公私共にお世話になっている京都大学の待鳥先生から『首相政治の制度分析』を頂きました。どうもありがとうございます。
1990年代の制度改革を挟んだ日本の首相政治を論じたこの本では,最近の先行研究で言うところの「議院内閣制の大統領制化」(Poguntke and Webb)という議論をどのように考えるかが焦点になっています。この議論自体は,最近の欧州諸国において議会多数派から選出される首相がまるで国民からの公選で選ばれる大統領のように振る舞うという現象に注目したものですが,本書では大統領制化というまあいわばなんでもありな説明とは違って,そういう首相の振る舞いを議院内閣制のタイプ(ウェストミンスター型/欧州大陸型)にひきつけることで,改めて運用レベルでどのようなときに「大統領制化」と呼べるような状況が起きているかを整理したものになっています。
理論を受けた実証分析も,扱いにくいデータを丁寧に整理して進められていますが,個人的に非常に面白かったのは5章です。一時期隆盛となった「首相支配」「官邸主導」という議論が,小泉内閣以降の首相の弱いリーダーシップによってやや説得力を弱め,1990年代の制度改革の効果に疑問を呈するような議論も出てくる中で,制度論者の反論としておそらく初めてまとまったかたちで出されたものだと思います。その処方箋として,参議院を中心としてさらなる「改革」を求めるというのは全く同感です。そういう意味では,あとがきなどで「異端」を強調されるのはどうかなあというところも無きにしも非ずですが(苦笑)。本書の議論は近年の比較政治制度論の蓄積を十分に踏まえた上で日本政治についての分析を行った成果であり,そこから得られた含意は,むしろ新しい「正統」と言ってもよいような感じもします。
しかし,いろいろとお忙しくされている中で,三冊の単著*1と二冊のかなり濃い共著*2を出されているお仕事ぶりを見ると,本当にすごいことだと思います。真似するのはとても難しいですが,改めてそのお仕事ぶりを見習いたいところです。
首相政治の制度分析- 現代日本政治の権力基盤形成 (叢書 「21世紀の国際環境と日本」)
- 作者: 待鳥聡史
- 出版社/メーカー: 千倉書房
- 発売日: 2012/05/29
- メディア: 単行本
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- 作者: Thomas Poguntke,Paul Webb
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*1:他二冊は『財政再建と民主主義』『<代表>と<統治>のアメリカ政治』
*2:全面的な共著だという『日本の地方政治』と『比較政治制度論』