ローカル・ガバメント論ほか

とうとう著書の出版から一年が過ぎ,トップの記事が入れ替わることになった。途中からは「まだあるのか…」と思ってはいたものの,日常的に見なくなるのはちょっとさみしい気がする…。
それはいいとして,愛知大学の野田遊先生から『ローカル・ガバメント論』を頂きました。同志社大学の真山達志先生に指導を受けた方々の集まりによる企画ですが,普通のそういう論文集と違って,かなり統一感のある本となっているのではないかと思います。「はしがき」で真山先生が書かれているのですが,真山先生自身のご意思でテーマを選定しているところがあるということで,そのために本として論じるべきテーマが明確で,まとまりのあるものになったのかと。個人的にも,以前から安直な「ガバナンス論」には違和感を感じており(まあ論文書いたりしてるわけですが…),その前にガバメントの分析が必要だと思いつつ研究してきたこともあるので,勉強させて頂きたいと思ってます。
ついでにご紹介として,この前原稿を入れた某雑誌で引用させていただいていますが,野田先生は最近大阪都構想に関するインターネットのアンケートを行なっていて,分析結果と併せてデータについてもご自身のウェブサイトで公表されています。この分析自体非常に興味深いですし,データをこういうかたちで公開されるのも,極めて画期的な試みだと思います。ご関心ある方はぜひ!*1

ローカル・ガバメント論―地方行政のルネサンス

ローカル・ガバメント論―地方行政のルネサンス

もう一冊,神戸大学の曽我謙悟先生と首都大学東京の松井望先生から『政策変容と制度設計』を頂きました。こちらは学習院大学森田朗先生に関連する方々が集まった企画です。「統治機構改革は政策再編をもたらしたのか」という帯がついていますが,1990年代の統治機構の改革が,政策にどのようにつながってきているのかを分析したものです。1990年代の様々な改革が,政策にどのような影響をもたらしたのか,という分析は様々な形で進められていますが,それを「統治機構改革」と全体的に捉えて,そこと政策再編の関係を議論するものは珍しいところなのではないかと。90年代の改革に,「統治機構改革」というような一貫した方向性があったかどうかは議論の余地があるとは思いますが,本書はその議論に対するインプリケーションを持つのではないかとも思います。
とりわけ,頂いたからというわけではありませんが,松井さんが書かれた「統計制度」についてはぜひ見て頂きたいところ。統計制度はしばしば単にどのようなデータを得るのかという技術的な問題として扱われがちですが,もともと極めて政治的な問題でもあります。これまでの統計制度の論理というのは,政策を考えたりその効果を測ったりするために統計を用いるといういわば「政策の論理」ではなくて,どのようにデータを集めるかという「実査の論理」みたいなところで動いてきたところがあります。問題はどのようなデータを取るか,どんなサンプリングが必要か,というようなところではなく,調査対象とうまく関係を築いてとにかくデータを集めるということが問題だったわけです。なので,必要なのは「統計」の専門家ではなかった,と。
しかし,1990年代以降の改革では,これについて「政策の論理」が全面に出てきて,各省の統計部門を司令塔としての統計委員会のもとに一元化しようという話が出てきます。地方分権改革推進委員会の議論でも,例えば第60回の議論は典型的に近いような話になっています。松井さんの議論は,一連の改革の中でどの部分が進み,逆にどの部分が進まなかったかを明らかにするものです。最近の議論では,すぐに政策の効果を測れ,というような話が出てくるわけですが,それは単に技術的な問題というだけではなく,政府という巨大な組織の中で,そこに至るまでにどのような問題が存在するのかを明らかにするという点で,地味ではありますが,まさに参照されるべき「行政学」の仕事なのではないかと思います。

*1:こういうことを「いただきもの」タグで書かない方がいいのかもしれない…