共著本いろいろ+名著新版

先日ご紹介した教科書のほかにも,年度の変わり目にいくつかご著書を頂いています。
まず,著者のみなさまから『地方分権の国際比較』を頂いておりました。ありがとうございます。科研の共同研究の成果ということです。Fallatiのsequential theory of decentralizationを意識しながら各国の地方分権について検討するという感じでしょうか。分権を進める国も,ドイツのように集権化の傾向にある国でも,このテーマについては超党派の合意を得ながらやっているという議論は興味深いものではないかと思います。どうやってそういう状況がつくりだされるのか,というのが難しそうですが。

地方分権の国際比較―その原因と中央地方間の権力関係の変化

地方分権の国際比較―その原因と中央地方間の権力関係の変化

Decentralization and Subnational Politics in Latin America (Cambridge Studies in Comparati)

Decentralization and Subnational Politics in Latin America (Cambridge Studies in Comparati)

松岡京美先生から『災害と行政』を頂きました。比較的若手が編者になってシニアの先生が参加する,というのは珍しい感じがしますw 日本の災害対策・対応について制度を中心に説明されたあとで,韓国・タイの災害対策と比較して日本の災害対策の特徴が議論されています*1。災害に対して「何をするか」「どのようにするか」を考える時,韓国・タイでは中央政府が「何をするか」を決めて韓国は地方政府が「どのようにするか」を決める(タイではそれも中央政府が決める)のに対して,日本では中央政府が「どのようにするか」を決めて地方政府が「何をするか」を決めるという指摘はなかなか興味深いと思いました。そういうことは比較してみないとわからないことですし,検証するに足る指摘なのではないかと思います。
災害と行政―防災と減災から

災害と行政―防災と減災から

塩沢健一先生からは論文集である『民意と社会』を頂いておりました。塩沢先生は,「2010年名護市長選挙における「民意」の動態」という論文を寄稿されています。2009年8月に総選挙で民主党への政権交代が行われたあと,2010年の名護市長選挙で基地建設反対派が容認派に勝利したわけですが,そのような結果は国政における政権交代が民意を変えたというよりも,よりローカルな争点(市長に対する業績評価など)が効いているのではないかということを,アンケート調査などから検討しています。基地を抱える名護市では,安保問題という国政のテーマと,市政運営というローカルなテーマがからみながら選挙が行われるわけですが,2010年の選挙は最大の争点が基地問題であったとしても,「普通の地方選挙」へと変化する兆しを見せていたのではないか,という指摘がされています。
民意と社会 (中央大学社会科学研究所研究叢書30)

民意と社会 (中央大学社会科学研究所研究叢書30)

堤英敬先生,森道哉先生,森正先生からは『2012年衆院選政権奪還選挙』を頂きました。私も以前このシリーズで書かせていただいたことがありますが,総選挙など重要な選挙について選挙区レベルでの検討を行うというものです。今回は北海道1,岩手4,香川1・2,奈良1・2,石川1,愛知(全体),福岡9・10,沖縄(全体),静岡1,東京2・5が対象になっています。まあ選挙区というのはいかにも多様なものだなあと思うわけですが,2009・2012・2014の衆院選はそれぞれ1つの政党が圧勝してしまっているので,選挙区の候補者のコントローラブルな部分がやや減っているということもあるんでしょう。それに対して参院選や地方選はまだより多様性が強いということがあるのかもしれません。堤先生・森道哉先生はかなり長く香川の選挙を見てらっしゃるので,そろそろスピンオフ企画があるのでは…。曽我謙悟先生と濱本真輔先生からは,『政治過程と政策』を頂きました。学振の企画である「大震災に学ぶ社会科学」1巻にして最終巻ということで,これで一応一区切りということになるようです。1巻は政治学者が執筆していて,震災後の公的な意思決定過程や選挙結果についての分析が行われています。震災後の政治過程についてはすでにさまざまな記録が出ていますが,政治学者としてその過程を分析したというのはこの本からということになるのでしょうか。
そういえば頂いたのにご紹介を忘れていましたが,この2巻である『震災後の自治体ガバナンス』も著者の先生方から頂いておりました。こちらの方は,自治体レベルでの震災対応のほか,復興事業についての分析が行われています。震災後の自治体財政や,復興事業,瓦礫除去や広域処理など。実は僕自身も参加していたプロジェクトで復興の研究をしていて,頂いて早々にこちらの本で書かれている高台移転や住宅復興について勉強させてもらっていたのでせっかく頂いたのにご紹介を怠ってしまったという話でした…。
大震災に学ぶ社会科学 第2巻 震災後の自治体ガバナンス

大震災に学ぶ社会科学 第2巻 震災後の自治体ガバナンス

サントリー文化財団からは二つ頂いておりました。『ポストモダンを超えて』『高坂正堯と戦後日本』です。ともにサントリー文化財団での研究会の成果をまとめたものとして刊行されています。前者については,「21世紀の芸術と社会を考える」という副題がついているように,音楽や芸術,文化を扱うもので,ちょっと僕の知識でついていけるとは思えないのですが勉強させていただきたいと思います。後者については,五百旗頭先生はじめ高坂正堯先生にさまざまなゆかりのある優れた研究者のみなさんによる論文集です。国際政治研究というだけではなく,時評なども含めて高坂正堯先生が社会とどう向き合っていたかというようなことを中心に論じられていて,こちらも専門とはちょっと違うのですが,思わず引きこまれてしまい非常に面白く読ませて頂きました。高坂先生のハーバード在外研究という話が特に興味深くて,自分自身も予定している在外研究とどう向き合うかということを考えるきっかけになったところです。最後に,すでに定評のある著書の(増補)新版を頂きました。まず池内恵先生からはサントリー学芸賞をとられた『イスラーム世界の論じ方』をありがとうございます。以前のものに加えて八本の論文を「第4部 対話」として加えられています。共通した問題意識のもとに様々な形で書くことで,対象を立体的に見せるということかと思いますがこれは本当に難しい。しかもそれを論文だけではなくて時評を含めて興味深いかたちで仕上げられていると思います。僕なんかがやると特に時評のほうは「選挙制度改革」とかなんか同じことばっかり言ってるような感じになるわけですが…。
もうひとつ,新潮選書の編集部(というか細谷先生?)から,高坂正堯先生の『世界地図の中で考える』を頂きました。ありがとうございます。上でもひとつご紹介していますが,没後20年,ということでいろいろと企画されているようです。
世界地図の中で考える (新潮選書)

世界地図の中で考える (新潮選書)

*1:松岡先生は以前の『行政の行動』でも韓国・タイとの比較をされていましたね。