党議拘束

党議拘束というとややミスリーディングだけど,ここ数日社民党の同意人事がやや話題になっている。具体的には原子力安全委員会と日銀の政策委員会。

社民、国会同意人事に難色
社民党党首の福島消費者相は17日、首相官邸で平野官房長官に会い、班目(まだらめ)春樹・東大教授を原子力安全委員会委員に、森本宜久・電気事業連合会副会長を日本銀行政策委員会審議委員にそれぞれ充てる国会同意人事について、党として反対する考えを伝えた。
ただ、政府・与党内では、社民党の要望を両氏が守ると誓約することで、賛成に回る方向で調整が進んでいる。
福島氏は会談後の記者会見で「人事に問題がある。NGO(民間活動団体)からも批判が出ている」と述べた。

ストーリーとしては,両方とも原発推進の関係者ということで,社民党はその支持母体に平和団体・反原発関係の団体が少なくないために,同意人事に反対するというもの。原子力安全委員会の方は割とストレートに問題にできると思うが,日銀の方は基本的に金融と関係ないところで決めていいのか,ということは議論になりうる。極端に言えば,社民党が連立にいる限り電力会社出身者を同意人事で全部外すのか!ということになる。たぶんそういう議論を背景に,次のような指摘も出ている。

福島さん、矛盾しませんか? 国会同意人事で採決不同意、閣議は署名
政府が国会に提示した原子力安全委員会委員の国会同意人事案をめぐって、社民党党首の福島瑞穂消費者・少子化担当相が前代未聞の矛盾した対応を取る可能性が出てきた。
政府は12日に、同委員へ原子力発電推進派の班目(まだらめ)春樹東大大学院教授を起用する人事案を国会へ提示した。脱原発を掲げる社民党は反発し、18日の党の会議で不同意を決める見通しだ。
だが、平野博文官房長官は17日の記者会見で、班目氏の人事案を取り下げない意向を示した。政府は、国会で採決にかけるため、班目氏の人事案を19日に閣議決定する方針で、それには閣僚である福島氏が賛成して署名することが欠かせない。
福島氏は、閣僚を辞任する意向はないとみられる。すると、自党の方針に反して閣議決定に署名する矛盾した対応をとることになる。社民党関係者によると、福島氏は月末に予定される国会の採決では棄権か反対に回りそうで、今度は閣僚としての自身の対応を真っ向から否定することになる。

前代未聞,かどうかはよくわからないが,「閣僚としての福島氏」と「国会議員としての福島氏」が矛盾した行動を取るというのが問題だという指摘になっている。それはそれで分からないわけではないが,やや違和感がないわけでもない。なぜなら,これが問題だということは,福島氏(というか社民党)の行動として,1)同意人事に賛成し連立を維持する,か,2)同意人事に反対し連立を離脱する,のどちらかしか用意されていないように思われるから。もう少し定式的に考えてみると,第1段階で民主党がこの同意人事案を提出するかしないか決めて,第2段階で社民党が賛成するかどうかを決めるようなゲームが考えられる。社民党側としては,連立維持の便益と支持者へ説明がつく/つかないという便益/費用を比べ,民主党は連立維持の便益と同意人事案撤回のコストを考える。想定されているのは,社民党として民主党がこの同意人事案を出してきたときに賛成するときの便益(=連立維持の便益−支持者へ説明つかない費用)が支持者へ説明つくという便益を下回っている状態であって,最終的には民主党側が社民党と連立を維持するのと同意人事案の撤回というコストのどっちを重視するか,というような状態だろうと考えられる。
おそらく問題は,社民党のある種の党是に近い状態になっている「原発反対」を踏まえて,「民主党が同意人事案を出すこと自体は認めるけれども出したものには反対する」というような態度の取り方を,(メディアではなく)支持者が認めるかどうかにあると思われる。少なくとも従来はなかなか社民党の支持者はそれを認めてこなかったと考えられ,メディアの反応もそのような文脈に沿ったものだと考えられる。「政党組織の曲線法則」というやつで*1,活動的な政党の活動員は選ばれた議員よりもずっとイデオロギーが強く,そのような妥協を認められないという議論もありうる。ただ一方で,政党の側がきちんと説明してきたのかというと疑問もないわけではないが。
ただ少し考えておきたいのは,政党が支持者に縛られつつ,1)同意人事に賛成し連立を維持する,か,2)同意人事に反対し連立を離脱する,というどちらかを選ばなくてはいけないというのは,政策決定のスタイル自体に影響を及ぼすのではないかということ。つまり,あるテーマ(今回の場合は原発推進が予想される人の同意人事)で,政党を単位としてAll or Nothingでの意思決定を迫るものになるとき,連立政権のもとでは全ての政党が了解しているものしか国会に出てくることがなく,また国会に出てきたものは連立政権がWinning coalitionなので基本的に成立することになる。それとは異なる政策決定のスタイルを考えるとすれば,とりあえず連立政権である政党が主張することを認めた上で,国会で議決することを重視するものではないか。もちろんそれが可能になるのは野党(現在であれば自民党公明党みんなの党共産党など)のいずれかの賛成が必要になるが,それも必ずしも政党単位である必要はない。従来の自民党政権においても党議拘束は基本的に厳しくて,国会内での大同小異というふるまい方が想定されていなかったと考えられる。そのために,小異が残るものについてはそもそもアジェンダとして提出せずに前決定の段階で処理するかたちが取られてきた。しかし,このやり方はやはり透明性という点では問題が残るし,特殊な利益を主張する少数政党が非常に重要なキャスティング・ヴォートを握ることになる。一部の政党を除いて,支持者と議員の関係が流動化しつつことも考えると,政党による事前の統制というものは少し見直されてもいいのではないかと考えられる。ただそのためにはやはり,増山先生が議論されていたように,国会できちんと議論できるような制度的な裏付けが必要になると思われるところ。

*1:スティーブン・リード,2006,比較政治学ミネルヴァ書房,pp.54-59.

比較政治学 (MINERVA政治学叢書)

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