『貧困と地域』

関西学院大学の白波瀬達也先生から(中公新書編集部経由で)いただきました。どうもありがとうございます。
重い話ですしとっつきにくいテーマだとは思いますが,非常に読みやすいものになっていると感じました。まあもちろん,私自身が一応は前提知識を持っているからということもあるのだとは思いますが。個人的に興味深かったのは,住宅を扱っていた3章と,西成特区構想の5章ですね。5章の方は,いろいろとお立場も難しいであろう中で,かなり踏み込んで書かれているところに好感を持ちました。白波瀬先生は以前からソーシャルワーカーとしてあいりん地域にもかかわっておられて,以前にブログでも紹介した,『経済学者 日本の最貧困地域に挑む』で出てくる会議にもファシリテーターとして参加されていたわけですが,その時の逡巡とか,現状を踏まえたうえでのこれからの方向性とか,現場をよくご存知の方としての苦悩がありつつ,構想の進め方について比較的ポジティブにとらえられているように思いました。もちろん,箱物づくりの話になってしまうのが困るとかそういうことはあるわけですが。
特に現場に参加しているわけではないですが,私も個人的にはほぼ同じような印象を持ちました。ただ,議論が難しいかなあと思ったのは,ジェントリフィケーションとあいりんからの貧困の「拡散」をどう考えるか,というところでしょうか。私自身も『大阪』で少し触れていたと思いますが,この問題の蓋を開けてより広い範囲での解決を図るとすれば,「拡散」のようなものはある程度仕方がないような気もします。ただ,現行制度のもとで,議員が「地域代表」としての性格を強く持ち続けるとなると,結局これまでと一緒で「拡散」の先がないNIMBY問題となってしまいますが。もちろん,そうなると,今救貧/福祉の資源がある程度集中しているあいりんから人を「拡散」させるのは好ましくないというのはその通りだと思います。
住宅について書かれている3章を読んでいても思ったのですが,結局支援のあり方をどうするのかという問題に行きつくように思います。今はどうしてもあいりん地区という地域にある住宅とか病院とかそういう現地・現物とリンクさせた形での支援が中心になるところがあるわけで,それを移動する個人の方にどうやって転換させるか,ということでもあるような。まあ一気にいろいろ変更できると楽なんでしょうけど,実際そういうわけにもいきませんから,どういう順番で議論していくかというのが大事になるのだと思います。いずれにしても長期的なゴールの共有というのが前提になるのだとは思いますが。

経済学者 日本の最貧困地域に挑む

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大阪―大都市は国家を超えるか (中公新書)

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