なぜか今年は本当にたくさん,しかも面白い本をいただいて,とても勉強になるのですがなかなか読むのも大変で,ブログでの紹介もやや滞りがちです(たぶん手持ちは残りあと4冊…)。今回は,かなり広い読者を想定して非常にアクチュアルなテーマをまとめた三冊の本を。
まず池内恵先生から『サイクス=ピコ協定百年の呪縛』をいただきました。ありがとうございます。しかし池内先生の文章を書くペースは本当にすごい。今年すでに増補版の『イスラーム世界の論じ方』を頂いてますし,何より日常的にFacebookやブログなどでかなり長文の投稿もされているわけで。本書では,ちょうど100年前になされた「サイクス=ピコ協定」を導きの糸として現在の中東の混迷を読み解いていきますが,単にこの協定が列強による中東分割だから悪い,というような話ではなく,この協定によってどのような秩序を実現しようとしたのか,という観点からみていくことで,現在構想できる秩序というのが何かというのを考えさせる(難しいですが)用になっていると思います。ロシアとトルコの関係,「東方問題」こそがカギになるという指摘は,先日のトルコのクーデター失敗のような事件とエルドアン体制の強化,不安定化への懸念,といったような現象を見てると,池内先生にとっては当然ということかもしれませんが,素人から見たらさすがの慧眼と思わざるを得ません。弱すぎても強すぎても困るトルコ。本書のストーリーからいえば,次にはクルドをはじめとした周辺民族のセキュリティを考えないといけない局面が来てしまうのかもしれませんが…。
【中東大混迷を解く】 サイクス=ピコ協定 百年の呪縛 (新潮選書)
- 作者: 池内恵
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2016/05/27
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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- 作者: 五百旗頭真
- 出版社/メーカー: 毎日新聞出版
- 発売日: 2016/06/25
- メディア: 単行本
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「決め方」の科学ということが書かれていますが,実のところ重要なのは多数決の周りにある思想みたいなものなのかな,と思います。やはりポイントになるのは多数決の環境の設定,選択肢の絞り方という話で,Brexit についても議論していたように,現状維持か変更か?みたいなところでは多数決を擁護する議論をしやすいような。他方で,それこそいくらでも提案が可能な話だとうまいこと多数決に持っていくのは難しいということだと思います。で,そういうことを考えると,坂井先生は選挙制度を適切に見直す事が重要だということを書かれていて,それは心から賛成なのですが,この多数決批判の議論が選挙制度でどこまで扱えるのかなあというのはちょっと疑問に思うところもあります。票割れの問題はあるとして,現政権を選ぶか変更するか,みたいな二択は可能なわけで,決選投票を導入するというのはもちろんありえますし,ひとりの代表者についてボルダルールで選ぼうというのもよくわかります。ただ「複数の代表」を選ぶところの議会でそれがどの程度応用できるんだろうかと。もちろん,最終的に選挙区からひとりずつ代表を選ぶことで「複数の代表」を構成することはできるわけですが,それだってゲリマンダーの問題もないわけじゃない,議会が決めようとすることを毎回国民投票するというのもちょっと簡単ではない,ということで,この「決め方」の科学と代議制の関係というのはどう考えたらいいもんだろうかとグチグチ思ったところです。
「決め方」の経済学―――「みんなの意見のまとめ方」を科学する
- 作者: 坂井豊貴
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2016/07/01
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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