投資社会の勃興

オビや冒頭を読んで、自分の研究にもいろいろ示唆があるんじゃないかと思って読んでみた。非常に面白かったし勉強になったと思う。ただもうちょっと公債のしくみとか具体的な説明があった方が読みやすかったような気がしたが(とはいえ今でも十分長いので、これ以上長くはできないんだろうが)。
内容としては、人々が公債を購入してその利益で生活していくような社会・文化がどのように形成されていたのかについて、歴史的資料を縦横に活用して描き出していくもの。資料の収集は本当に大変だろうという感じで、まさに長い時間をかけて行われた研究という印象が強い。土地保有者・商業者・証券保有者という三者が国政・都市政治(ロンドン・シティ)で交錯しつつ、多額の公債への要請から証券保有者を無視できないかたちで政治が動いていく様子は政治過程論としてもとても興味深いし、おそらく本書のより重要な眼目である生活の中に公債が組み込まれている「投資社会」の社会史は、それとは異なる形の日本社会を考えさせるものとなっている。個人的に興味深かったのは、都市のインフラ整備における公債の役割で、イギリスの場合は教会や株式会社が事業主体となって、他の事業との比較の目にさらされながら公債を発行して事業を行っていたというところ。以前、大阪市の発展について分析した時には、こういった資金調達についてはそこまで詳細には追いかけていなかったが、本書で分析されたいたような多くの人々が投資というかたちで関わるのとは違うわけで、国庫補助=国からカネを引っ張ってくるか、あるいは財閥などを中心に相対で借りてるのが重要だと考えられる。都市のインフラ整備は基本的に都市の問題として扱われていて(あるいは国との関係が重要)、国際金融というのはちょっと射程に入っていなかった。おそらく、そういった要素は都市の発展の仕方にも影響があるんじゃないかという感じを持ったところ(本質的には大都市に限った話でもないだろう)。
もうちょっと知りたいな、と思ったのは、「どのように形成されていたのか」だけではなく、「どのように形成されていったのか」というところ。帰結=投資社会の成立があるわけだが、その原因として推論されることはなんだろうか。もちろん国際金融市場の成立とか確率・統計などの科学的知識の発展とか、おそらくそれを多くの人に知らしめる出版の普及とか、そういったことはさまざまにあると思うんだけど、その中で主要なものだと考える要因についての議論が欲しかったなあと。それが政治的な要因であるとすれば、非常に興味深いところだし。ただもちろん、そういった原因を確定的に推論すること自体危なっかしいのは事実なわけで、さまざまな要因を複線的に語っていくのが歴史学の強みとして理解するべきなのかもしれない。

投資社会の勃興―財政金融革命の波及とイギリス―

投資社会の勃興―財政金融革命の波及とイギリス―