第93回会合(2009/8/17)

分権委はこれから義務付け・枠付けに絞った三次勧告を出していくわけですが,時事通信の官庁速報によれば,こんな話も。

ある民主議員は「党はこれまで『受け取る』とは言っていない。受け取らない可能性も否定しない」と語る。一方、別の議員は「分権委の義務付け見直しは評価している。突き返すことはないだろう」としながらも、「勧告を尊重するのか、受け取ってそれを参考に別途検討するのか、いろいろな『受け取り方』はあるだろう」と推測する。(2009年9月14日)

たぶん義務付け・枠付けだけを独立して三次勧告にするのは,税財源の部分に対する民主党の対応が微妙でよくわからず(だってあんなに自分で配るっていってるんだから,地方に回す資源があるわけじゃないでしょう,と),まずは評価されている義務付け・枠付けから,ということだったんだろうと推察するわけですが,それすら受け取ってもらえるかわからないということになるとこれは厳しい。まあとはいえ,義務付け・枠付けの見直しは地方からの強い要望があり,地方が概ね評価していることを考えると民主党は受け取らざるを得ないのではないかと。ただ他方で,ここで受け取ると次の勧告も受け取らないといけない,って思ってるからグダグダいってるのかもしれない。あるいは忙しすぎてそこまで考えてる場合じゃなくて,考えずに受け取ってあとで手を縛られるのがいや,っていうだけかも。まあでも他の政策についても思われることだけど,それしか言わないであろうマスコミに,「ブレる」といくら言われたとしても,大方針さえ変わらなければ,なぜ途中で細かい内容が変わることがあったのかということさえきちんと説明すればいいような気もするけど。今回自民党がきつかったのは,「なぜブレたのか」を説明せずに「ブレてない」と言い続けてたから,というところも大きいわけで,民主党の場合は(特に官僚機構に対して)一度上げた拳をどうやって下ろすか,ということが課題になるような気がします。
さて,分権委はしばらく税財源の議論を続けていますが,論点整理については今回の議論で終わり。これで89回会合で宮脇事務局長が出したペパーについて一応ある程度詰めたことになり,今後はその整理に沿って議論が進められていくことが予想されます。というわけで,この観察記録でも今回まで論点整理にそって議論を見ていきます。

税財源・論点7

前回の続きではありますが,地域間の財政力格差の問題で,狭く言うと「地方共同税」「地方共有税」の考え方についてということ。その中身の多くは「共同税」「共有税」の定義は何ぞやという話だったりしますが。現在のところ政府部内で別に両者について定まった定義があるわけでもなくなかなか難しいところですが,事務局長や前田参事官からの説明によれば,

共同税:地方の共有財源という性格を明確にする観点から独立化,一定の額の中で地方の需要をまかなうもの。一定額の中で地方の財源が確保できないなら,国が補填措置を講ずる前に共同税で財源確保を目指す。
共有税:地方交付税は国の一般会計に国税として入って交付税特別会計に繰り出されるが,共有財源という性格を明確にするため,特別会計に直入されるという方法をとる。そこから先はいろいろパタンはあるが,過不足が生じた場合特別会計で年度間調整を行うこともありうるが,他には国から所要の制度改正を行う(法定率の変更)こともありうる。

という感じです。なお共有税については,72回会合上智大学の小幡先生が報告した新地方分権構想検討委員会での報告から流れているものだということのようです。一応「元ネタ」があるためにこちらの方の説明がより具体的で,現行の地方交付税から「間接課徴形態の地方税」(つまり地方税なんだけど国税として集める)という性格を明確にする,という話。で,明確化のために国の一般会計を経由せずに財源を共有税の?特別会計に直入するんだ,ということだそうです。特に共同税の方は詳細な制度設計もわからないので難しいですが,このテーマに関する重要な指摘は小早川委員から出たものではないかと思われます。つまり,現在の交付税では鍵となるのが歳出の需要額の見積もり*1で,そこから足りなければ特例加算なりなんなりで,法定率にとらわれずに制度を動かすという発想だが,少なくとも共同税についてはそこはすっぱり切れていて,これだけは共同税の税源として保証する,後は何も保障しないという制度設計になっていると。それに対して共有税の方はそこのところがよくわからない,と。個人的には共有税の方は特例加算ではなく法定率を(数年スパンで?)いじりたい,という趣旨なのかと思っていたところで,ぜひこの点を詰めておいて欲しかったのですが,丹羽委員長がなぜか突然決算乖離の話を持ち出して残念ながら流れてしまいます。ただまたあとで少し出てきたときに,西尾代理から総額確保のあり方について,例えば三年くらいの期間で法定率を協議し,年々の過不足は特別会計の中でやるということでやれば,今までよりは国の財政と切れるわけで,地方の方でそこの覚悟をするかどうかが問題だ,という指摘がされています。露木委員はその覚悟が重要な問題というコメントをしていますが,他の委員からは特に何もコメントがなく,詳細な詰めでは交付税・共同税・共有税に関するここのところの議論が欠かせないように思われます。

