分権委・廃止?

既に松井望先生のブログで取り上げられていますが,読売新聞で分権委が年内で廃止されるという報道があった模様。

分権委を年内廃止へ、国・地方で新協議機関
鳩山政権の地方分権改革に関する基本方針が26日、明らかになった。
地方分権の新たな推進体制として、鳩山首相が議長を務め、地方の首長らが加わる「国と地方の協議の場」を新設する。現在の地方分権改革推進委員会(委員長・丹羽宇一郎伊藤忠商事会長)は来年3月の設置期限を待たず、年内にも廃止する方針だ。
これまで分権委が行ってきた勧告のうち、都道府県から市町村への権限移譲と、地方自治体の仕事を国が法令で細かく縛る「義務付け・枠付け」の廃止、縮小は、来年の通常国会に提出する「新地方分権一括法案」に盛り込み実現を図る。
一方、国の出先機関改革は、「協議の場」で再検討する。協議の場ではほかに、国庫補助負担金の一括交付金化の設計なども行う。詳細な検討をする作業部会も置く。
政府は、分権委の勧告に分権政策の方針作成を委ねる「委員会方式」では、政治主導の分権改革ができないとして、推進体制を見直す必要があると判断。秋の臨時国会で分権委の設置根拠となっている地方分権改革推進法を改正する方針だ。

もちろん民主党になったので審議会は見直される運命にあるわけで,税調なんかも完全に衣替えするという報道がなされているところです。分権委を廃止する場合,これまでの報道を見ると民主党は義務付け・枠付けの見直しについてある程度の妥当性を認めているわけで(二次勧告は微妙),直近の勧告を評価しつつ廃止する,というのは政治的にやや難しい技かもしれません。ただ一方で,財政の部分はそれこそ政治的な議論を呼ぶわけで,そこは引き取りたいというところがあるのかもしれません。
ただ民主党の一貫性という観点からは分権委を廃止するというのはなかなか難しいかもしれません。というのは,民主党自体165国会で「地方分権改革推進法」に賛成しているわけですし,各委員に対する同意についても,井伊・小早川・西尾各委員については全会派一致,丹羽委員長については社民・共産が反対,露木・増田(当時)・横尾各委員については共産反対,猪瀬委員については共産・社民・国民が反対*1,ということで民主党は全員に賛成,仮に社民党国民新党が反対だということにしてもまだ過半数の委員は残るということになります。もちろんそれはあくまでも自民党政権のときの枠組みが決められた中での賛成/反対だから,民主党政権になったら枠組みをご破算するんだ,という話をするんでしょうけど。まあ分権委のように「専門家」を集めた委員会だとそれも十分ありうる話と思いますが,例えば労政審みたいに公労使で利害関係を調整する,っていう場だとどうするんだろう,というのはじっくり観察していきたいところ*2
一方で興味深いのは前回のエントリでも取り上げた,Twitterでの逢坂誠二議員の発言。

# seiji_ohsakaそれにしても今日の読売新聞の分権改革推進委員会関する記事には唖然。約11時間前 webで
# seiji_ohsaka総務大臣は、就任早々、海外出張で昨日、帰国。その間、地域主権政策について検討も協議もしていないのに、なぜか今朝の読売新聞記事。日本のマスコミって、ちょっと慌て過ぎかも。約11時間前 webで

Twitterの引用の仕方はよくわかりませんが,こういうコメントが出て,それがいわゆるマスコミを通さずに僕のような一般の人間に伝わるのはすごいツール。逢坂議員は新政権で総務省に新設される地域主権室の室長になるということで,完全に新政権の人ということになるのだと思うわけですが。まあ犯人探しというのは泥仕合になりがちなのでぜひやめてほしいところではありますが,読売の記事が完全に飛ばしではない限り,どうしても「一元化」の抜け穴ができてしまうという話かもしれません。逆にそれを抑えようとすると,従来の「一元化」もくそもない自民党政権に慣れているマスコミにとっては「報道統制だ」とかいう逆切れを招くことになるのかもしれませんが。

追記

9月末の時点では,10月7日に委員会が第三次勧告を出して,原口総務大臣が受け取るという方向で調整が進んでいたとされる。これは露木委員のブログにもあるし,逢坂議員のTwitterでもそういう話になっている。ただ,税財源について書かれるとされていた第四次勧告を10月に出すという話(出せるのか!?)についてはまだちょっとよくわからないと。まあ民主党のこれまでの立場を追うとそれほど違和感はない。

