地方行財政検討会議

前回のエントリは,このブログとしては初めてというアクセスを頂きました。当該エントリの最後の方にも書きましたが,ロースクールができることで大学における政治学の立ち位置が微妙になっている状況の中で,ご関心をお持ちの方が多かったということなのかもしれません。出過ぎたことは書かなかった方がよいのではないかと思うところもありますが,一度言語化する機会を持ったことは僕自身としても良かったのかもしれません。まあ結局のところまじめに研究し続けるしかないという話でしかないんですが。
さて,淡々と研究メモを繰り広げる日常に戻るわけですが,松井望先生経由で知ってから,その具体的な内容が気になっていた「地方行財政検討会議」について。松井さんが書かれているように,国と地方の関係を議論する会議として「地域主権戦略会議」「国と地方の協議の場」「行政刷新会議」があるわけです。個人的には国と地方の関係についての議論は主に「地域主権戦略会議」が担当するのかと考えていたので,この会議の設置は全然よくわかっておらず,突然出てきた感じはしますが,それだけになかなか興味深いところ。
従来設置されている会議の中では,まず「地域主権戦略会議」は第1回が終わったところ。ここでの議論は,これまでの地方分権改革推進委員会の勧告をもとにした分権推進計画の案や,今後の工程表などが資料に上がっており,割と大局的に議論する場となっている模様。「国と地方の協議の場」についてはまだ法制化されておらず,実質的に協議を始めた段階でよくわかりません。事業仕分けが目立つ「行政刷新会議」では,地方はあくまでも国がやるべきでない仕事の行き先という扱いで,国と地方の関係を本格的に議論するのは交付税の仕分けのところくらい。ただ,ここでの交付税の議論は明らかにその他の会議体での議論とは感じが違っているわけですが。
メンバーについてみると,「地域主権戦略会議」では,以前のエントリでも取り上げたように,主要閣僚+民主党よりの首長・有識者,といったような構成になってます。で,「国と地方の協議の場」については,2009年11月16日から「国と地方の協議」というのが始まっているようですが,この議事録を読むと1回目は松井官房副長官を司会として総理あいさつ→六団体の会長あいさつ→副総理・総務・財務・行政刷新・官房長官あいさつ,とやってる感じ。で,これについては,国と地方の協議の場実務検討グループ」というのを作って12月18日に第1回をやってます。このメンバーを見ると,国側が松井副長官・瀧野副長官・逢坂補佐官・津村内閣府政務官・小川総務大臣政務官で,地方側が山田京都府知事・倉田薫池田市長・古木哲夫山口県和木町長ということ。まさに内閣側の実務者と,地方では知事会・市長会・町村長会で当該分野を担当している首長が議論するというかたちになっているのではないかと思われます。もうひとつの行政刷新会議については,本会議では主要閣僚+経営者・学識者ですが,国と地方の関係についてはほとんど議論されておらず,交付税を扱った第1WGでは基本的に専門家,ということですが,現状でこの議論が政策決定に反映される感じはない,という様子。
そして,今回発表になった「地方行財政検討会議」について,時事通信の報道によれば参加するメンバーは以下の通り。

総務省は25日、地域主権の確立を目指した地方自治法改正と「地方政府基本法」の制定に向け、自治体関係者や有識者を交えた「地方行財政検討会議」(議長・原口一博総務相)を設置すると発表した。来年1月にも初会合を開く。原口総務相は記者会見で「地方自治法改正案を取りまとめ、(次期通常)国会に提出したい」と述べた。
政務三役と逢坂誠二首相補佐官以外のメンバーは以下の通り。
達増拓也岩手県知事▽奥山恵美子仙台市長▽松田直久・津市長▽横尾俊彦・佐賀県多久市長▽寺島光一郎・北海道乙部町長▽金子万寿夫・鹿児島県議会議長▽五本幸正・富山市議会議長▽野村弘・長野県上松町議会議長▽石原俊彦・関西学院大教授▽岩崎美紀子・筑波大教授▽碓井光明・明治大教授▽斎藤誠・東大教授▽西尾勝・東大名誉教授▽林宜嗣・関西学院大教授

知事・市長・町村長について,人選はよくわかりませんがそれぞれの全国組織との関連もあるのではないかと思われます。議会関係はすべて全国組織の会長。地方分権改革推進委員会からは西尾代理と横尾委員が入っています。学識者の感じをみたときの印象では,地方制度調査会の委員経験者が多いような感じ(岩崎・斉藤・西尾・林の各先生)。あと石原先生は公会計,碓井先生は財政法ということで,実はこちらも制度関係。原口大臣の記者会見でも,「地域主権の確立を目指した地方自治法の抜本的な見直し」ということを言っていることを踏まえると,やはり従来の地制調が行っていたようなものに近い議論をしていくのではないかと考えられるところです。従来の地方制度調査会は学識経験者に経営者も含んでいて,さらに六団体の代表と国会議員6名が入っていたということを考えると,メンバーだけから見て今回の地方行財政検討会議は地制調から国会議員と経営者を除いたもの,と理解するとちょっと穿ち過ぎでしょうか。しかしそう理解したとしても,松井さんが指摘するように,法定の会議である地方制度調査会との関係,それから他の会議体での付議・審議・承認関係については観察していく必要がある。例えば安部内閣のときには,官邸におかれた教育再生会議文科省中教審が別々の方向を向いた上にデマケもできておらずに調整どころでなかった,というのがあったわけですが,今回はどうか。率直に言って「一元化」を図るならばなぜ会議体を多元化して調整の必要性を増やすのかはよくわからないところでありますが。