社会的選択理論への招待

日本評論社の小西さんから『社会的選択理論への招待』を頂きました。どうもありがとうございます。読もうと思っていた本で、難しそうだから時間係るかなあと思っていたら、基礎的なところから丁寧に議論が進められていて、非常に読みやすい書籍でした(内容は坂井先生のブログ参照のこと)。政治学者がこのような社会選択論について読むものとしては、宇佐美誠先生の『決定』(東京大学出版会)がありまして、『決定』も良い本だと思いますが、『社会的選択理論への招待』は『決定』よりもさらに基礎的というか原理的に議論が進められていると思いました。興味深いと思ったところは、『決定』では色々な決定ルールについて議論しつつ、どのルールが優れているかを性急に判断することは避けられているのに対して、『社会的選択理論への招待』では、確率論を用いながら正しい判断ができる決定ルールについて議論しているところでしょうか。こういう考え方があるのだ、ということで個人的に非常に勉強になりました。また、本書では、アローの不可能性定理についてわかりやすく、しかし詳細に議論されていますが、それを読むことで、私自身が「中途半端にアローの不可能性定理を知った 結果、『無関係な選択肢からの独立』という言葉に惑わされて、内容を理解しないままこの定理を拡大解釈する論者」(pp.94-95)であったと反省するところです。確かに「無関係な選択肢からの独立」については曖昧な理解をしながら基礎的な条件だろうと考えていましたが、本書を初めから読むとこの条件がいかに厳しいかということが理解できて、この点は本書を読むことで蒙を啓かれたように思います。
政治学の研究者としては、経済学の方がしばしば議論されるような二つの選択肢からの選択ではなく、三つ以上の選択肢の中でどのような選択を行うか、という点に焦点を当てられていたところを歓迎したいですね。単純な多数決ではないことで、選択肢の設定の仕方や選択肢を絞る機構について考えるきっかけにもなりますので。その点から言えば、本書を踏まえて政治的な交渉のあり方や拒否権プレイヤーについて議論する、という のは政治学者にとっても実りのあるものになると思います。個人的にはまだまだ勉強が足りないことが身に沁みますが、本書を読みながら、いつか社会選択論を研究されている方々とご一緒に研究する機会があったら色々勉強になって楽しいだろうなあと改めて思うところです。

社会的選択理論への招待 : 投票と多数決の科学

社会的選択理論への招待 : 投票と多数決の科学

決定 (社会科学の理論とモデル)

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