『市民社会論』

関西大学の坂本治也先生から,『市民社会論』を送っていただきました。どうもありがとうございます。市民社会論というこれまで教科書が書かれてこなかった分野での新しい教科書として書かれていて,何というか非常に野心的な企画だと思いました。関西大学法学研究所のシンポジウムなどすでにいろいろなところで書評などの企画もあるようですが,やはり編者の坂本先生が,この分野ならこの人,という感じでお願いしていった(らしい)という成果なのだと思います。積極的に分野を超えて「この人」という人にお願いするのは編者冥利につきますよね(やったことないけど)。しかし他方で,たとえば「本書には「NPO」という言葉が出てこない」(理由は本書参照)みたいなところもあって(索引で拾ってるのもそれを書いた一か所だけ),実は坂本さんのエディターシップが効いてるということが端々に感じられます。
(1)それまでにない新しい企画で,(2)各分野の第一人者と考える人にお願いする,という企画である以上,本書が市民社会論における様々なトピックについて議論を深めるものになるということはよくわかります。それは,たとえば私みたいにやや距離がある人間からすると*1,非常に便利なカタログとして利用できるということもあります。他方で,体系的に考えようとすると違う構成もあり得たのではないかと思うところがあります*2。私が読んでて思ったのは,もっと(市民社会における)組織を前面に出してもよいのではないか,ということです。坂本さんが書いてる1章だと,「市民社会」を考えるときに中間団体のような組織と切り離しては考えにくいように印象を受けるわけですが,その直後は田村先生の熟議民主主義の話で,これは組織というよりも市民社会のアリーナの話だと思います。市民社会において,「市民」の参加がなぜ起きるのかという問題と,参加する先であるところの組織のどちらに注目するのかというのは簡単に決められる話ではないと思いますが,しかしこういうかたちで新しい教科書が編まれたことで,却って市民社会というものを意識的に組織を中心に考えてもよいのではないか,と思わされることがあったような気がします*3。部外者の勝手な感想で話半分,みたいなものですが,しかしそれでも新しいタイプの教科書が生まれるというのは非常に面白いプロセスなんだと思います。

市民社会論: 理論と実証の最前線

市民社会論: 理論と実証の最前線

その他に,この間以下の本を大学にお送りいただきました。まず宮崎公立大学の有馬晋作先生から『劇場型ポピュリズムの誕生−橋下劇場と変貌する地方政治』を頂きました。前著に続いて,橋下前大阪市長をはじめとした地方政治でのポピュリズムの研究ということだと思います。補論では,トランプ大統領の話も同じような枠組みで議論されているとのこと。清水直樹先生と藤井禎介先生からは『「やらせ」の政治経済学』を頂きました。科研の成果ということのようですが,魅力的なタイトルですね。地方政治におけるクライエンタリズムも分析の対象になってるようです。よく考えると,中選挙区制衆議院総選挙で社会党がそもそも過半数に必要な候補を立てていないような状況も,「やらせ」だったといえばそうかもしれません。
「やらせ」の政治経済学:発見から破綻まで

「やらせ」の政治経済学:発見から破綻まで

創元社からはパットナムの『われらの子ども』を送っていただきました。話題になった本でもありますし,現状の日本を考えても非常に意義深い翻訳ではないかと思います。
われらの子ども:米国における機会格差の拡大

われらの子ども:米国における機会格差の拡大

神戸大学の同僚の増島建先生と大西裕先生から,それぞれ『開発援助アジェンダの政治化』と『選挙ガバナンスの実態 世界編』を頂きました。いずれも新しい分野を切り開かれているようで非常に励みになります。

*1:しかし実は公益法人についての論文を書いたことはあるのです(宣伝)。砂原庸介,2012,「公益法人制度改革 : 「公益性」をめぐる政治過程の分析」『公共政策研究』 12: 17-31.

*2:この辺の議論については,加藤雅俊,2017,「新しい政治学(の教科書)には何が不足しているか : 政治学におけるメタ理論的基礎の必要性」『名古屋大学法政論集』269: 75-102.などどうでしょう。

*3:本書でいえば,4,5,11−15章あたりが組織の話をしていて,2,6−8,10章あたりがその周辺の環境,3,9章が中間という感じがしました。16章の位置づけは難しそうですが。