来月7日にも第3次勧告=原口総務相が了承−分権委
政府の地方分権改革推進委員会丹羽宇一郎委員長(伊藤忠商事会長)は29日、原口一博総務相を訪れ、同委が取りまとめ作業を進めている第3次勧告を来月7日にも政府に提出する方針を伝え、了承を得た。
第3次勧告には、国が地方の業務を縛っているとされる「義務付け・枠付け」の緩和や、国と地方の協議の場の法制化などに関する提言が盛り込まれる見込み。同委は当初、今月末にも勧告する方針だったが、政権交代の影響で日程がずれ込んだ。 
丹羽氏は総務相との会談後、記者団に対し、今後のスケジュールについて「地方税財政改革に関する第4次勧告を来月中には出したい」と語った。しかし、原口総務相は記者団に「そこのところは、まだ整理していない」と述べるにとどめた。(2009/09/29-22:16)

しかし,10月2日の平野官房長官と報道各社の懇談会の中では官房長官は分権委の廃止を明言しているという話。

戦略局設置法、通常国会に=地方分権委・道州制懇見直し−平野官房長官〔新閣僚インタビュー〕
平野博文官房長官は2日、報道各社のインタビューに応じ、予算の骨格をつくる国家戦略室を「局」に格上げする設置法案の提出について「必ず臨時国会で出さなければいけないというものでもない。(戦略室は)事実上機能しており、通常国会でも十分ではないか」と述べ、来年の通常国会に先送りする考えを示した。(中略)
一方、自公政権時代に設置された「地方分権改革推進委員会」と「道州制ビジョン懇談会」について、平野長官は「基本的にリセットする」と述べ、廃止も視野に在り方を見直す考えを示した。 (2009/10/02-20:46)

この話はやはり,二つの考え方があるということだろう。まずひとつは,第三次勧告の内容を重視して(第四次勧告はよくわからないが),分権委の勧告を受け取るという立場。地方自治体を重視する姿勢を示している,というか首長の支持が欲しい民主党としては,首長からの支持が大きいとされる義務付け・枠付けの見直しを進めるという観点から第三次勧告を受け取りたいという考え方はありうる。もうひとつは,「自民党政権が作った審議会」から勧告・答申を受け取ることはできないよ,という立場。民主党は今のところ,自民党政権が作った審議会はみんなリセットだっていうことを言って税調とかを潰すわけだから,それとの整合性を維持しようということだろう。このまま行くと,分権委の第三次勧告が「自民党政権が作った審議会」から受け取った数少ない(唯一?)の勧告・答申になってしまう可能性があって,それは避けたいと*3
とりあえず分権委を廃止して,新たに委員を任命して義務付け・枠付けの廃止をすればいい,という考え方もあるかもしれない。ただそれは同じ委員を任命して同じように(同じものを?)できるかどうかというと,それは今後考えるべき点のひとつかもしれない。つまり,政党が専門家を選ぶように,専門家の方も政党を選ぶというのがだんだん意識されるようになってくるのではないかと*4。高度に技術的な案件であれば政党・政治は関係ない,という考え方は十分にありうるが,じゃあ技術的なものを廃止するっていうのはいったいどういうことだ,という反論もされるわけで。この点は,とりあえずは分権委だとしても,これから問題になっていくことが予想される。そして観察していく上で重要なのは,「技術的」かどうかを決めるという意思決定自体が極めて「政治的」であるということなんだろう。

*1:本会議録だと賛成/反対会派が明記されていないために議運の記録を。ちなみに西尾委員の同意にかかる議運の記録はこちら

*2:審議会もいろいろあるんですよねぇ,特に実質的な利害調整やってるんですよ,っていう話については例えばFrank J. Schwartz [1999], Advice and Consent: The Politics of Consultation in Japan, Cambridge University Press.

Advice and Consent: The Politics of Consultation in Japan

Advice and Consent: The Politics of Consultation in Japan

*3:というか,今後受け取っていくことがあるとしてもこの時点で手足を縛られるのはいや,ということが大きい気がするが。

*4:それはもちろん官僚だって同じことだろう。

政党と官僚の近代―日本における立憲統治構造の相克

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