地方分権改革の政治学

北海学園大学の木寺元先生からいただきました。どうもありがとうございます。昨年出された博士論文を出版したご著書で、10年近く駒場で一緒に学生時代を過ごした友人としても出版を非常に嬉しく思うところです。
内容は、もちろん表題の通り地方分権改革の政治学的分析ではあるのですが、その議論は「制度がなぜ/どのように変わるか」という問題意識に貫かれてると言えます。制度が変わるって割と当たり前のことを議論してるんじゃないかと思われる向きもあるかもしれませんが、「制度」っていうのは変わりにくいからこそ「制度」なわけで、それが「変化する」っていうのは実に不思議な話であるのです。本書では、そのような不思議な制度変化のメカニズムを解き明かそうというモチベーションで、日本の地方分権改革を対象に議論を進めていきます。
制度変化の説明についてはもちろんいくつかあると思いますが、例えば僕なんかは、「移行」ということを気にしていることもあって、制度は変わっているようで変わっていないし、変わっていないようで変わっている、といった若干トリッキーなことを言ったりします。これは、制度をめぐる関係者の予想がすごく時間をかけて変わっていくことに注目する議論なわけです。しかし、木寺さんはそうではなくて、政策をめぐる「アイディア」というものが、政治的なアクターを通じて制度を変えることを議論します。先行研究を踏まえて「アイディア」が制度に対して影響を与えるメカニズムを整理して、どのような条件が整えば制度が変わるかを明らかにします(具体的には本書をどうぞ)。これは制度変化の問題に直球で取り組んでると言えるでしょう。このテーマについては、他分野でも、言わずと知れた青木昌彦先生の比較制度分析がありますし、僕などは読んでいてルーマンの『法社会学』を思い出すところが少なくありませんでした*1。制度変化について、政治学は他分野の議論を援用することが少なくないですが、政治学からの発信として他分野とも議論を進めて欲しいところです。
実はその理論部分については、概念が様々に出てきてちょっとややこしいところもあるのですが*2、本書の実証部分は読み物としても非常に面白くできているのではないかと思います。財政を中心とした地方自治制度の改革の歴史をたどるのは堅い話ではあるのですが、読みやすく、かつ理論部分の実証として成功しているのではないかと思います。理論部分を一読しただけですぐに理解するのはやや難しいかもしれませんが、例えば2章を一度読んで理論部分に戻ったりすると、本書のメッセージが非常によくわかるのではないかと思います。
さて、本書の長い「あとがき」では、2章がご本人にとって青春だったって話が出てくるわけですが、個人的には3章に思い入れがあります。これは、『公共政策研究』7号で僕の論文の後に載っている論文なのですが、僕の記憶が確かであれば、これは木寺さんの卒業論文がもとになっているはずです(ほとんど原型はないでしょうが)。当時僕は修士の1年で、いまとは全く違う研究をしようと思っていたのですが、あの卒業論文を見せてもらったのが「機関委任事務」をほとんどはじめて知ったきっかけのようなもので(だからコメントしたとは思いますがきっと的外れだったのでしょう)、僕自身が地方制度の研究をしようと思った時に、当時のその論文を読み返したような記憶もあります。まあそう考えると、本当に研究者としての歩みを始めた頃からの付き合いなんだなあ、と思うわけですが。

地方分権改革の政治学 --制度・アイディア・官僚制

地方分権改革の政治学 --制度・アイディア・官僚制

比較制度分析に向けて 新装版 (叢書≪制度を考える≫)

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法社会学

法社会学

*1:たまたま、普段はあんまりちゃんと読まないMarginal Revolutionを読んでいたら、ほとんど同じような問題意識で議論されていると思われる本が紹介されていました。ちょっとこれも読んでみたい。まあただこっちはwasteful institutionがbetter ideasによって変化するという感じなので、やや違う議論かもしれないが。

Madmen, Intellectuals, and Academic Scribblers: The Economic Engine of Political Change

Madmen, Intellectuals, and Academic Scribblers: The Economic Engine of Political Change

*2:追記:ここは「アイディア」を議論する際の、彼の科学哲学/科学社会論に対するこだわりのようなものが背景にあって、それは指導教員の内山融先生の問題意識を引き継いでいるところでもあります。もはやタイトルすら正確に思い出せないけども授業でファイヤアーベントとかガネルとか読んだしなあ…。理論的な課題としては、きっとここのところの整理なのでしょうけど、この点に関しては、立命館大学の加藤雅俊先生をはじめ若手の研究者が多く取り組んでいるところのようにも思います。

構成主義的政治理論と比較政治 (MINERVA比較政治学叢書)

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