税財源・論点8

論点8については,財政調整機能の強化に向けた調整財源として地域偏在性の大きい税目を充てるという考え方についてどうか,ということで,要は地方法人税のような税を財政調整に使うべきではないか,という発想に対する議論になります。委員の間では猪瀬委員からは法人税を国が「召し上げる」のは「地方分権に逆行する」という意見が出ていますが,他のコメントをしている委員からは,地方税の方に安定的な税源が行くことを重視している感じで,調整財源についてはあまり触れられてはいないかな,というところです。何かほとんど議論されず次へ。

税財源・論点9

主に井伊委員による財源保障と財政調整の分離,という提案についてですが,ほとんどの委員は否定的でほとんど議論がないまま飛ばされそうになります。井伊委員はこれまでの提案に沿って説明していて,典型的には生活保護のように,国が100%負担するような事務とそうでないものについて,専門家の議論を踏まえてきちんと分けなくてはいけない,と主張するわけですが,他の委員のコメントはナショナルミニマムなのかスタンダードなのか(丹羽委員長・横尾委員)とか,国家警察になるのではないか(西尾代理)といったような,具体的に何をどのように100%負担するかという実質的なところでの議論に突っ込んでいるところがあり,全体的にどうも噛み合わず。建設的な意見としては,西尾代理と露木委員から出ていた東京のような財政力の強い大都市に100%の交付金を出すと逆に格差が広がるのではないか,というところに対する懸念でしょうか。まあ分権委では2年前の「中間的なとりまとめ」などで大都市問題に言及しているところを考えると,大都市問題とセットで考えられてもいいように思いましたが。

税財源・論点10

地方自治体にとっての予見可能性の向上,というテーマですが,これまでに論点6などで交付税の簡素化が多少触れられていることもあってか,議論の中心は特別交付税へ。制度の細かい解説は他に譲らせていただきたいところですが,特別交付税交付税全体の6%を使って,大きな災害などへの対応に使われるほか,全国画一に用いられる普通交付税の単位費用にうまく入らないような地域ごとの特別な需要に対応するものということになっています。委員から出されていた指摘としては,この特別交付税の中で特定地域での財政需要で恒常的になっているものは特別の経費といえないのではないか(だから単位費用に回す??),といったポイントや,詳しい説明はありませんでしたが,地方公務員の地域手当に対する超過支給を理由に,特別交付税での地域手当の超過額見合い分が減額されたような事例*2から,総務省の裁量が強すぎることへの批判などがありました。で,結局よくわからないところが多いので,詳しい話は総務省からヒアリング,ということになります。まあこんな感じで基本的に特別交付税の話で終わり,ホントはここですることになっていたであろう新型交付税のような議論がなかったのはどうかな,というところがありますが。

税財源・論点11

次は地方債。宮脇事務局長から示唆されているテーマは,地方債の自由化,債務調整について,それから地方債の交付税措置をどう考えるか,といったところ。長くなってくると観察している僕も疲れてきますが,もちろん議論している分権委も大変なわけで,この辺り個別の論点として分けていてもいいような話がひとつの論点に入ってわりと大括りの議論になっているような感じがします。
議論のとっかかりは地方債の交付税措置について。まず丹羽委員長が「経営の視点」から,責任の所在がわかりにくくなる元利償還のようなものはやめるべき,と主張し,露木委員も地方自治体のインセンティブを歪める恐れがあるからやめた方がいいとしています。ただその後露木委員は付け加えて,やめてしまうと財政力の弱い小規模自治体では金利が高くなってしまい地方債を借り入れることができなくなる可能性があるのは問題だろうと。この点については横尾委員が賛同しているほか,西尾代理からは元利償還が問題であるとしても,地方交付税総額が足りないということで出した臨時財政対策債のような赤字地方債と普通の建設地方債を分けて考えるべきではないか,という指摘がされています。話はだんだん地方債の自由化という論点の方に移っていって,自由化の方向に向かったときに小規模自治体はどういうかたちで起債するか,が焦点になります。委員の間からは,住民参加型市場公募債のようなものもある(猪瀬委員),あるいは共同発行がありうるのではないか(小早川委員),というコメントもありますが,小早川委員・露木委員のコメントで示唆されるように,本質的には国が政策的に重要だと考えていること(あるいは誘導したいこと)を地方に「行わせる」ときに地方債という手段を使うべきか,という議論になるように思います。ここのところは必ずしも委員の意見は一致していなくて,その後西尾代理や横尾委員からは,国が経済対策のような場面で地方の協力を求めて,地方債を保証することが必要になることもあるのではないか,とする意見もあります。
そのあと,債務調整についての議論になるのですが,金融機関の貸し手責任のような議論でいくのかなぁ,と思いきや,まあその裏面の話ではありますが,「政府保証で地方自治体の財政規律が緩む」可能性がある,というやや抽象的な意見が確認されるに留まっていました。

