続・地域主権改革大綱

久しぶりに連投。引き続き地域主権改革大綱について。一括交付金以外はそれほど注目されていないような気もしますが,実は非常に興味深いのは8番目に上げられている「地方政府基本法の制定(地方自治法の抜本見直し)」のところではないかと思われます。「大綱(案)」にも書いてありますが,ここの部分は地方行財政検討会議での検討を受けてまとめられたものです。これも以前のエントリで書いたように,いわゆるホームルールの議論が行われていて,大綱にも

地方公共団体の基本構造について、憲法がどのような組織形態を許容しているかについては様々な解釈があり得るが、伝統的な解釈に沿った二元代表制を前提としつつ、地方自治法が一律に定める現行制度とは異なるどのような組織形態があり得るかを検討していく。

という表現があるわけです。まあ具体的にはまだ議論しているところであって,地方行財政検討会議で成案が得られた事項から順次国会に提出する,という運びになっていますよ,ということが報告されるに留まっています。じゃあ地方行財政検討会議でどんな議論がなされているか,ということですが,最近開かれた第6回の会議(2010年6月10日)の議事録・議事要旨はまだ公開されておらず,基本的な考え方が出ているのみです。むしろ面白いのは,最近公開された第5回の議事録ではないかなと。
上でも書いたように,「伝統的な解釈に沿った二元代表制を前提としつつ,地方自治法が一律に定める現行制度とは異なるどのような組織形態があり得るかを検討していく」という表現に見られるように,地方自治体における長と議会の関係についての見直しがこの議論の念頭にあります。この点については,地方行財政検討会議第一分科会の議論を踏まえつつ,次のようなかたちで議論が提示されています。
まず,

現在の地方自治法は、長と議会の関係において、それぞれ住民が直接選挙することとした上で、議員内閣制(原文ママ)の要素を一部取り入れるとともに、議会が執行権限の行使についても、その一部について事前に関与する独特な制度を採用している

という認識に基づいていることを明らかにした上で,

憲法の伝統的な解釈の範囲内で、現行の基本構造とは異なるものを選択できるようにする場合には、まず一つとして、議会が執行権限の行使により責任を持つようなあり方、もう一つとして、議会と執行機関それぞれの責任を明確化することによって、純粋な二元代表制の仕組みとするあり方、この2つの方向性で見直すことを提示しております。
まず第1のほうの(a)という方向性につきましては(引用者注:議会が執行権限の行使により責任を持つようなあり方)、執行権限の行使の責任は、長と議会にあると認識されることで、議会による執行機関の監視がより一層機能するようになり、また、団体意思の決定機関としての機能も高まるという考え方に基づいているものであります。この場合、議員が執行機関の構成員として参画することが考えられますけれども、一方、議員が長の指揮監督下に入ることは問題があるとの指摘もございます。次の(b)の方向につきましては(引用者注:議会と執行機関それぞれの責任を明確化することによって、純粋な二元代表制の仕組みとするあり方)、長と議会が執行機関、議事機関としてのそれぞれの役割を明確にし、より緊張関係を持った関係を再構築するという観点に基づくものというふうに言えます。続いて6ページに移っていただきますが、後者の(b)の場合、議会の執行機関に対する検査権・調査権等の拡充、条例制定範囲の拡大、議会に招集権を付与することなどが考えられるとしております。

という見直しの方向が提示されています。なかなか興味深い議論ですが,これに対して現役の長や議会は結構否定的な姿勢を見せます。議事要旨からの引用になりますが,

現行の二元代表制に関して、「長、議会の議員をそれぞれ独立して直接選挙で選出する政府形態において決して一般的な制度とは言えない」との認識を示されているが、確かに諸外国と比較すれば一般的ではないのかもしれないが、現行の二元代表制は我が国においてかなり定着しており、独自のものでもよいとの考え方もある。そこはどのように整理していくべきか。

というのが非常に良くまとまっていると思います。もう少し個別的に言うならば,長の側は執行権限をきちんと確立することに興味をもち,一方で議会の側は執行に入るのも必ずしも賛成ではなくて,例えば地方議会の招集権を長から議長に移すなどして,長が強い現行制度の手直しができればいいのではないか,という基本的なスタンスが見て取れます。
さらに,長と議会の関係から,議会を構成する議員を選出する選挙制度についての議論もなされています。特に鹿児島県議会議長の金子万寿夫氏と総務省大臣政務官小川淳也氏のやりとりは非常に興味深いものとなってますので,やや長文ですが引用します(22−24頁)。

