ご多分にもれず,一年生のゼミで『失敗の本質』を読んでるわけですが,久しぶりに読み返すとやはりふつうに面白い。失敗例だけから教訓を引き出すってどないやねん,と思ったりもするが,失敗から帰納的に一般論を形成する技量というか,解釈の力は却って引き立つなぁと思う。しかも今回の原発事故の話と同時並行的に読んでいると,科学的方法論のようなものとは全然別世界での強い説得力を感じる。
学習とか評価とか自己革新とか,興味深いテーマはいくつもあるが,その中で特に自分にも関係する話として。
ガダルカナルでの実戦経験をもとに,…(中略)…米海兵隊が水陸両用作戦のコンセプトを展開するプロセスは,演繹・帰納の反覆による愚直なまでの科学的方法の追及であった。
他方,日本軍のエリートには,概念の創造とその操作化ができたものはほとんどいなかった。…(中略)…
さらに,近代戦に関する戦略論の概念も,ほとんど英・米・独からの輸入であった。問題は,そうした概念を十分に咀嚼し,自らのものとするように努めなかったことであり,さらにそのなかから新しい概念の創造へ向かう方向性が欠けていた点にある。したがって,日本軍エリートの学習は,現場体験による積み上げ以外になかったし,指揮官・参謀・兵ともに既存の戦略の枠組みのなかでは力を発揮するが,その前提が崩れるとコンティンジェンシー・プランがないばかりか,全く異なる戦略を策定する能力がなかったのである。(287-289)
まあコンティンジェンシー・プランっていうのは別としても,社会や組織の分析を行おうとする研究者にとっても耳の痛いところではあると思う。自戒を込めてメモ。
- 作者: 戸部良一,寺本義也,鎌田伸一,杉之尾孝生,村井友秀,野中郁次郎
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