議員定数削減

大阪府議会では,大阪維新の会の主導で,109あった議席を88に削減したとのこと。産経新聞では,「既存政党「数の横暴だ」「情けない」」という記事が出ていますが,これにあるとおり,21という約2割に当たる議席を削減するということで,それに反対して自然流会を目指す公明党が議場の閉鎖までしたものの,最終的には維新府議のみの出席で可決,ということ。過半数を持っているのでできる,ということなわけだが,この記事で書いてあるように,可決のときには知事が退席していた,と。まあ確かに過半数議席を持っているグループとその党首,ってかたちで写真が残ったら,ある種の全体主義だとしてしばしば引用されるのは予想に難くはない。
この手の定数削減っていうのは,ふつうどの議会でも議員間協議で決めることになっていて,一応議員間で合意したものが可決されることになってる(たまに共産党だけ反対,みたいなこともあるが)。これは地方に限らず国でも同じかたちでやっていて,だからこそ衆議院参議院の定数については内閣提出法案ではなく議員提出法案で決まる(区割りは違うが)。そういう慣行から見れば手続き的に問題があるのは間違いないが,多数主義の観点からは問題ない,というのがまあ維新の会の主張,ということになるのだろう。
手続きについてはちょっと措いて,ここではこの定数削減がどういう効果をもたらすのかを考えてみたい。まず,88という定数の根拠だが,日経の記事によれば,東京都の議員定数がだいたい10万人に一人だから,大阪府の約880万という人口に当てはめたら88人だろう,というまあざっくりした話。まあそのへんホントにざっくりしたもんで,例えば大阪府の人口について,当の府が発表してる住民基本台帳の人口だと,平成23年3月31日現在で868万人ということになっている。880万はあくまで推計人口であることに注意は必要だろう。なお,以下で書く「人口」は全て住民基本台帳人口を使っている。
まあここで,そもそも有権者人口と総人口は違うとか言い出してもキリがないので,先に進む*1。問題は選挙区の区割り,ということになってくるが,現行の選挙区を変えずにざっくり人口10万人に議員一人,というように割っていくと,議員は93人必要になる(ただし端数は小数点以下第一位を四捨五入して処理)。これは言うまでもなく,人口が少ないのに行政区があるから議員が一人いる,という選挙区に起因する。単純に人口が少ないのが,下から浪速区(52506),四條畷市(56938),大阪狭山市(57479),阪南市(57931),高石市(59585)といったところ。高石市までが,人口6万人以下で選挙区を構成しているところになる*2。88にするためには,93からさらに5つ議席を減らす必要が出てくる。これについてはまあ単純に,最も四捨五入されているところ,っていうので減らしていってもいいし,他の方法を考えることもできる。重要なのは,全体を100000で割ってもあんま意味ないよ,というだけの話だが。
とはいえ,別に現状の大阪府会の選挙区に全く問題ないわけではない。最もひどいのは,菅原さんのまとめで明らかになっているが,生野区選挙区のように,(最も一票が「軽い」)堺市東区および美原区選挙区や,堺市中区選挙区と比べて有権者人口が少ないのに選出議員数が多い,といったような問題があるところ。なので,このように明らかに相対的に過剰代表になっているところの定数を削減することは,別に非合理でも不公平でもないとは考えられる。最も簡単なかたちで21議席を減らそうとすると,菅原さんの表にある中で,(1)最も議員一人当たりの定数が少ないところから順番に,(2)それ以上減らせない定数1の選挙区から,定数をひとつずつ減らしていくことが考えられる。そのルールを単純に当てはめると,議席が減る選挙区は以下のとおり。

定数2→1:生野区西成区大東市松原市門真市住之江区東住吉区堺市西区守口市,堺区,堺市北区住吉区,富田林市+南河内郡堺市南区箕面市豊能郡
定数3→2:寝屋川市
定数4→3:吹田市
定数5→4:高槻市三島郡豊中市枚方市
定数6→5:東大阪市

