第95回会合(2009/9/7)

最近は廃止の話が喧しい分権委ですが,共同通信によると,組織替えして「地域主権戦略局(仮称)」の設置を考えるんだとか。これを今後実質的に国と地方の協議の場(第三次勧告的には「国地方調整会議」)として作っていくのかはわからないところではありますが,構成とか役割を見てみると,以前に大阪府が提案として出した「分権改革諮問会議」みたいなツクリになるのかなぁ,と。原口大臣と橋下知事の関係が近い,という話もありますし,考慮に入れている部分はあるのかもしれません。その分権委の方は10月7日に第三次勧告を出しましたが,この後はやや不透明。共同通信の別の記事によれば,原口大臣が「分権委は10月にも(地方税財政に関する)第4次勧告を出すので、そこで一つの区切り」と述べたという風にあるので,第四次勧告までは行くのかもしれません。

第三次勧告について

さて,95回の会合は民主党が総選挙に勝利してからはじめての会合。94回の時点で関係者は民主党の勝利を織り込んでいたような口ぶりではありましたが,分権委の立場としては一応政権政党に関わらず勧告すべきことを粛々と勧告する,というもの。というわけで,既に結構詰まってきた第三次勧告の内容について,小早川委員から報告が行われ,それについて議論する,というかたちで進められることになります。第三次勧告の主要な部分である義務付け・枠付けの見直しについては,既に中間報告があるので,それをベースにして,そこから変更を加えた部分を報告するというかたち。
変更についてはいくつかありますが,最も大きい変更は,施設・公物設置管理の基準についてというところ。これまでの中間報告では,条例制定に関する国の基準として「従うべき基準」と「参酌すべき基準」を提示してきましたが(第86回),今回の報告では「標準」というタイプが追加されることになりました。別紙2で法的効果と異なるものを定めることの許容の程度が整理されていますが,要するに,「参酌すべき基準」→「標準」→「従うべき基準」という段階で国からの義務付けが厳しくなっていくことが想定されており,「一定のサービスを確保するべきに,職員の数などで望ましい数を示すのが必要である場合」に示すとされている「標準」についても国が設定するのは真に必要な場合に限定されるべきということになっています。これだけではかなり抽象的な話ではありますが,具体的に「標準」として考えられているのは,今回の重点事項の範囲でいうと,児童の数において配置すべき保育士の基準などであり,現行の児童福祉法や最低基準では,保育士の配置基準は「従うべき基準」となっているものを,今回の見直しではそれを「標準」に改め,合理的な理由があれば異なる配置基準で定めることができるようになる,と。まだよくわからないところではありますが,猪瀬委員のコメントから,要するに保育所の場合であれば,保育士一人に対して赤ちゃん何人というのは「標準」で,3.3㎡でいいかというのは「参酌すべき基準」で,「保育に欠ける」は「従うべき基準」ということになる,という整理になるようです。
それから大きなところとしては,今回の勧告で扱われている「重点事項」(a.施設・公物設置の基準,b.協議,同意,許可・認可・承認,c.計画の策定及びその手続)以外の部分で,第二次勧告でメルクマール非該当とされたところもきちんと見直しするように,という話。これはややわかりにくいので図表にして整理するとこんな感じ。第二次勧告でメルクマール該当の義務付け・枠付けは当面残るわけですが,非該当の部分,そして今回扱っていないところは今後分権委以外の機関(?)で見直しが進められることを期待するかたち*1

