シリーズ日本の政治

増山幹高先生から,シリーズ日本の政治の7巻『立法と権力分立』をいただきました。どうもありがとうございます。本書は,立法を集合行為のジレンマに対する権力行為として捉えて代議制民主主義のありようを考えるというもので,これは(僭越ですが)先日私たちが共著で書きました教科書でも同じような見方をさせていただいているところで,説明の仕方として改めて意を強くするとともに,色々と練られた内容で非常に勉強させて頂きました。 特に,議会における委員会の機能については,断片的に学んできたものの自分としてもきちんと整理ができていないところがありましたが,多数派による議事掌握を問題にする見方(Cox and McCubbins 1993, 2005→4章),選挙区利益を追求するための分配的交換の場と捉える見方(Weingast and Marshall 1988とか→5章),そして政策的な専門化を進めて情報を効率よく利用するための機関とする見方(Krehbiel 1987など→5章)とあるわけですが*1,これらの見方について空間理論を前提として非常に詳細な説明があり,個人的にも理解が進んだように思います。委員会だけではなく,二院制連立政権などでも空間理論を用いた丁寧な説明が行われており,私たちの『政治学の第一歩』からさらに読み進めて頂くものとしても非常に優れていると思います。
本書の特徴としては,このような様々な理論の紹介だけではなく,増山先生が行ってきたものを中心に日本の国会を対象とした実証分析が紹介されている点でしょう。この辺りは,同じシリーズで川人先生が執筆されている『議院内閣制』とも通じるところがあると思います。そこでのおそらくもっとも重要な主張は「国会における立法は,法案の生殺与奪が議事運営の問題に集約され,与党が議事運営権を掌握することによって,限られた時間をめぐる行政機関の競争を促し,与党の優先順位を法案作成に反映させる権力融合型の政治制度の帰結として理解できる」(170)というところでしょう。つまり,国会の会期という限られた時間の中で,どの法案を可決するかということを与党が掌握することで,少しでも早く自分たちの法案を通したい各省庁が,与党(議員)の意向に沿ったかたちで法案を作成して優先順位を上げてもらおうとする必要がある,結果として与党の政策選好が法案に反映されることになる,ということなわけです。これは国会多数派と内閣が融合しつつ,立法に対して責任を負い,野党はそれに対して(修正を試みるというより)反対を有権者に対してアピールする,という権力融合的な議院内閣制の姿,ということになるわけですが,特に2000年代に入ってから連立政権が常態化したり参議院が強くなったりという責任の所在を曖昧にさせる変化が生じていて,それらについても終章で概括的な議論がされています。これは民主党政権あたりから強調される「統治機構改革」を考えるときには必ず踏まえておくべき議論,ということになるかと思います。

シリーズ日本の政治7 立法と権力分立

シリーズ日本の政治7 立法と権力分立

シリーズ日本の政治1 議院内閣制

シリーズ日本の政治1 議院内閣制

もうひとつ,谷口将紀先生から,同じシリーズの10巻『政治とマスメディア』をいただきました。こちらもどうもありがとうございます。こちらもかなり幅広い文献のサーベイに加えて,谷口先生を中心に行われてきた東大・朝日調査の結果を利用しながら日本での分析例が紹介されています。利益集団を軸とした伝統的な政党組織が弱まっている中で,政治と有権者をつなぐ手段として「マスメディア」が圧倒的に重要になっている現代において,その機能を考えるうえでは必読,というものと言えると思います。『立法と権力分立』と同じで,完全に専門というわけではないと私自身いろいろと曖昧に理解していた概念があるわけですが(白状するとたとえば「プライミング」),それらについて研究史に触れながら紹介されているので非常に勉強になりました(特にメディアの有権者への影響を扱った2章)。また,特に2000年代以降は,インターネットの発達や,それを利用する政治家の戦略が,政治過程にとっても重要になっているわけですが,それらについても日本のデータを用いながら検討されていますので,近年のメディアと政治のかかわりについて知りたい人が,その論点を抑えるにはこの一冊,という感じでしょうか*2
実は個人的に面白かったのは,有権者や政治家というよりメディア(企業)のほうを分析単位にしてる1章だったりします。日本について挙げられている文献を見ると,どちらかというと経験のあるジャーナリストの方々が書いたものが多いと思いますが(例外としてクラウス2006,逢坂2014),政治過程論としてなんか分析できないのかなあと思ったり。まあ日本の場合大手メディアとなると数が少ないので質的研究中心になりそうだし,そうすると情報量としてはインサイダーに勝てないだろうし理論的に面白いこというのも難しいのかもしれませんが…。あるいは官僚組織と同じように,メディア企業の人事ローテーションの分析とかできないもんだろうか。
NHK vs 日本政治

NHK vs 日本政治

*1:こう3つ並べるべきかについては,まだ個人的にはあんまり整理できてません。一つ目と残り二つは違う話だと思うし(本書でも別の章で議論されている)

*2:本書の読みどころ,あともうひとつはたぶん「注」です。単に補足というだけでなく,なかなかスパイスの効いたことが書かれていたりするような…。