少子化論

最近ブログがいただきもの記録にしかなってないので月に二回くらいは書きたいと思いつつ6月は失敗。先月のいただきものは重くて整理できていないので、とりあえずちょっと前に読んだこの『少子化論』を紹介したい。
少子化関係の書籍は多いが、研究書としてはそんなにないような気がする。あっても少子化を正面から取り上げるというよりは、「子育て支援」の文脈で議論されることがほとんどで、保育施設をどのように増やすか、といったような議論に収斂することは少なくない。それに対して本書では、「少子化」が問題であるとする立場からその問題について分析し、政策提言まで行っている貴重な書籍と言える。
本書の主張は、少子化の原因が未婚化にあるというものであって、これ自体はそれほど珍しい議論ではないように思う。最近の良心的な(?)議論では、女性の社会進出とか、子どもの養育コストが大きいとかそういう議論より、本書と同様に未婚化を問題にすることが多くなっているような気がするし。未婚化が原因ということは、その背景に若年層が結婚しづらくなっているという状況があり、政策提言としてはしばしば言われるような(ゼロ歳児を強調するかたちでの)共働きの世帯向けの保育所よりも、女性が出産後しばらく働かなくなるという現状を踏まえた上で、そのような典型家庭向けの支援を充実すべきという極めて穏当なもの*1。僕が個人的に松田先生の議論を見るたびにほとんど同じような意見と思うので、これが穏当だと思うんだけども、保育所の充実=子育て支援少子化対策、と考えている向きからはラディカルな議論と捉えられるかもしれない。
この本で非常に興味深かったのは、第5章「都市と地方の少子化」。こういう議論を見たのは不勉強にして初めてだったけど、納得する部分が非常に多かった。その内容は、(1)従来は都市で出生率が低く地方で出生率で高く、都市の人口不足を地方で補完する関係があった、(2)近年は都市の出生率は下げ止まっているが地方の出生率が下がっている地域はその低下が著しい(あまり下がっていない地域もある)、(3)最近の「少子化対策」は「都市型」の傾向が強いため、地方の少子化対策には向いていない、地域ごとに独自の対策が行われるべきでそのための予算配分も考えなおすべき、というもの。これはまさにその通りで、以前に書いたエントリでもちょっと議論したけど、待機児童問題っていうのは典型的に都市の問題なわけで、ここにのみ焦点が当たるというのは国全体の少子化対策としてちょっと問題なんだろう、と。もちろん、待機児童をほっとけばいいってことではなく、それで十分ではないということをきちんと主張すべきということになるわけだが。
政策提言は、わりと家族を強調するものになっているのが特徴のように思われる。これは家族的価値観の重視というよりも、典型的家族の支援を強調することに代表されるように、現状を尊重することによるエコノミーだと理解しているのだがどうだろうか(少なくとも僕に関して言えばそういう発想で家族を強調するのは十分にありだと思っている)。ただこの家族的価値というものは、常に潜在的に議論を呼んでしまうところがあるので簡単ではないだろうけど、そういった価値とある程度距離を意識した上で議論されるべき政策提言がきちんとなされているように思われたところ。

*1:もちろん親子が孤立せず、親が一定の自由時間を持つための一時保育などは別に考えるべきということですよ。