第二次勧告 第三次勧告
メルクマール非該当 重点事項
メルクマール非該当 (ここ)
メルクマール該当  − 

もうひとつは今後の立法原則とチェック体制について述べたところ。この見直しの実効性を将来にわたって担保するために,今後,制定・改正される法律が今次の地方分権改革で定立した義務付け・枠付けに係る国の立法に関する原則(第2次勧告第1章2(2))で明らかにしている,義務付け・枠付けの見直しの具体的な方針に沿ったものとなるようにすべきと言うことを強調し,これを法律上も明確にしていくことが求められることを勧告したほか,チェックの仕組みとして,政府が国会に提出する法律案については,この義務付け・枠付けに関する立法の原則に沿ったものとなるよう,各府省における法案の立案段階でこの原則をチェックする政府部内の手続を確立すべきであると。これは現行制度では地方自治法の事前情報提供制度(263条の3)などが考えられるわけですが,情報提供が遅いという指摘もあるため,この地方自治法上の制度が十分機能することが重要である,としています。で,ここから「国と地方の協議の場」にも繋がっていくわけで,質疑の中でも93回で税財源との関連でテーマとなった「国と地方の協議の場」の議論とオーバーラップした議論が行われていました。
その他の変更点としては,まず冒頭に「はじめに」ということで義務付け・枠付けの見直しを行ってきた経緯を説明すること,上記の「従うべき基準」のタイプが中間報告ではひとつのタイプしか示されなかったものが3つのパターンになったことがあります。それから,勧告の内容をわかりやすくするために,数を示す部分を増やしたり,知事会・市長会等からの要望との対応関係も示すことになりました。
質疑で特に議論になったのは,新しく加えられた「標準」の性格について。基本的に小早川委員に説明を求めるというかたちでした。確かに抽象的な話なので実務的にはどうするのか難しいところかもしれませんが。猪瀬委員が言っていたのはその通りだと思いましたが,趣旨としてはある程度「運用の幅」を認めますよということは間違いないわけで,問題は実務のところでそれを実現できるか,ということではないか。この点については委員長から提起されたコメントがその通りで,勧告案文では標準の設定に「望ましい目標を示す」というのが入れられており,どうしてもその「望ましさ」を誰が決めるのかという問題になるのではないかと。小早川委員はその点については自治体の判断を優先するというコメントだったものの,義務付けの元になる法制度を作るのは中央政府であることを考えると,「望ましさ」についても相当程度影響力を持つのではないかと思われる。西尾代理からは技術的な問題として「標準」を「通常よるべき基準」とすればどうか,という提案もあったものの,本質的には同じではないかなという気もしますが。

国と地方の協議の場・地方自治法制について

第三次勧告の検討が一通り終わった後,第三次勧告に加えるべきテーマとして,「国と地方の協議の場」と地方自治法制の改革について議論されています。はじめに事務局からこれらについての委員会でもこれまでの議論の整理が示された後で質疑に移ります。まず西尾代理から,「国と地方の協議の場」については,各政党が総選挙のマニフェストに書いていて,六団体の要望もあって,作ることについてはそれなりに意見の集約が見られつつあるものの,いくつか積み残した点があることが指摘されています。それは具体的には,法制度上設けられてときに何を議論の対象とするのか,参加するメンバーはどのように構成されるか,何らかの権限(同意権・拒否権)を付与するか,といったところであって,現状で知事会としては事実上の協議の場にすることが基本だというが,権限について触れる必要があるかを議論しよう,ということ。意見交換を聞いている感想としては,委員の側でもこれらの点について確たる意見でまとまっているわけではなく,まずは協議の場を作るんだ,と言うところから入っているように思われます。結局のところ叩き台がないと話が始まらない,という感じですが,この叩き台については西尾代理が素案を作るということで。
地方自治法制については,教育委員会・農業委員会・財務会計制度が議論の対象となっています。教育委員会については多くの委員が選択性を導入して地方の自由度を拡大すべきだ,という主張でした。また,教育委員会を廃止して(たぶん教育に監査する)事後的な監査委員会を作るんだという民主党マニフェストとは違うけどどうか,という議論もありましたが,委員会としては,全面廃止もやはり自由度を奪うということで,選択性がやはり自由度の拡大に資するのではないか,という感じ。教育委員会に関してはなぜか丹羽委員長が非常に否定的なトーンで議論して,私立学校は教委なしでもやってるんだから教委は必要性が薄いみたいな話をしてましたが,なんだかなぁ,と。実はその話に非常に時間が取られたので,農業委員会と財務会計の話はほとんどできず。農業委員会については現行制度で兼業農家の声が強くなりすぎるのではないか,という意見が出たのと,財務会計では地方自治法制というだけでなく税財源の観点からも議論が必要ではないか,という意見が出たことくらいでしょうか。まあこちらの方もこれまでの議論を踏まえて,西尾代理が素案を作るというかたちになるようです。

*1:質疑でも出てきますが,メルクマール非該当としていしたものが4000以上あり,今回見たのはそのうち1000ちょっとで2000以上残っている状態です。また,今回は自治事務しか取り上げていない他,「できる規定」なので見落としているものもありうるということ。西尾代理かららは,それらもいずれはまた見直さないといけない,という趣旨のことは最後に書いてもらえるのだろうかという「次の段階のための注文」が出てます。