お酒と規制緩和

バンクーバーに来ても,まあ基本的に日本と同様にお酒は飲むわけですが,少し困るのはお酒がなかなか買えないこと。来てすぐのうちは,どこでお酒を買っていいのか,またいくらくらいするものなのかわからずしばらく飲まないというときもありました。現在の日本では,スーパー・コンビニで普通にお酒が売っているわけですが,こちらではコンビニはもちろんスーパーでもお酒が売ってないし,それどころか酒屋もなかなか見つからないというくらいで。路上でお酒を飲んだら罰せられるらしい,というのは聞いたことがあったのですが(未確認),それにしてもなあと。
日本では,お酒というのは規制緩和の事例としてしばしば出されるところであります。僕自身も,『政治学の第一歩』や政治学の授業で話することがありますが,もともと日本では許認可を受けた限定された酒屋のみを通じてお酒が売られていて,その有力な根拠としては,徴税コストの低さを持ってくると。まあ歴史的というよりはかなり機能的な説明ではありますが,間接税が酒・たばこなど少数の品目に限られいて,小売店ですべてお酒が売れるようになると国税庁の方でも大変だ,ということで,酒屋(あるいはたばこ屋)に許認可を与えて売るルートを限定することで,限られた店から間接税(酒税・たばこ税)を効率的に徴収することができるんだと。で,消費税導入によってどこの小売店でも間接税を納めるようになって,もともと酒販免許を持ってた酒屋が業態転換したコンビニとかではお酒が買えるけどそうでないと買えない,新たにお酒を売りたいとしても酒販免許の交付に距離基準とか人口基準があって新規参入できない,これは免許がレントを生み出していて不公平だから規制緩和しよう,というような話ですね(ざっくり)。で,2000年代に入って酒販免許の交付の基準が相当緩和されて,今ではどのスーパー・コンビニでもたいていお酒が売ってると。
まあそういう話を考えていたので,だいたいどこでもお酒なんて買えるだろうと思ってたわけです。アメリカ行った時でも(そんな行ったことないけど)お酒買うのに困ったっていう記憶があんまりないので,こちらもそうだろうと。なんだか不思議だなあ,と思っていたら,この前教えて頂いたことには,バンクーバーのあるブリティッシュコロンビア州は,相当に規制が厳しくて,お酒をほぼ唯一買うことができる「BCリカーストア」はBC州政府の機関であるBC liquor distribution branch(LDB)の直営なんだとか。BC州では,The Liquor Distribution Actという法律で,LDBに対して独占的なお酒の購入権が与えられていて,そのために世界でも最も大きいお酒の買い手のひとつになっているということなんだとか。この表現からもわかるように,BC州でお酒を売るためには,LDBからお酒を買って売らないといけないということで,まあ割高になるわけです(お店で出したりときはLiquor Licencing and Control Bureau(LLCB)に申請する手続きがいるらしい)。実はUBCで滞在していた宿舎の近くに酒屋を見つけたのですが,後で考えるとえらい割高だったなあという感じがあって,その原因がここにあると。ちなみに,BCリカーストアでも,店によって同じお酒の値段が違うという僕には不思議な現象があるのですが,この理由は今のところ不明です。
まあざっくりいうと,お酒については専売公社みたいな状況があって,これは今のところ民営化とかされていないようです。その前どうだったかについてはまだよくわかってないのですが,LDBやLLCBを作る法律自体は1996年に制定されているということで,むしろ最近の話やん,と。日本に比べて,社会全体がお酒に対してちょっと厳しいということがこのような規制の制定と継続を可能にしているとは思いますが,結果としてちょっと割高という可能性もあるので,酒飲みとしてはツラいところという話かもしれません。カナダに来たのを機に*1,少し酒量が減るのかな。

*1:BC州以外は全然調べてませんが,例えばトロントではLiquor Control Bureau of Ontario(LCBO)がどほぼ独占的に売ってるみたいなんで,基本的に連邦としてそうなってるのかなと思います。