京都大学のヒジノ・ケン先生からLocal Politics and National Policy: Multi-level Conflicts in Japan and Beyondを頂きました。どうもありがとうございます。本書は,これまでヒジノさんが論文で書かれてきた,主に政党内での中央−地方の紛争についての研究をまとめるものとなっています。1990年代の統治機構改革以前にはマルチレベルで一定の均衡が見られていたものの,2000年までの移行期を経て,ある種の不均衡のような状態に陥っているというのは,私の新著『分裂と統合の日本政治』とも共有する視角だと思います(まあ共著論文もありますし,共同研究もしているわけですから)。ヒジノさんの本では,統治機構改革によって政党の垂直的な統合が弱まったこと,国政レベルでの選挙のボラティリティが高まったことで国会と地方議会での政党の構成が変わるとともに知事と政権党との結びつきが弱くなっていったことが論じられていきます。実証的な検討の部分では,自民党内で地方組織が政党執行部と対立を含みながら影響力を増していったことや,反対党(=民主党)が政権を握ったときに地方からの回路での民主党への反対が影響力を持ったこと,そして知事(のグループ)が政権党の政策過程に影響を持ちうることが論じられています。中央政府が,地方政府の長や議会の出してくる地域ごとの利害に直面することが増える中で,新たな均衡を探ることが難しくなっている,というのは私の本にも通じる結論と言えるでしょう。
政党の地方組織が自律性を持ちうることを,事例研究を通じて議論するというのは,本書のpraiseを書かれているSteven R. Reed先生の以前の本を想起させるところがあります。単に中央地方関係という観点から地方組織に自律性があるかないか,という論点に,主に国政での政党間競争という論点を絡めることで,マルチレベルのガバナンスのあり方が変わってくることを議論しようとするのが特徴でしょう。私の本は,政党間競争そのものというよりは,国政と地方政治での政治的競争のあり方の違い,という点に注目しながら議論を展開しているわけですが,比べて読んでいただくのもよいのではないかと思います。さらに,このような政党と中央地方関係をめぐる議論が日本でなされているということが,海外の研究者に向けてきちんと発信されることになったということもヒジノさんの大きな貢献でしょう。この点は私もぜひ見習っていきたいと思います。
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