関西大学の坂本治也先生から,『市民社会論』を送っていただきました。どうもありがとうございます。市民社会論というこれまで教科書が書かれてこなかった分野での新しい教科書として書かれていて,何というか非常に野心的な企画だと思いました。関西大学法学研究所のシンポジウムなどすでにいろいろなところで書評などの企画もあるようですが,やはり編者の坂本先生が,この分野ならこの人,という感じでお願いしていった(らしい)という成果なのだと思います。積極的に分野を超えて「この人」という人にお願いするのは編者冥利につきますよね(やったことないけど)。しかし他方で,たとえば「本書には「NPO」という言葉が出てこない」(理由は本書参照)みたいなところもあって(索引で拾ってるのもそれを書いた一か所だけ),実は坂本さんのエディターシップが効いてるということが端々に感じられます。
(1)それまでにない新しい企画で,(2)各分野の第一人者と考える人にお願いする,という企画である以上,本書が市民社会論における様々なトピックについて議論を深めるものになるということはよくわかります。それは,たとえば私みたいにやや距離がある人間からすると*1,非常に便利なカタログとして利用できるということもあります。他方で,体系的に考えようとすると違う構成もあり得たのではないかと思うところがあります*2。私が読んでて思ったのは,もっと(市民社会における)組織を前面に出してもよいのではないか,ということです。坂本さんが書いてる1章だと,「市民社会」を考えるときに中間団体のような組織と切り離しては考えにくいように印象を受けるわけですが,その直後は田村先生の熟議民主主義の話で,これは組織というよりも市民社会のアリーナの話だと思います。市民社会において,「市民」の参加がなぜ起きるのかという問題と,参加する先であるところの組織のどちらに注目するのかというのは簡単に決められる話ではないと思いますが,しかしこういうかたちで新しい教科書が編まれたことで,却って市民社会というものを意識的に組織を中心に考えてもよいのではないか,と思わされることがあったような気がします*3。部外者の勝手な感想で話半分,みたいなものですが,しかしそれでも新しいタイプの教科書が生まれるというのは非常に面白いプロセスなんだと思います。
- 作者: 有馬晋作
- 出版社/メーカー: ミネルヴァ書房
- 発売日: 2017/02/20
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログを見る
- 作者: 後藤玲子,玉井雅隆,宮脇昇
- 出版社/メーカー: ミネルヴァ書房
- 発売日: 2017/03/30
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログ (2件) を見る
- 作者: ロバート・D・パットナム,柴内康文
- 出版社/メーカー: 創元社
- 発売日: 2017/03/27
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログ (7件) を見る
開発援助アジェンダの政治化―先進国・途上国関係の転換か?― (シリーズ転換期の国際政治3)
- 作者: 増島建
- 出版社/メーカー: 晃洋書房
- 発売日: 2017/03/10
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログ (1件) を見る
選挙ガバナンスの実態 世界編:その多様性と「民主主義の質」への影響
- 作者: 大西裕
- 出版社/メーカー: ミネルヴァ書房
- 発売日: 2017/03/30
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログ (4件) を見る