統一地方選挙雑感

考えるべきことはいろいろあるが,とりあえず終わった直後に感じたことをいくつか。
大阪の選挙については,橋下知事が率いる大阪維新の会府議選で過半数を取り,市議選で33議席と躍進した。開票直前にいくつか否定的な情報を聞いてしまったので少し混乱したものの,札を開けてみれば今回の維新の会の勝敗ラインと考えられるところはクリアしたといえる。府議の方の過半数には象徴的な意味合いも大きいが,市議で30議席を超えたのは大きい。市会の定員は89なので,33という議席数は1/3を安定的に超えるものになっている。これが意味するところは重要で,「もし維新の会が大阪市長をとったら」再議権を積極的に行使することによって,市会をコントロールする余地が大きくなると考えられる。さらに,これから控える市長選に実質的な意味があるとアピールすることによって,活動のテンションを維持しやすくなることも重要だろう。
他方で,維新の会の躍進は,非常に重要な問題を突きつけている。事前の世論調査などを見る限り,だいたい3割程度が橋下知事・維新の会の強固な支持層だと考えられていて,直近の世論調査でもこの傾向は続いている。そして実際の得票率を見ると,かなりざっくりとした計算だが,大阪府議会で312万票のうち維新の会は127万票(約40%)を獲得していて,大阪市議会では102万票のうち34万票(約33%)を獲得している*1。この数字に現れるように,まさに選挙制度による得票から議席への変換が興味深いところで,大阪府議会では得票率よりもずいぶん多い議席率(55%)を獲得している。大阪府議会の選挙区は,菅原さんがまとめているように,圧倒的に1人区が多く,それとともに選挙区の数自体が非常に多くなっている。定数109に対して62の選挙区があり,維新が各選挙区で相対多数を確保するメドさえついているならば,全ての選挙区で候補者を擁立するだけで,十分に過半数が見込めることになる。それに対して,市議会の方は定数が平均的に多くなっていて,より比例性が高い選挙制度になっている。そのために得票率と同程度の議席率(33.7%)を獲得するということになったと考えられる。それでも名古屋市議会と同じように票割りの問題があり,現職と新人が混在する維新の会の方が難しいかな,とは思ったものの,西淀川区で失敗(2人とも落選)したのを鶴見区(2人とも当選)で取り返すなどがあって,得票率とほぼ同じ議席を確保できた,という評価になるだろう。
得票を議席に変換するときの問題は非常に大きい。まず,維新の会は大阪市議会で(世論調査と同じ)約3割の得票を獲得し,同じく3割の議席を獲得しているのに対して,府議会レベルで見れば,ほぼ1人区で構成されている大阪市内の選挙区は維新の会が過半数どころかほぼ独占状態にあるわけだ。要するに,大阪市議会では市内の民意としてより多様な民意が示されているのに対して,府で表明される市内の民意はほぼ維新一色ということになっている(定数2が多いが堺市内も似たようなもの)。ワケわからん,と言ってしまうとそれまでだけど,重要なのは,3割くらいからの堅い支持を受ける勢力をどう考えるかという問題である。ふつう,単純に小選挙区制を考えると,3割の支持では必ずしも当選できないところがあるが,この大阪の場合は(前の名古屋市も同じだが),国政レベルで「二大政党」として競争している自民党民主党という二つの政党が,だいたい15−20%くらいの支持を確保している状況で,3割の支持を得た地方政党が入ってくると,小選挙区ではSweepできるし,比例制でも一定の議席を確保できるということが明らかになったといえるだろう*2。そのSweepする方を民意だというか,比例的なところを民意だというかで,政治的な競争も続くことになるわけだが,メタ的に制度を考える観点からは,この二つの「民意」をどのように着地させていくかは非常に難しい。首長と地方議会の関係であれば,まだ相互作用もあるわけだが,府県と政令市というようになると,直接的には接点がなくなってくる。やはり選挙制度の問題に回収していくしかないのではないだろうか。
さて,このブログの読者の方には分かって頂けるかと思うが,僕自身は個人的には維新の会についてどちらかというと支持できない部分があると考えているが,方向性は十分に理解できるところがあるために,他方で意味のない非難を取り上げる気もない,というスタンスをとっているつもり。しかし,そのような態度を持つ人間としても,維新の会がこの一年間,大阪都構想というイシューを争点化し,そのための多数派工作をきちんと行って結果に結びつけたことは,極めて優れたことだと評価する必要があると感じている。東京都知事選挙が典型的にそうだが,「後出しジャンケン」で素晴らしい候補者が舞い降りてきて票を掻っ攫い,首長として「改革」のカタルシスを提供するというのは,2010年までに終わったコンテンツだと思うし,そうするようにしなくてはいけない。選挙が終わったということは次の選挙まで基本的に4年間の時間があるのだから,組織的に政策を訴えるということを通じて次の選挙で有権者の支持を集めることを目標にできるわけだし,この点は維新の会(と部分的に減税日本)のような努力が払われる必要があるだろう。
とはいえ,そのためには様々な制度の変更が必要になる。ひとつには,公職選挙法で告示後に「選挙運動」が行われる,という規定ではないかと思われる。告示までは「政治活動」で告示後に「選挙運動」が行われ,そこに個人の資格で立候補して,その期間で全てが決まるんだ,みたいな発想では「後出しジャンケン」を助長するだけだし,今回の「自粛ムード」のようなことをやられるとどんなに優秀でも新人候補には厳しい。また,選挙の期間を短く限定せず,むしろ長い期間をかけて組織で選挙をすることによって,個人が(告示のタイミングを見計らいつつ)私財や職をなげうって選挙に臨むようなことも,少しは緩和されると思われる(これは企業側の休職規定とかも重要だが)。
何よりも見直すべきなのは,組織としての活動を最も妨げている現行の選挙制度である。詳細はリンク先に書いたとおりだが,今の都道府県レベルの議会選挙は,地域代表として他の地域と共通の問題に取り組むことを抑制することが多いし*3,一部の定数が多い選挙区では本当は組めるはずの似たような候補が競争することになる。そして定数が多い大選挙区制である市議会レベルでは後者の傾向がさらに強くなる。比例代表とまでいかないとしても,選挙制度を変更することで,ある程度は組織的な選挙は可能になるだろう(政治工学といじられるかもしれないがw)。その他にも,6ヶ月前のポスターの貼り替えとか,選挙が重なるときの選挙運動の規制とかそういう「組織」で運動を行うことを妨げるような規制は外すべきだと思う
そういう制度を変えるだけで良いかと言われると,もちろん微妙なところはある。今回の統一地方選挙では「首長新党」という言い方が用いられており,それに関連して,巨大な権力を持つ首長が政党を組織化して引っ張ることを問題視する議論は少なくない。現在の見通しでは,何らかのかたちで核になるリーダーを中心にまとまる事は否めないが,ただそれでも,それがすぐに「首長」になるかどうかは分からない。今回の選挙では,京都党がそういうところがあるが,将来のありうべき首長候補を軸に,議会の中でグループが形成されるということは十分に起こりうるのではないだろうか*4。要するに,「首長選挙時点における対立軸によって地方政党が組織され,さらに地方議会が規定されるような」(砂原 [2011:207]→宣伝)可能性である*5。問題は,あるリーダーのあとを組織化できるか,というところにあって,2010年以降の地方政治は,そこがもっとも重要なテーマになるのではないか,と考えるところだった。