税財源・論点12

ようやく最後の論点。「国と地方の協議の場」は,今回の総選挙で地方分権に関して最も注目を浴びたところでしょう。ここまでの議論との関係でも,例えば論点3での地方消費税の分離独立化や,論点7での地方共同税の総額/共有税の法定率などを決めるのに,「国と地方の協議の場」が必要とされる可能性が高いと思われます。また,これまでの分権委の勧告との関係でいうと,既に第二次勧告で,ブロックレベルでの出先機関地方自治体の「協議会」の創設を勧告しているわけで,それを無視するわけにはいかない,という状況になっています。一方で,周囲の主要な政治勢力の考え方といえば,西尾代理の整理によれば,自民党では地方の代表から公式に意見を聞く場を作り,民主党では行政刷新会議とか国家戦略局に地方の代表を入れるという方向であり,知事会は三位一体改革のときの「協議の場」のイメージである,と。こういう状況を踏まえて論点になったのは,(1)中央とブロックの「協議の場」の関係,(2)「協議の場」が持つ権限,というところ。まず(1)については,委員の大勢の意見としては,中央での「協議の場」を(非公式のものも含めて)先行させ,それから順次ブロックごとの協議の場を作るということになるようです。勧告の順序とは逆ですが,まあとりあえずは地財計画や権限の問題で地方の意見を聞いて欲しい,という要請が強い中では妥当なのかと思われます。一方(2)については,必ずしも具体的な権限を確定しない方がよいのではないか,という意見が,西尾代理・小早川委員という研究者出身の委員から提起されます。特に小早川委員は,義務付け・枠付けの問題と絡んで,つまり今後の新たな義務付け・枠付けに対する歯止めとして「国と地方の協議の場」が重要ではないかという観点からコメントが求められていましたが,少なくとも全ての法案をチェックする第二法制局のようなものは難しいのではないか,という見解を披露されていました。これはまあ議員立法との関係もあるんで難しいとは思いますが。個人的には権限を確定しないというのはどうかなぁ,と思うところではあります。権限を決めないと,全く意味のない機関になったり,逆に(もっていないはずの)事実上の拒否権を持つことになったり,と運用次第で強さが変わってしまうという機関になりうるわけで。地方の意思を尊重しつつ,場合によっては国がきちんと(地方の意思をoverrideしても)意思を貫徹することができるような制度設計が望まれるのではないかと思うわけですが。
…ということで税財源はやっと終わりました。これからは,事務局が委員の意見の分布について整理する作業を行ったうえで,更なる詰めに移るようです。また,最後に小早川委員のWGからの報告がありましたが,義務付け・枠付けの見直し(ここでは例の「参酌基準化」ですね)に関するWGの見解を各府省に投げたところ,やはり前向きな回答は非常に少ないということ。なかなか難しいところですが…,これは冒頭にも書いた新政権の指導力が問われる問題,ということになるのかもしれません。

*1:小早川委員が自身でコメントされているように,これを「基準財政需要額」というとややミスリーディングになってしまうのがややこしいところですが。

*2:たぶんこの話だと思われます。ちょっとよくわからないですが,この内容だけを読むと,確かに「ペナルティ」と言われればそういう気もします。特別交付税がそもそも地域手当を充当しようとするもので,その必要額を過大申告していた,というなら「ペナルティ」でもないかなと思ったりしますが,ただその場合でも特別交付税で地域手当を充てるというのはどうかと…。