吹田市については微妙なところ。人口35万弱で定数4,というのが知事の気分的な基準からみてどうか,というのはよく分からないところ。まあとりあえずそれはさておき,有権者人口で考えると,(1)定数3以上の選挙区は8選挙区あって,そのうち5つで定数がひとつ削減,(2)21ある定数2の選挙区では15選挙区で定数削減,ということになってる。結果として,既に大阪では33の1人区があるわけだが,これが15選挙区増えて48になる,というなかなかな結果になる。
ポイントになるのは公明党公明党は21人議員がいるわけだが,この削減可能性のある選挙区のうち13選挙区14人が議員として立候補・当選している。2人区(8選挙区)では基本的に維新と公明が議員を出しているから,もし今回この区割りで選挙やってたとしたら,公明票が維新票を上回ったところもあるけど,かなり厳しいことになるのは明らか。普段やらなそうなバリケードみたいなことまでやっているのは,やはりこの案によるダメージがかなり大きいと見ているからだろう。
実際議席配分は良くわからないところだけども,公明党の激しい反対に象徴されるような状況になっているのは,現在のところ全体としての定数削減と選挙区単位での定数削減が結びついていないからだろう(→間違い!選挙区単位でもやってました。追記参照。正直この短期間で選挙区まで決めてると思ってませんでした…すみません,以下あんま意味のないコメントですが,話としては結局そういうことだと思われるので残しておきます)。ふつうの定数削減では,むしろ選挙区単位での定数削減(あるいは拡大)を積み上げて全体としての定数削減の数が決まってくる。しかし今回は逆で,まず全体としての定数削減を先に決めて,そこから選挙区単位での調整を行うことになる。これは,僕の本でも分析したように,集合的な利益を重んじると考えられる知事,特に橋下知事のような知事が採る手法としては平仄があっているのは興味深いところ。
ここから先がどうなるのかはよく分からない。上で書いたように単純に議員一人当たりの有権者人口が少なく過剰に配分されている選挙区から議席を引いていくとすれば,当然ながら一人区は削減対象にならないので,定数不均衡はかなり悪化する。有権者人口で見ると最小の四條畷市(45142)と最大になる箕面市豊能郡(133765)の格差は2.96倍となり,現在の生野区堺市東区及び美原区での格差,2.36倍からみてもだいぶ悪化する。また,菅原さんが計算しているLH指標でみても,0.066から0.091へとずいぶん悪くなる。より問題なのは,88人を選ぶのに48の1人区があるというバランスの悪さだろう。以前も強調したように大阪府会はただでさえ1人区が多い特徴を持っているのにその傾向が激しくなるということ。これは,一人を選ぶ知事と同様に,議会についても多数主義で選ぶ傾向が強まることを意味するわけで,府内では政党数が抑えられることが予想される。もちろん,現在の大阪府を考えると,事実上維新の会に対抗している自民・民主・公明・共産の各党が連合でもしない限り,維新の会にとって非常に有利な状況になると考えられるし,そうでなくても,有力なリーダー(知事(候補?))がいる政党の方が選挙戦を戦いやすくなるだろう。
今回の定数削減でいえば,定数削減の結果として堺市東区及び美原区よりも議員一人当たり有権者数が少なくなる選挙区で削減を行うことは妥当だったと思われる。それはつまり,高槻市三島郡豊中市東大阪市枚方市寝屋川市吹田市という基本的に3人区以上の選挙区*3と,生野区西成区大東市松原市という堺市東区及び美原区の2倍以上過剰代表されていた選挙区で定数をひとつ減らすということである。これで議席は10(「3人区以上で定数1削減」にすれば12)削減となって,定数不均衡も多少は改善することになったと言える。
しかし,既に条例は成立している。そこではもう少し配分の仕方に知恵を絞る必要があるだろう。具体的には合区をどうするか,というのがもっとも重要なテーマになるはず。いまでも堺市東区及び美原区,みたいな合区の選挙区はあるわけだから,少なくともそれは可能なわけだし。もちろん,一番簡単なのは隣接する人口が少ない1人区を二つくっつけて1人区にする,みたいなことで,できるとすれば福島区此花区浪速区大正区天王寺区+東成区,四條畷市+交野市,阪南市泉南郡くらいで,中央区+西区だとちょっと大きすぎるっていう感じになるか*4。個人的には,むしろ1人区ではなく積極的に3-4といった大きめの選挙区に揃えるかたちで,定数不均衡をきちんと是正するような方向を望みたい。党利党略的には維新の会は絶対に反対するはずなので,実現可能性としては薄いところがあるが,選挙区を超えて利益を集約する政党を考えると,このくらいの比例性は必要だと思うし,議会が常々強調する「首長のチェック機関」ということであれば,やはり多様な代表がいたほうが良いと思うので。1人区ばかりにして,お山の大将か有力リーダーの子どもの遣いしかいない,という状況が出現するとしたら,ちょっと悲惨すぎると思うわけですが。

追記

なんだ…非常に間抜けなことに,定数だけいじったのかと思ったら,当然のように選挙区も変えてました。提出議案はこちらのとおり。ちゃんと調べてから書かないとねぇ。で,調べたところ,結局議案による定数削減の選挙区は,上に挙げたのと同じ(ガックリ)。どのような理念で選挙制度を作るかという真剣な検討は見られず,僕みたいな区割りの素人でもすぐに計算できる非常に短絡的な方法で議員定数を削減したと言わざるをえない。これで定数不均衡は極めて大きくなったわけだし,率直に言ってある種のゲリマンダリングだという評価は仕方ないと思う。まあもちろんこれから基本的には4年間,この条例を変えれないわけではない(難しいが)。「定数不均衡」が非常に問題になっていることも踏まえつつ,府会の良識にぜひ期待したいところ。

*1:なお,住民基本台帳人口と有権者人口を比べると,基本的に有権者人口は住民基本台帳の8割程度となっている。大阪の場合,両者の比率の最大が浪速区の0.89で,西成区,北区,中央区などが高い。一方比率が最低なのが和泉市泉南市鶴見区貝塚市などで0.79程度。これは子どもの数に起因した差になる。

*2:なお,有権者人口で見ると順位は若干違うがまあほぼ同じような市区が下位にくる。当然だが。ただし,実際に定数の割り振りを考えると,後述の吹田市のような問題も出てくる。

*3:3人区は他に八尾市と茨木市がある。この両市で定数をひとつ減らすと,数千人だけ堺市東区及び美原区よりも有権者数が多くなるが,考え方によっては「3人区以上で定数1削減」はありえたかもしれない。

*4:率直に言って意外とできたなぁ,とは思ったけど。