*1:訂正:以前のエントリでは,134万票のうち43万票(約31%)と書いていましたが,これは堺市を含んだ数字になっていました。お詫びして訂正します。この訂正によって,大阪市議会議員選挙での維新の会の得票率と議席率は非常に近い数字であることは変わりません。

*2:余談だが,これは愛知県の選挙でも当てはまる。「河村流 失速」という読売の記事があるが,これは単に希望的観測というもので,減税日本名古屋市内の16区のうち,候補者を立てずに無投票に終わった2つの選挙区を除いた14の選挙区で1人ずつ候補者を出して,13人の当選を果たしている。結局,名古屋市内には浸透しているけれども名古屋市外では活動が進められていなかった,ということが原因で,それは後から出てきた「日本一愛知の会」の惨敗(24人出して5人当選)にも現れている

*3:もちろん,今回の維新の会や2005年の郵政選挙のようなSweepはありうるが。

*4:ちょっとだけ追記。それをやるための制度的インフラとして,一回目の投票で一定の得票を取った候補者がいない場合のけ決選投票方式もありうるかもしれない。決選投票方式は,雑に言えば一回目の選挙で「2人の当選者」を選ぶところがあるために,一定の多党化を促すところがある。

*5:そうすると,今度は議員経験者が首長になるという新たな流れも出てくるのかもしれない。