技術基準と官僚制

北海道大学の村上裕一先生から頂きました。ありがとうございます。ざっくりと言うと,技術革新が続く現代社会において,規制をかける行政が最先端の技術を知っているわけでもない中で,どのように規制をかけていくのかという問題に迫ったものです。社会が多元化し,これまで行政(と一部の関係者)だけが持っていたような情報がオープンになっていく中で,行政は直接的に厳しい規制を行うというよりは,規制政策のプロセスも含めた規制システム全体の管理を志向するようになっているとされます。要するに,規制といっても行政(規制者)と個別の企業など(被規制者)という二者間関係ではなくて,複数の被規制者が存在して規制者と相互作用を行うような他者の存在を考慮して,被規制者が自ら従うような規制を考えましょうという感じかな(最後は読み込み過ぎかも)。対象としては(三階建て)木造建築,軽自動車,電気用品の安全基準設定ということで,個人的にも最近住宅政策研究をしているのでこちらも勉強になりました。私のほうは需要側というか人々がどのように住宅サービスを買うかということを集合行為で考えるということなので,供給側の規制については全然知識がなく,勉強させていただくことができました。
博士論文を出版したものということで,特にはじめの理論のところは,このところ行政学理論研究を怠っている私としては非常に勉強になりました(苦笑)。NPG(New Public Governance)の話などは,お恥ずかしながら体系的に自分で整理したことがあるわけではないので,文献を挙げながら説明していただくと助かります。まあNPM(New Public Management)というものがあまりにも包括的というか雑なので,私などはNPGもNPMの亜種として理解できるのではないかと思ったりもしますが…。ただちょっと良くわからなかったのは,規制−被規制をプリンシパル−エイジェントとして捉えるのがどうなのかということですかね。事例研究のときは必ずしもそういう感じでもなかったというように思いました*1。もちろんP-Aとして捉えられるような側面がなきにしもあらずだとは思うのですが,やはり被規制者というか民間企業は基本的に株主たちのエージェントとして考えるべきでしょうし,自主規制団体みたいなものをエイジェントとして捉えるにしても,やはりプリンシパルは個々の企業(の集合)ということになるんじゃないかなあと思ったり。規制機関をふつうに企業に対して制約を与える主体としてみることと比べてどの辺に理論的なメリットがあるんだろう,という気はしました。
この論点は,規制をどう捉えるかということとも関連しているように思います。私のほうは,規制をP-A関係というよりは相互作用として考えていて,行政指導が多かったのも柔軟だという特性のほかに被規制者がそれなりに強い/規制のコストが高いのでお願いベースになるという感じで理解しています。もちろん規制をP-Aとして捉えてもエイジェントがプリンシパルに影響力を発揮できるんだ,と言えるのかもしれませんが,だとすると,どのようにアジェンダ・セッティングがなされるかとか,プリンシパルがどんな性質の拒否権持っているか,アジェンダを修正できるか,といった過程の問題が論じられる必要があるんじゃないかなというように思いました。私の読み方が緩いだけのようにも思いますが,事例研究は規制主体である官庁からの視点で書かれているような感じがあって,その辺の影響力行使が具体的にどう行われていたのかというのがあると良かったのかなと(まあそれを検証するのは難しい話ですが)。
ぐちゃぐちゃ書いてますが,実は規制の研究,しかも実施に関する研究ってもっとなされるべきなのに意外と少ないのであんまり固まってないんだろうというように思います(以前もこんなこと書いてます)。そのような中での果敢な挑戦として面白いのではないかと。しかしまあ,規制といっても何を扱うかは難しいですよねー。本書で扱われた例のうち,住宅はまだわかるのですが,木造三階建てってやっぱりちょっとニッチなところじゃないか,どっちかというと最近やってる品確法(住宅の品質確保の促進等に関する法律)あたりが面白いんじゃないかという気はしました。といっても,品確法を分析するリサーチデザインっていまいち思いつかないし(「大事そう」っていう理由で選ぶのもねえ…),そもそも規制の決定ってやっぱりベタに記述するのも大事そうだし…とグルグル回る感じ。難しいことはよくわかります…。

技術基準と官僚制――変容する規制空間の中で

技術基準と官僚制――変容する規制空間の中で

*1:議論としては,Lane, Jan-Erik, Public Administarition and Public Managementの話などが下敷きになっているはずです。読んだはずですが詳細はあんま覚えてませんが…。

Public Administration & Public Management: The Principal-Agent Perspective

Public Administration & Public Management: The Principal-Agent Perspective