今年の○冊(2013年)

2010年から毎年年末にこのネタを書いてきてますが、2013年版今年の○冊を。2010年にこれを始めたのは、当時なぜか現代日本政治関係の博士論文が続々と出版されていて、それを紹介しようと思ったからです。最近減ったかな、と思ったのですが、やはり今年については現代政治関係の博論はちょっと少なめだったみたいです。どちらかというと最近は、そういう博論(それ以外の分野でも)を出版してきた人たちが二冊目以降に相対的に一般向けの本を書く、というのが多かったような気がします。
まず2013年初頭ころのものとしては、伏見岳人『近代日本の予算政治1900−1914―桂太郎の政治指導と政党内閣の確立過程』、鈴木一敏『日米構造協議の政治過程』でしょうか。両方ともダイレクトに専門が近いわけではないので十分に読みきれているわけではないのですが、実はいずれも「制度化」にかかわるテーマとなっています。前者は桂太郎時代の予算政治の制度化をテーマにしているし、後者は制度化された国際交渉の方法に注目した議論となっています。いずれにしても現代の国内政治にも含意がある議論ではないかと。

3月は安周永『日韓企業主義的雇用政策の分岐』、善教将大『日本における政治への信頼と不信』ですね。安さんのものは、ともすれば感情的な議論が先立ちがちな日本の労働政治について、韓国との比較を織り交ぜながら冷静に描かれた好著だと思いました。個人的には日本の労働組合についてやや異なる評価を持つところもありますが、最近政治学的な分析が減っている労働分野での出版ということで、関係する方々にも読まれるのではないかと思います(批判的なものも含めてすでに書評もあるようですし)。善教さんのご著書はについては以前もご紹介しましたが、抽象的な議論がされがちなところできちんとデータをとって実証的な分析を行おうとしている好著だと思います。
日本における政治への信頼と不信

日本における政治への信頼と不信

3月のつぎは6月に集中しています。上神貴佳『政党政治と不均一な選挙制度』、白崎護『メディアとネットワークから見た日本人の投票意識』がありました。上神さんのご著書は、東洋経済の連載(「弱い地方組織の元凶、選挙制度の不均一」)でも紹介しましたが、国政・地方政治に加えて党首選挙を含めた「不均一な選挙制度」が政党にどのような影響をもたらすか分析した好著だと思います。白崎さんの本は善教さんの本とも似たテーマでありますが、最近のサーベイを利用した研究が活発になっていることを示すものになっています。「現代日本政治」というくくりでみると、博論が出版されたのはこの4冊くらいなのかなあと思うところですが(あればぜひ教えて下さい)、博士論文の出版から二冊めの研究書というものとしては、野田遊先生の『市民満足度の研究』、青木栄一先生の『地方分権と教育行政』はともに興味深く読ませて頂きました。私自身も、来年は博士論文以降の研究のまとめを行いたいなあとは思っていますがなかなか簡単ではないことを常々感じているので、二冊目の専門書を早い段階で出されることは本当にすごいことだと頭が下がります。
市民満足度の研究

市民満足度の研究

地方分権と教育行政: 少人数学級編制の政策過程

地方分権と教育行政: 少人数学級編制の政策過程

あとはまず頂いて非常に興味深く読んだものとして、やや専門は違うのですが、鵜飼健史『人民主権について』(7月)があります。政治思想/政治理論に関わる分野では、他にも博士論文をもとにした物が少なくないとは思いますが、たまたまいただいたことをきっかけに読ませて頂いて非常に勉強になりました。なんというか、政治理論って経験的な分析からそんなに遠いものではなくて、その気になれば色々一緒に考えることはできるんだろうなあ、と思ったといいますか。それから政治史ですが黒沢良『内務省の政治史』(9月)でしょうか。この本は、前半は内務省と政党の関係が議論されていて、選挙と警察、地方行政という所管分野の存在によって政治と行政の結節点となっていた内務省が、政党政治が華やかになるにしたがって選挙(あるいは選挙違反)の重要性が増すことで、政党との距離感を縮めていく様子が描き出されています。後半は主に内務省と軍部の関係を主に見ているのですが、翼賛体制によって選挙の重要性が減少する中で内務省の地位もゆらぎ、軍部と結びつく「新官僚」が出現する一方で、そういった勢力は省内での争いに敗れるということもあり、戦時期には内務省の影響力が弱まっていくことが議論されています。内務省というと最も権威ある役所と見られて、それがGHQの戦後改革で解体された、と考えられがちですが、ほっといても従来のような内務省はなかなか持たない、どうせ知事公選制だ、といったような内務省観に近いところがあってなかなか興味深いところです*1。まあいわば選挙や地方行政に関する「人事」によって国家の統合を図ろうとしていた内務省が、戦前期・戦中期にどのような変遷を遂げたか、ということを教えてくれる良書で、現代への含意も少なくないと思います。
人民主権について (サピエンティア)

人民主権について (サピエンティア)

内務省の政治史 〔集権国家の変容〕

内務省の政治史 〔集権国家の変容〕

さらに昨年も結構増えていた、同世代(+少し上)の方々の新書ですが、今年も同じように出版されています。浅羽祐樹『したたかな韓国―朴槿恵(パク・クネ)時代の戦略を探る』、松元雅和『平和主義とは何か』、清水唯一朗『近代日本の官僚−維新官僚から学歴エリートへ』、そして北村亘『政令指定都市−100万都市から都構想へ』という感じで、これらはいずれも研究論文をちゃんと書いてる人たちが「一般向け」という形式でまとめたものになっていて、いつもの専門書よりずっと広い読者を獲得しているのではないかと思います。他には、ちょっとシニアになりますが牧原出『権力移行』とか、分野は政治史になりますが松沢裕作『町村合併から生まれた日本近代』も一般向けのレーベルで広い読者層を想定していると思います。
したたかな韓国 朴槿恵時代の戦略を探る (NHK出版新書)

したたかな韓国 朴槿恵時代の戦略を探る (NHK出版新書)

権力移行 何が政治を安定させるのか (NHKブックス)

権力移行 何が政治を安定させるのか (NHKブックス)

町村合併から生まれた日本近代 明治の経験 (講談社選書メチエ)

町村合併から生まれた日本近代 明治の経験 (講談社選書メチエ)

蛇足で宣伝ぽい話ですが、今年については僕自身も属している関西の政治学者の仕事が出版されたり評価されたり、ということがあったような気がします。自分自身、サントリー学芸賞をいただくことができましたし、曽我謙悟先生が日本学術振興会賞という学会として評価されるような素晴らしい賞を受賞しました。出版という点でも、『選挙管理の政治学』『政党組織の政治学』というともに新しい分野をひらくような共同研究がかたちになったのは非常に充実した成果なのではないかと思います。他にも現在進行形のプロジェクトはいくつもあるでしょうから、今後もそれらが出版というかたちに結びつけばと願うばかりです。
政党組織の政治学

政党組織の政治学

*1:ちなみに同様の趣旨のことは、元内務官僚の荻田保氏がインタビューに答えて話をしてました。

現代史を語る (1)

現代史を語る (1)