『旧体制と大革命』あるいは古典を読むこと

昨年末の某研究会で、松井望先生に拙著を書評して頂く機会があり、「大阪の中に大阪を越えるものを見た」「大阪維新という「革命」以前から続く論理構造の抽出」というトクヴィルを踏まえたご感想を頂きまして*1、まあもちろん今回の大阪の話がそんな世界史的なイベントであるというわけではないのですが、まさに拙著を執筆するときに意識していたことなので、非常にうれしく思ったところです。で、まあ一応中央地方関係の研究をしているので、『アメリカの民主政治』はちょくちょく手に取る機会はあるのですが、『旧体制と大革命』は、話の筋自体は聞くことがあるものの、本自体はきちんと読んだことはなかったので、折角の機会と思って購読してみました。

アメリカの民主政治(上) (講談社学術文庫)

アメリカの民主政治(上) (講談社学術文庫)

旧体制と大革命 (ちくま学芸文庫)

旧体制と大革命 (ちくま学芸文庫)

まあこうやって書いてるので評価は推して知るべし、ですが非常に勉強になりました。もちろん、しばしば指摘されるように、フランスにおいて大革命以前に中央集権が進展するとともに社会の平等化が強まり、「不平等な社会」であれば不可視化されていた不平等が問題となっていったことが大革命の要因となっていったという明快な論理構造の主張は興味深いところです。個人的には、何より関心を引いたのは結局のところ大革命が「制度」を変えたのだろうか、というような議論でした。もちろん政治体制自体は変わっているわけですが、人々を制約する「制度」には以前から連続している部分が非常に大きくて、革命という刺激的な言葉とは異なる何らかの連続的な移行が行われているのではないかというような印象を持ちました。他にも、イギリスのように階級的な融合が進む社会と比べて、フランスでは階級同士の融合がなく相互に孤立していたことを議論する比較社会論的な部分も面白いと思いますし、まさしく「古典」らしく色々な読み方ができる優れた著作であるのは間違いないでしょう。
読み終わって、こういう本を大学で読むことができたら自分としても勉強になるだろうなあ、とは思うところ。例えば「革命」に関する古典を中心とした著作なんか、じっくりと読んで教員・学生の間で議論すれば得られるものはお互いにそれなりに大きいだろうし、いかにも大学という感じもするなあ、と(まあ「感じ」はどうでもいいんでしょうけど)。でもなかなか難しい。もちろん、教員側が読み直す時間の問題もあるわけですが、学生に読んでもらおうと思っても、学部のゼミでこのくらいの本を一週間に一冊とかやろうと思っても絶対消化不良になりそうです。そもそもみんなが読んでくるということをきちんと期待するのはなかなか厳しい…(そんなことを言うとお叱りを受けそうですが)。
かと言って大学院、ということになると、大学院生はとにかく自分の論文をまとめていかないといけないので、「革命」みたいに大きなテーマでモノ考えるのに付き合ってる場合でもないんですよね。それを捕まえて「最近の大学院生は小ぶりになってる」とかアホみたいな批判はあるでしょうけど、まあそらみんながちゃんと勉強してれば何だかんだ言っても就職がある、っていうような時代ではゆっくりと論文に関係ない本を読む時間もあったでしょうけど、そんなにきちんとポストができていない中では論文を優先して就職を有利に進めようとするのは当然なわけで。じゃあ大学教員同士で勉強会するか、ってくらいですが、言うまでもなくそんな趣味のような時間はない…と。最近はやりのエグゼクティブ向けの大学院みたいなところ(例えば東大EMP京大思修館)かとも思ったわけですが、ここもまあいろんな分野に手を出さないといけないらしく、はっきり言って忙しそう(苦笑)。
結局のところ、現代的なインスピレーションを得るために頑張って個人で古典を読もうね、って話にしかならないとしたら、それも寂しいなあ、と思ったり。まあ東大だったら全学自由研究ゼミナールとかで(僕は出たことないけどw)、学部のうちに「ムダに」古典を読むような時間の使い方もできるのかもしれませんが。でも、「何が得られるのかわからない」もののために時間を使うってのがどんどん難しくなってるんだなあ、と改めて。
革命とか体制に係るものだとこの辺りかなあ。まあちょっと専門外なので分からないところもありますが、意外に明治維新を「革命」として分析した政治学の研究って少ないような気がする(最近『レヴァイアサン』であったけど)。「政治史」はだいたい明治から始まることが多くて、その明治を作った革命ってのはあくまでも「歴史」(明治維新史)として取り扱われているのではないかと。まあそらもちろん研究自体はありすぎるほどたくさんあるんでしょうが。
States and Social Revolutions: A Comparative Analysis of France, Russia and China

States and Social Revolutions: A Comparative Analysis of France, Russia and China

現代社会革命論―比較歴史社会学の理論と方法

現代社会革命論―比較歴史社会学の理論と方法

制度・制度変化・経済成果

制度・制度変化・経済成果

Economic Origins of Dictatorship and Democracy

Economic Origins of Dictatorship and Democracy

政治体制 (現代政治学叢書 3)

政治体制 (現代政治学叢書 3)

明治維新 1858-1881 (講談社現代新書)

明治維新 1858-1881 (講談社現代新書)

日本近代史 (ちくま新書)

日本近代史 (ちくま新書)

*1:ちなみにこの書評は個人的に非常に勉強になるもので、聞いてる途中で、これはひょっとしたら松井さんが真の書き手ではなかったのだろうかという気さえしてきました。お許しを得たらそのうちレジュメをアップするかもしれませんw松井さんのご好意で、レジュメをアップさせて頂きます。ありがとうございます。