現代日本における都市メカニズム

大阪大学の人間科学研究科での博士論文をもとにした著書。非常に筋がクリアなので某学会に向かう電車やスキマ時間(!?)などで一気に読めてとても勉強になった。主張は極めて明確で、日本でも繰り返し語られてきた「都市=つながりの失われた場所」というネガティブなイメージを検証し、計量分析によってその通俗的なイメージが実像と異なるものであることを明らかにしたもの。個人的にはずっと都市居住者なので、都市についてほとんどネガティブなイメージを持っていなかったのだが、先行研究の整理によってそのようなイメージが日本のみならず他の国でも共有されていることが示され、しかしデータの分析から実際はそのようなことが言えないのではないかということを論証している。
つながりの喪失というのは、要するに人々が農村の濃密な伝統的コミュニティを離れて都市に出ることによって、人とのつながりのないアノミー的状況におかれ、社会が解体してしまうという話。アメリカ・シカゴ学派の都市社会学で戦前から提出されてきた議論だが、その後の研究史として(1)都市においてもコミュニティは存続している(農村と同じような親族的結合がある)、(2)都市では農村とは異なるタイプのコミュニティが出現している(変容説)という議論が続いているということ。著者は、JGSS(日本版総合社会調査)などのデータを用いて、都市における人のつながりが農村におけるそれとどのように違うか、そしてどのような性格を持つかを検証している。明らかにされたのは、ざっくり言うと、日本の都市では農村と比べて非親族的な関係が多い(親族は変わらない)こと(5章)、趣味的な結合が盛んこと(6章)、特に疎外が酷いというわけでもないこと(7章)、非通念性(伝統への挑戦・多様性の尊重)が現れやすいことなどである。調査が層化多段階抽出になっており、都市・農村の異なるまとまったサンプルがあることを利用して、個人レベルと地域レベルの影響を同時に検討することができるマルチレベル分析を使うよいお手本になっているとも思った。
主張はシンプルだが、中身はいろいろ考えるところがある。筆者自身も検討しているように、なぜ日本では都市に対するネガティブイメージが強いことになってるのかは不思議だし、僕自身の関心から言えば、都市での結合が割と強いのに分離居住(セグリゲーション)はあんまり進んでいないのは不思議と言えば不思議だなあ、と。まあ住宅(政策)の影響が強い、ということかもしれないが。しかしいずれにしても、著者が使っている変数の妥当性を検討することなども含めていろいろ議論できそうな本なんだろうな、という印象を受けた。ただひとつだけ残念というか欲しかったなあと思うのは、日本以外での最近の研究状況ってどうなんだろうか、と。1970年代の研究からいろんな実証が生まれてるだろうし(ちょこちょこ紹介はされているが)、その辺もう少し体系的な整理があると、他分野の人間としては嬉しいところ。まあ自分で勉強しろというところでしょうが…。