ダブル選世論調査

11月27日に行われることは決まった大阪府知事大阪市長の選挙ですが,ボチボチ世論調査の結果が上がって来ました.今日は朝日と読売の結果が出ていましたが,なかなか興味深いところ.そもそもこの選挙自体,橋下・平松両氏のこれまでの成果を回顧的retrospectiveに評価するべきなのか,それとも今後の行動について将来的prospectiveに評価すべきなのかというのも流動的なところがあり,ある意味で「両者現職」という非常に興味深い選挙と言えるのではないかと思います*1

政党支持について

まずは読売の記事.こちらでは,文章の書きぶりから各候補への現状での支持率を聞いている感じはするものの,平松・橋下両氏が「横一線」という表現があるのみで,具体的な数字は載せていません.載せているのは政党支持と候補の支持の関係ということで,このような表記になっています.公明党が立場を決めていないというのがよく分かるところ.愛知県・名古屋市のときは公明党はわりと旗幟を鮮明にしていたわけですが,今回については決めかねている感じ.やはり大阪は重要な得票源ですから,国政選挙で維新の会と対立するのはいやだ,ということなのでしょう(まあ避けられないと思いますが…)

支持政党別では、維新支持層の大半が市長選では橋下氏、知事選で松井氏と答えた。
民主支持層は市長選では平松、橋下両氏に割れ、知事選では倉田、松井両氏を各3割以上が挙げて分散している。自民支持層は市長選では6割が平松氏、知事選で4割が倉田氏と回答した。
公明支持層は、市長選で平松、橋下両氏に分散し、知事選では4割近くが倉田氏と答えた。全体の6割を占める無党派層は市長選では橋下氏と平松氏が各3割以上、知事選では松井氏と倉田氏が各2割以上を分け合う展開となっている。

他方朝日の調査では,読売と違って現状での支持率を発表しています.それによれば支持率は以下のとおり.まあ橋下−松井/平松−倉田/渡司−梅田という図式でいいのか知りませんが,現状ではそれが流布しているわけで,見やすいようにその枠組みでまとめておきます.

大阪市長候補 支持率 大阪府知事候補 支持率
橋下徹 50 松井一郎 33
平松邦夫 26 倉田薫 21
渡司考一 2 梅田章二 5
中川暢三 1  
そのほかの人 7 その他の人 19

さらに両紙における政党支持率を見ると,次の表のような感じ.なお朝日の方の括弧内の数字は8月末の数字になってます.

政党 支持率(朝日) 支持率(読売)
民主党 12(9) 9
自民党 11(13) 13
公明党 3(5) 4
共産党 3(2) 4
みんな 1(1) 1
維新の会 7(4) 7
支持なし 54(59) 58
答えない 9(7) 3

実は非常に面白いことに,大阪維新の会に対する「政党支持率」は一貫して非常に低い.同じ朝日新聞の調査では,そもそも質問項目がなく,「その他」(2%)の中に入っていたと思われる.その後,4月の調査では4%*2,8月の調査で4%そして今回調査で7%だから,ここに来てマスコミも「政党支持率」を問うべき政党として認知しているとともに,有権者の側も一定の評価を行なっていると考えられる.読売新聞の「横一線」という表現も,政党支持率から考えれば,橋下・松井陣営を維新+民主・自民の一部が支持していて,平松・倉田陣営は民主・自民の相対的多数が支持しているという感じで理解できるのかもしれない.
まあ結局支持なしそうが重要になるわけですが,これに関して読売新聞の調査では,「橋下・平松両氏を支持する人の半分程度が「支持なし」」とは書いてあるけど,逆に「支持なし」のうちどの程度が橋下・平松両氏を支持しているのかは書いていない,という非常に分析しにくいデータだけだしている.それに対して朝日の方では,

全体の4割近くを占める各政党支持層では,55%が橋下氏と答え,平松氏を上げた人は30%だった.無党派層では,橋下氏47%,平松氏23%だった.

という「政党支持あり」と「政党支持なし」という区分を使っていて,各政党ごとの支持のあり方は書いていない.こう書かれると,大阪維新の会がどっちに入っているのか…と思わないでもないが,数字だけから判断すると,たぶん「政党支持あり」の方だと思われる.そうすると,「支持なし」層の中で橋下氏と平松氏の支持が倍くらい違っていて,結局これが最終的な支持率の差につながっているということかと思われる.ちなみに,読売新聞では,市長選が両紙の激戦となっているのは,「任期を3ヶ月残しながら辞職し,ダブル選を仕掛けた橋下氏の手法に反発が強いことが一因と見られる」とあるけど根拠は不明.ていうか池田市長も3年くらい任期が残ってる気がするけど.
問題があるのは,これはおそらく「大阪府」での数字であって,「大阪市」の数字は多少違う可能性があること.この点について,朝日では一面の記事で,「大阪市民に限った場合でも同様の傾向を示した」と留保はしているけど,数字が出ていないからちょっと良く分からないところがある.他方読売の方は,「市長選について聞いたのは大阪市在住の430人」とあるものの,この「市長選」の範囲がどこなのかよく分からないというのもちょっと問題.

