造反有理?

社会保障と税の一体改革が大詰めを迎えているが、いわゆる「小沢派」が民主党を割るという話になっているらしい。小沢一郎氏自身については、過去に何回もこういうことが行われているので、もはやデジャブでしかないが、今回の焦点は与党が衆議院過半数を維持できるかの「54人」がまとまるかどうか、だそうだ。これまでだって毎回「○○人」ということが言われていてそのほとんどで失敗し続けてきたわけだし、彼らの影響力を最大に行使するための武器が与党内で「何人まとめるかわからないけど反対するぞ」と連呼することなわけだから、まとめて影響力の無い野党へとわざわざ移行するとは思えないけれども。
ただ、今回については「本気」と見る向きがあるのもわからないではない。民主党が自公と合意して大連立含みで消費税法案を通すとなると、民主党内で「反対するぞ」といって影響力を行使しようとしてきた人たちは、もはやそのようにして影響力を持つことが難しくなるわけだから。残ってても出てもおんなじような状態であれば(感情的にも)出てやれ、ということなんだろう。「反消費税・反原発」でいけば勝てる、とかいう向きがあるらしいが、その時点で消費税法案はすでに通っていて、政党内で多数を得られなくて追われた人々が消費税再引き下げという(国際的な立場からも)ハードルの高い仕事ができると期待する人たちは少ないだろうし、これまで何も言ってこなかったのに機会主義的に「反原発」といって支持を得ることはたぶんないだろう。そもそも自前で候補者の調達もできないだろうし。
そういうことを考えると、民主党執行部としては、(1)自公とは消費税で一致しただけで基本的には別路線であることを強調しつつ、(2)反対した場合には除名するということを強調する、ということになるのかな。(1)が必要なのは、まあやや悲しい話ではあるけれども、今後とも党内にいれば消費税以外にも「党内批判勢力」として一定のプレゼンスがありますよ、という誘い水になるし、(2)ではもし裏切った場合にそういう影響力は今後持てなくなることを明らかにする、と。
ただ必ずしもどっちも強調しているようにも見えない。執行部から見ると、裏切るわけないと高を括ってるのかもしれないが、逆に除名されないという期待が高まれば裏切りを誘発する気がするんだけど。とはいえ、反対者が40とか50になってくると、もはや民主党の政党ラベルはこれ以上ないくらい毀損されるので(これからさらに毀損される余地があるのかはわからないけど)、反対した方ももはや政党にとどまることはできない。基本的には小沢派というか54人目の潜在的な反対者が先手で、執行部が後手のゲームのように見えるけど、一定数が反対すると後手(執行部)の判断はそもそも生じる余地がないかたちになってるのかもしれない。そして執行部がそう思ってるとすれば、現在特に何もしないのも分かる気がする。人数が多ければ勝手に出てくだろうし、少なければ粛々と除名する、みたいな。
こうやって機会主義的に考えると造反有理もクソもないわけだが、規範的に(?)反対者に理はあるのだろうか。社会保障と税の一体改革は、小泉政権末期以降、ずっと問題になり続けていたテーマだが、この問題についての立場は主に3つあるように見える。ひとつは(a)社会保障支出をできる限り維持することを志向して増税を中心に負担増を認める立場、次に(b)増税を認めない代わりに社会保障支出を可能な限り削減する立場、最後に(c)経済成長による自然増収や政府が隠している「ムダ」という収入があるから増税しなくても社会保障支出を維持できるという立場か。
増税を言う人は(a)と(b)で対立軸を設定し、反対する人は(a)と(c)の対立軸を演出する。2009年の民主党は明らかに後者だったし、現在の「小沢派」などもそうだろう。個人的には今回「小沢派」が出ていくのと同時に、自民党の方でも反対する側は党を離れて「小沢派」と一緒になってほしいと思うが、(a)-(b)ではなく(a)-(c)で対立軸が設定されることが予想されるので、それはそれで既視感が強い。(c)が一定の支持を得ながらも、実際に政権を取ると(a)-(b)の間での選択が必要となり、もともと(c)だったものが部分的に(a)となる一方で(c)が依然として残るというのが繰り返されるわけで。
そういえば、先日『POSSE』という雑誌に寄稿させて頂いたが、「大阪都構想」でもこの(a)(b)(c)と同じような構造が内包されているのではないかと考えているところ。まあほとんど読まれていない論文だと思うけれども、もしご関心のある方はご笑覧いただければ(宣伝)。

POSSE vol.15: 橋下改革をジャッジせよ!

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