【金子議長】 第一分科会において選挙制度について触れていただいているんですが、政策本位、政党本位の選挙制度も考えるべきだ、そういう記述があったと思いますが、私は地方議会議員はむしろ中央政党から独立した独自性を持つべきだと常に思っているんです。中央政党の下請け稼業みたいな、そんな政党にむしろ属しない方がいいと私自身は思っております。地方議会は地方議会としての独自性を高めていくべきであって、中央政党の政策に右へ倣えをしていくような体制はいけない、逆の方向に行くべきだと私自身はこういうふうに思っております。
ですから、選挙制度については、我々の方から提案をいたしております郡市の単位を抜いて、やはり条例で町村単位による条例で、その地域に、実情に合った選挙区制度を採用していく、そういうことによって、むしろ中央政府と地方政府議員・議会という捉え方を強く持っていくべきだと思っておりまして、中央政党の系列化には決してなってはいけないと、こういうふうに私自身は思っております。
(中略)
【小川政務官】 ありがとうございます。ほかはいかがでしょうか。
ちょっと私は進行の立場ですが、金子先生はすごく本質的なことをおっしゃったんですけれども、地方議会は国政の政党色なり政策と切り離してという議論がありました。これはちょっと不正確だったらいけないので、もし間違っていたら後で正していただきたいと思うんですけれども、二通りありまして、イギリスは中央も小選挙区制度で議院内閣制で、地方も原則小選挙区制で議会執行部制が基本なんですね。最近は選択制を入れていますけれども。確か、アメリカの地方議会はノンパルチザンというか、政党か会派所属みたいなことを確か制限しているか何か、そういうものがあったと思うんです。要するに、どちらもありだと思うんですけれども、地方議会が政党、政策、国政と切り離さなければならないとしたら、その理由は何なのか。そこはどうですか、ちょっと突っ込んで話をすると。
【金子議長】 今の小選挙区制度の中で二大政党政治を進めていくということになって、地方議会がすべてその政党の系列下になるということは、私はやっぱり、地方自治の本質からいっても馴染まないと思っております。ですから、何といったらいいのでしょうか、日本の自治にはそういう制度は合わないんじゃないでしょうか。私は、住民の感性とも違うと思っていますけれども。
【小川政務官】 なるほど。ちょっとそこで問題提起としてお聞きいただきたいんですが、仮に自治体の仕事が身の回りのお世話をする世話人会的な機能だと、そうすると、あまり政党色なり政治色を帯びるのは好ましくないという議論は成り立つと思うんです。ところが、政党化するかどうかは別にして、これまでの地方政治を、特に議会を、個人色が強い、個人後援会が強いものから政策を軸にしたものへと、一つの見方ですけれども、機能を上げていかなきゃいかんというコンセプトからすると、まさに地方政府、地域の経営体として機能している地方政府の地方議会ですから、失うものはあると思いますが、政策化なり政党化、そちらへ向けて一段、二段上げていこうという議論もあり得るんじゃないかと、個人的に思っています。
【金子議長】 それはあると思います。ちょっといいですか。
【小川政務官】 今の点と併せて。
【金子議長】 我が国には政党法というのはありませんよね。政党に関するものは、政治資金規正法と、何だったかな。
【小川政務官】 政党助成法じゃないですか。
【金子議長】 公職選挙法と、政党助成法とありますね。ですから、政党の要件というのも、国会議員が5名以上で、直近の選挙で何パーセントとかいうふうになっていると思うんですが、我々はむしろ、地方政党を政党法にのっとって政党法ができて、地方政党というものをむしろ立ち上げていきたいという感覚を持っているんです。そして中央、国の政党とは、選挙のたびに政策協定をすればいいんじゃないかというふうなところに、私は考え方はあるんですけれども。

まさにいま書いている論文での議論と重なるところもあるわけですが,重要なのは地方における政党というものがどのように形成されうるか,というところなのではないかと思います。このブログで最近しばしば取り上げている「大阪維新の会」は,大都市制度について共通の利益を志向する政党として,そのひとつの可能性を持っていると考えられます。しかし,小川政務官が指摘するように,従来の個人色が強い地方議会において,「政党」を形成するための(ある意味)有効な「亀裂cleavage」というのは地方自治体内の地域対立や,議員間の個人的な好き嫌い感情というもの以外にどんなものがあったのだろうかと。ひょっとしたらこれから先,地方自治体内で「政策」をめぐる対立が社会的な亀裂を作り出して地方政党が生まれてくるかもしれませんが,それが中央政府レベルの「政策」と全く乖離してくるのかというと,今のところよくわかりません。我田引水的に言えば,それがあり得るとすれば,地方分権が進展することによって巨大な権限を持つ知事につくか,つかないか,というところになるのではないかと予想しているところですが。
しかし民主党の小川政務官が「地方議会が政党、政策、国政と切り離さなければならないとしたら、その理由は何なのか。」という問題意識を持ち,県議会の議長が「今の小選挙区制度の中で二大政党政治を進めていくということになって、地方議会がすべてその政党の系列下になる」ことに強い危機感を持っているのは非常に興味深いところ。これから先,地方議会の選挙制度については,特に自由度の向上という点から見直していくことは絶対に必要だと考えていますが,この辺りの問題意識を踏まえながら議論が進められていくことを期待したいところです。