政党政治とアカウンタビリティ−最近のトレンド?

ずいぶん前から頂いていた本について,まとめて何か書こうと思っていたものの,時間がなかなか取れない上に本が溜まっていくのでやや諦めてとりあえず書籍の紹介を。
まず,3月ころに(もう半年前!)粕谷祐子先生・曽我謙悟先生・大村華子先生から『アカウンタビリティ改革の政治学』を頂いておりました。どうもありがとうございます。アカウンタビリティという,まあなんとも扱いにくい概念(しかしながら政治を考えるうえでの中核的な概念だと思いますが)について,様々な確度から分析されている好著だと思います。僕自身はアカウンタビリティについて,以前も書いたように,どうやって有権者が政治家・政党に責任を取らせるか,ということを中核として考えていますが,本書を読むと,これは「制裁」と強く結びつけている選挙アカウンタビリティに偏った考え方であり,権力分立とも関連する水平アカウンタビリティのような発想があることを学びました。前には「説明責任」という発想にはやや批判的に書いていたのですが,そういう「説明を求める」ことを重視する傾向は日本に限らずに様々な社会で見られるもので,とらえにくいものではあるものの,それが場合によっては政治の発展を促すということなのだと思います。特に本書で「社会アカウンタビリティ」として議論される,必ずしも「制裁」と結びつかないメディアやNGOなどの抗議みたいなものがどのように機能していくのか,というのは(それを厳密に「アカウンタビリティ」という概念のもとで理解するかどうかは別に)政治学にとって重要な議論になっているということでしょう。ちょうど日本でも安保法制をめぐってデモが多発するようになっているわけで,それを「(社会)アカウンタビリティ」と結びつけて議論することも可能なのかもしれません。

アカウンタビリティ改革の政治学

アカウンタビリティ改革の政治学

4月に入っては,西南学院大学の鵜飼健史先生から『ポスト代表制の政治学』を頂いておりました。ありがとうございます。こちらは,僕の理解によれば,『アカウンタビリティ改革の政治学』で議論するところの「社会アカウンタビリティ」に絞って議論を進められているような気がします。従来の有権者による制裁を予定する「選挙アカウンタビリティ」がうまく機能しないという問題意識の中で,違うルートによってアカウンタビリティを向上させようという感じでしょうか。その中でも鵜飼先生は,「民意は代表されるべきか?」というなかなか刺激的なタイトルで論文を執筆されていて,まさに選挙アカウンタビリティへの疑問が出る現状での「民意」の意味について問われていると思います。民意は常に部分的なものであって,今は代表されていなくても,代表として来るべき「民意」がある,という議論は,民意の実現=社会アカウンタビリティ?といったことをを考える上で興味深い問題提起だと思いました。
ポスト代表制の政治学 ―デモクラシーの危機に抗して―

ポスト代表制の政治学 ―デモクラシーの危機に抗して―

じゃあ「選挙アカウンタビリティ」の方をどう考えるか,こちらをなんとか再生できないか,という議論もあり得ると思います。手前味噌ですが,拙著『民主主義の条件』は一応そういうことを考えようとしたものというつもりです。しかし拙著はあくまで導入的な議論ですが,その最新のレビューは4月に出版された待鳥聡史先生の『政党システムと政党組織』でしょう。選挙アカウンタビリティを考えるときの中核である「政党」−決定を行う主体であり制裁の対象でもあります−についての議論はさまざまに発展していますが,本書はその中でもタイトルである政党システムと政党組織について,僕が理解するところの関連研究のフロンティアを説明したものになっていると思います(そういう意味ではここからスタートできる大学院生とかは羨ましいw)。結論として,政党については,その情報集約機能(集合行為問題の解決案として有権者が判断する材料となる機能)が本質的なものとなっていくというのはまさに同意で、拙著のコンセプトとも重なると思います。自由民主義体制において選挙で作り出される複数の分立的な権力をどう統合するかというのを考えたときに,結局のところ政党が中心的な役割を果たすことになり,その中心に情報集約があるというのは非常にまあ現代的といいますか。もちろん,政党については他の様々なモデルもあり得るとは思いますが,例えば階級的利害の統合やアイデンティティといったつながりが難しくなっているとすれば,情報集約を中心に考えるという議論は有力なものではないかと思うところです。
民主主義の条件

民主主義の条件

シリーズ日本の政治6 政党システムと政党組織

シリーズ日本の政治6 政党システムと政党組織

最後に,野田昌吾先生・今井貴子先生・木寺元先生から『野党とは何か』を頂きました。ありがとうございます。野党は,まさに将来の民意を担う存在として,選挙アカウンタビリティを考えるときには不可欠の存在だと思いますが,まとまった研究がなかなか少ないところでもあります。それは本書でも指摘されているように,国によって「野党」のあり方にかなりの多様性があるからということでしょう。本書では,複数の国の野党について,それぞれの国の政党システムに配慮しあんがら「時の政権与党ではない主要な政党」「政権交代によって与党の地位に与る潜在的可能性を持つ政党組織」と定義した上で,どのような組織改革・動員戦略・リーダーシップ改革を実践したのかを解明しようとするものです(11頁)。ここで紹介している書籍の議論に沿うならば,野党のあり方によって「アカウンタビリティ」の向上のさせ方,どのようなタイプのアカウンタビリティで政治の応答性を確保するか,という方法が変わってくるのではないでしょうか。そういうことを考えるうえでも,非常に興味深い共同研究の成果だと思います。