羽曳野市長選挙/河内長野市長選挙

この二週間で大阪府ではふたつの市長選挙が行われたが、これは今後の大阪府政を考える上で興味深い選挙だったといえるのではないか。
まず、羽曳野市長選挙については、維新の会、首長選初黒星 大阪・羽曳野市長選、現職3選と割と大きく報じられているように、これまで選挙にほとんど負けたことがなかった大阪維新の会が、はじめて負けたということである。そもそもこれまでどんな選挙をしてきたのか、改めて振り返ると、まず結成前の2009年9月の堺市長選挙、統一地方選挙のタイミングで行われた2011年4月の吹田市長選挙、ダブル選挙の前哨戦となった守口市長選挙、そして大阪府市ダブル選挙がある。ここまでは、橋下氏を中心に積極的な選挙運動を行っていて、それぞれ相乗りを相手にかなり厳しい選挙戦に勝利した感じ。
ダブル選挙後のものといえば、2012年4月の茨木市長選挙では、維新の「支部」が支援するという元自民党所属の市議が勝利した。そして実はこの辺りからちょっと感じが変わってくる。4月の大東市長選挙では、維新の府議が支援して、自民・公明が推薦を出している現職の後継者が勝利した(例えばこちら)。大東市では、茨木のように「支部」が作られることもなく、維新府議の「個人的な応援」に過ぎなかったという。
やや脱線気味になったけれども、改めて羽曳野市。ここで大阪維新の会は、羽曳野に「支部」を作って新人を支援するという茨木と同じ方式を用いている。選管の発表を見ると、現職が18796票に対して、維新の会の候補が13373票、そして共産系の候補が7666票となっている(ちなみに全員市職員出身というのはそれで興味深い)。実は同時に市議補選が行われていて、こちらの方は「支部」に推薦された候補が12823票で、11575票・10623票のほかの二人を破って当選したという(読売の記事)。
ひとつには、いくら勢いのある維新の会でも、相乗りの現職に勝つのは簡単ではないということだろう。堺・吹田・大阪のように総力を結集して行う選挙ならいざしらず、「支部」方式ではそこまで大きな風は起きにくい。他方で、現職が出るということは、一定の求心力を持つ候補が関係する政治勢力をまとめることができる可能性がある。さすがにそれを圧倒するのは困難だし、羽曳野のように中心から少し外れるとその困難が増すということだろう。そういう意味では、実はこの選挙は大阪市と隣接地域からちょっと外れる初めての選挙だったというのも特徴であった*1
しかし同時に、意外といっていいほどに維新の会への支持が根強いことも示している。市議補選は正確な構図がわからないけれども、共産系はいなくて保守系の候補同士の競争になっているようだ。その中で僅差とはいえ維新の会の候補が勝利し、しかもその得票は市長選挙での得票と大体同じということになっている。はじめに上げた朝日の記事では、出口調査の結果も示されていて、「政党支持率大阪維新の会が21%と最も高く、自民19%▽民主10%▽共産9%▽公明6%などと続いた。無党派層は27%だった。」とある。この調査では、もはや大阪維新の会は「無党派層」が支持するものではなく、独自の政党支持を持つグループとなっていて、しかも自民党民主党よりも支持が大きいということになっている。そして、大阪維新の候補は、27%の無党派層からの支持はそれほど大きくないと。まあもともと「無党派層として大阪維新の会を支持していた」人の多くを「大阪維新の会」支持へとカテゴライズしているので、それは自明だろうが。
国政を考えた時に、「相乗り」のように複数の政治勢力に対して求心力のある現職というのは基本的にはいない。こう書くとわかりにくいけど、要するに自民党公明党民主党から支持される現職なんていない。そうすると、結局のところ大阪維新の会に対して自公・民主で対決してしまうところがあるので、市議補選と似たような結果が生まれやすくなるのではないか。それが羽曳野という、少し中心地域から離れたところでもおきたというのが重要なポイントであって、個人的には市長選挙よりも市議補選の含意の方が重要ではないかと考えるところ。
さて、河内長野市長選挙。これはおそらく新しい形式の選挙だった。現職と新人が一騎打ちになっていたわけだが、A.T.カーニーからスタートして外資系を渡り歩き、INSEADでPh.Dをとったという神戸大学准教授でいかにも維新の会に支持されそうな新人候補者は、維新の会からの支持を受けていない。現職も維新の会からの支持を得ているわけではないが、まちBBSツイッターなどを見ていると、自民党国会議員西野陽)の次男でもある地元の府議は、個人的に現職の応援をしていたような感じ*2。とすると、大東市のようなモデルに近いわけだが、違うのは新人候補の経歴がピカピカで、まあいわば都市有権者が好みそうな改革志向が強そうなところ。結局のところ、投票率が4割を切っていて、そら現職が勝つだろうというような感じになっているが、それでも現職20550票に対して新人14304票なので、一定の健闘とは言えるのではないか。
このように、今回続いたふたつの選挙は、大阪維新の会の今後のふたつの可能性を示しているように思われる。ひとつは、羽曳野市議補選で見られるように、対抗する政治勢力が分立する中で、一定の自律性を持って競争するタイプ。そしてもうひとつは河内長野市長選挙で見られるように、従来の政治勢力と近づくようなかたちで選挙に臨むタイプ。おそらく、大阪市周辺の中心部では、圧倒的に前者の方式でいくだろうが、羽曳野や河内長野という、やや中心から離れた地域では、このようなタイプの選択が行われていくことが予想される。
たぶん、大阪維新の会のコアのところは、こういう周縁部の市長選挙に対して明確なスタンスを採らないだろう。執行部というかコアから見れば、羽曳野タイプで全部勝つのは望ましいだろうが、地元の府議市議から見ると河内長野タイプの方が自らの地盤を固めやすいし、中心から離れるほど河内長野タイプの方がそもそも勝ちやすい。コアから見ても、一定の協力勢力を作ることは悪くないのだろうけど、将来どのくらいの妥協が必要とされるのかはわからないところ。国政でも、民主党に典型的なように、周縁部の支持を得ることは却ってモノを決めにくくするところがある。
今年は実は大阪府下で選挙が続く。熊取町茨木市大東市、太子町、千早赤阪村羽曳野市河内長野市が終わって,あとは泉大津市箕面市摂津市阪南市能勢町豊能町忠岡町と続く。箕面市摂津市はどちらかと言えば中心寄り(摂津市は隣接10市のひとつ)だが残りは周縁的。どちらかと言えば国政に注目が行きがちな時期にこれらの地域で選挙が(ある意味こっそり)続くのは、維新の会に有利なのかどうかわからないけど。

*1:茨木市大阪市に「隣接」はしていないものの、少なくとも市の南部は大阪市経済圏とかなり関わりの深いベッドタウンとなっている。

*2:まあ本人のこういうつぶやきもあるのでたぶんそうなんだろう。