争点について

はじめに書いたように,回顧的/将来的投票が入り交じっている以上,なにが争点になるのか非常にわかりにくい.まず回顧的な評価について見ると,両氏における,橋下・平松両氏の評価は以下のようなかたち.

朝日・橋下 読売・橋下 朝日・平松 読売・平松
大いに評価する 20 28 4 10
ある程度(多少は)評価する 60 51 39 53
あまり評価しない 14 13 47 25
全く評価しない 4 6 5 6
答えない (2) 2 (5) 5

ワーディングとしては,「ある程度」(朝日)と「多少は」(読売)で多少違いが出てくる可能性があるかな,という他,朝日で平松市長の評価が低いのは,たぶんこれは「府民調査」だからだと思われる.読売の方は,「大阪市内の方にお聞きします.」という一文が入っているが,朝日の方ではこれが入っていない.なんでそんなデータを出してるのかよく分からないが.他方で橋下氏に関しても,あくまで府民評価である点は差し引く必要はあると思うが,出ている数字だけから判断すれば,評価としては橋下氏の方が高く評価されていることがわかる.
将来的投票としての争点を見ると,両紙で少しニュアンスが違うところが興味深い.読売新聞では,争点として9項目から複数投票で聞いている.その結果は次の通り.

大阪都構想 47 府や大阪市行財政改革 70 公務員制度改革 66 経済活性化や雇用対策 80
医療や福祉政策 77 教育改革 58 防犯や治安対策 66 自身や津波など防災対策 71
温暖化防止など環境政策 57 その他 1 とくにない 1 答えない 1

というわけで,大阪都構想を重視している人は少ない,となる.しかし同時に「大阪都構想」への評価を聞いていて,以下のような回答を得ている.

橋下知事大阪府大阪市堺市を統合再編する「大阪都構想」を掲げています.この構想に賛成ですか.反対ですか.
賛成 22 どちらかといえば賛成 35 どちらかといえば反対 15 反対 10 答えない 17

ということで,大阪都構想が争点だと思ってない人の中にも賛成の傾向があるという不思議な結果が出ている.また,朝日新聞でも大阪都構想について聞いているが,こちらは

市長と知事のダブル選挙で,最大の争点は何だと思いますか
大阪都構想への賛否 48 教育基本条例案や職員基本条例案への賛否 25 ほかに大きな争点がある 19

ということで,むしろ読売の調査と全く違う感じになっている.ただこっちは大阪都構想については賛否のみで,「賛成42 反対31」という結果.まあクロス表がないのでよくわからないけど,ざっくりといえば,5割弱くらいは大阪都構想が争点だと思っていること,そして(争点と思うかどうかは別として)4割ちょっとくらいは大阪都構想に賛成している,という感じがわかる.このくらいの結果だと,これを争点に持ってこようとしている知事の戦略は,それなりに功を奏しているといえるのではないか.
他の争点として浮上しているのが,朝日・読売共に聞いている教育基本条例案の話(職員基本条例については朝日のみ).これは正直僕の予想よりも賛成が多かったのだが,以下のような結果となっている.なお,読売の方は4段階だが,比較しやすいように2段階にまとめている.

朝日新聞 賛成 48 
     反対 26
読売新聞 賛成 51(賛成 22 どちらかといえば賛成 35)
     反対 25(どちらかといえば反対 15 反対 10)

まあざっくりまとめると,

  • 橋下−松井/平松−倉田/渡司−梅田という図式がある程度できている上で,維新の会は基本的に一枚岩,既成政党は支持が割れている.
  • これまでの評価は全体的に橋下氏の方が高い
  • 都構想・教育基本条例案のような,論争的な提案については4-5割程度の支持を集めている
  • ただし,両調査ともに大阪府民に聞いているのが基本であって,市長選の調査としては問題がある

という感じか.以前に世論調査を見たときにも書いたように,やはり橋下氏・維新の会にはそれなりにコアなファンがいることは事実だと思う.ただ,1月は3割程度だと思っていたけど,今回は都構想への賛否や橋下知事への評価,松井氏への支持率などを見るにつけて,ちょっと落ちてるのではないか,という気がしないでもない.ただ他方で,非-コアの部分が全面的に剥落しているわけではなくて,だいたい(コアとあわせて)5割くらいの人たちは依然として一定の支持をしているという理解はできるだろう.言うまでもなく,市長選挙小選挙区制なわけだから,この非-コアの部分に対して,両者がどのようにアピールするかというのが重要になるのではないかと思われる.

*1:日本の場合だと,衆議院総選挙で比例復活があるから,同じようなことは起こっているわけですが.

*2:これは8月の調査における記述から.当時の新聞上では「その他」(5%)の中に入っていたと思われる.