舞台をまわす,舞台がまわる−山崎正和オーラルヒストリー

サントリー文化財団から頂きました。どうもありがとうございます。ツイッターなどでの評判を見ていて非常に読みたかったのですが,ちょうどカナダに来た家族に持ってきてもらうことができて読めました。話にたがわぬ面白さ,という内容だったと思います。もともとは美学・哲学を専門として,劇作家として活躍されていた山崎正和氏が,大学紛争の折には政治的な機微にもたちいる意思決定にも関与し,関西圏に根を下ろしてサントリー文化財団の運営を中心に知識人として社会にかかわっていく,という流れですが,満州での少年時代や京都での青年時代,アメリカ留学,評論や大学学長としての活動などどの部分をとっても本当に同じ人かというくらい様々なご経験をされていて,それらの経験を洞察に満ちた語り口でお話されています。ツイッターで読んで「そうなのか」と驚いた大学紛争期の東大入試中止のエピソードをはじめとする,新しく明らかにされた事実も非常に興味深いですが,個人的には山崎先生が往時の中央公論社のイメージでの「サロン」あるいは知的サークルを作ろうとしていろいろな努力をされるところが印象的でした。世の中が専門分化していく中で,「知識人」のようなものが存在しにくくなっているわけですが,そういう「知識人」の専門を超えた集まりを国際/日本/関西のレベルで作ろうとする活動と言いますか。ただこれは非常に難しい。山崎先生のような近代的な「知識人」が実際にどのくらいいるのか,という問題が大きいうえに,さらにそれに見合う人がいたとしても,そういう人は希少なのですごく忙しくなり,結局知的サークルを維持していくのが困難になるところがあるように思います。また,あくまでも「知識人」としての立ち位置をとって直接的に政治的なリーダーシップとはかかわらないということは,政治から独立して自律性を保つことができる一方で,求心力がどうしても弱くなりがちになるところもあるのかもしれません。いずれにしても困難は大きいわけですが,このような活動を記録として残されることは,専門分化がさらに進んでいく次の世代にとっても非常に重要な資産になるだろうというのが読者としての印象です。
感想でしかありませんが,山崎先生がこうやって独立した「知識人」として活動を続けてこられたのは,社会科学のように研究対象となる社会そのものから影響を受けてしまうということがない美学・劇作といったところにご専門があったことも大きいように思います。あくまでもホームグラウンドでの発表の場があって,そのうえで様々な社会的活動に乗り出すということが自律的であるために重要なのだろうなあ,と。人文学でそういう方がいるのかもしれませんが,現在では政策に関与する研究者の多くは社会科学者であって,山崎先生と同じような形で自律性を保つのはなかなか簡単ではないと。最近はいわゆる「文系学問」の必要性について議論がありますが,このように独立した観点で社会を眺める目というものが,人文学から生まれてくるとすれば,非常に大きな存在意義になるのではないかという感じるところでした。本書でも,そういった山崎先生の観点からの様々な社会批評が述べられていて,いちいちうなづくところが多かったと思いますが,個人的には「近代知識人における自我の欠如」「関西問題は全日本問題」「浅利慶太氏と小隊長の精神」「防衛論争とレイマン・コントロール」(いずれも節タイトル)のあたりをとりわけ興味深く読めました。

その他,浅羽祐樹先生から,『だまされないための「韓国」』を頂きました。ありがとうございます。SNSではすでにたくさんの感想・批評も出ているようで,読むのを楽しみにしております。詳細なものとして,本書に続く「第8章」として木村幹先生との対談が掲載されているシノドスの記事を興味深く読ませていただきました。
だまされないための「韓国」 あの国を理解する「困難」と「重み」

だまされないための「韓国」 あの国を理解する「困難」と「重み」

御厨貴先生からは,『明治史論集』を頂きました。ありがとうございます。東京都立大学にいらした時期の論文を中心に整理されたということです。整理にも関わられたという北海道大学の前田亮介先生が力の入った解説を書かれているということで,こちらの方もぜひ読んでみたいところです。
明治史論集――書くことと読むこと

明治史論集――書くことと読むこと