうえで細かい義務付けを外していくというものなので,税財源の議論とリンクさせるのはなかなか難しいという話なわけですが。西尾代理は,三位一体改革のときに義務教育国庫補助負担金に関する議論で出てきた「総額裁量制」に近いかたちで制度を運営するということに近いのではないか,ということですが,それはきっとその通りなのかと思います。必ずしも国庫補助負担金を廃止して一般財源化までする,というところまではいかずに,現行の負担金を執行するときの裁量を増やすという趣旨かと思いますが,実はそれなら委員である程度コンセンサスがとれるような議論ではないかと思います。猪瀬委員・露木委員の主張では一般財源化まで,という議論が多いように思いますが,負担金自体は残してそこでの裁量を増やすということになると,井伊委員や小早川委員の主張とは整合的なのかな,と。まあ今回は時間もないので論点4はさわりだけでしたが。
うーん,論点をつぶしていくということになると,ある程度議論が明確になる気はしますが,エントリが長くなるという問題が…。どうしようかなぁ。

*1:当時はこのブログの観察記録も相対的に短かったのでしたorz

*2:とはいえ,現状としても個人的には減税を理由に不許可にするのは難しいと思いますが。