地方議会に非拘束式比例制を導入するとどうなるだろうかー疑問にお答えして

大佛次郎論壇賞を受けたことで,先日朝日新聞に割と長い寄稿を行う機会を頂きました。これまでも同じ朝日新聞の「耕論」欄や日本経済新聞の「経済教室」欄で割と長い寄稿の機会を頂いて,地方議会の選挙制度の問題点について触れることがありましたが,残念ながら具体的にどういう案があるかということに触れるほどの紙幅はなかなかありませんでした。ただ先日「経済教室」欄にそのようなことを書いたこともあり,今回はせっかくなので提案についてなるべく具体的に書いてみることができました。基本的には,2015年に『地方議会人』という業界誌(?)に書いたものを縮小したものです。より具体的にはこちらをどうぞ。校正前原稿です。

具体的に非拘束式の比例制を導入してはどうか,と書いたこともあり,大変ありがたいことに,ツイッターで見る限りですが当事者である地方議員の方からも反応を頂きました。検索で確認できた範囲でのコメントとしては,地方議会の問題はその通りだと思うけど/国政との連動を強調するのは疑問,というものが多かったと思います。現に地方議員として活動されている方々から見ればもっともなお話で,できる範囲でお応えすべきではないかと思いブログを書こうと思いました。

地方議会で比例制を入れたときに,国政との具体的に関係がどうなっていくか,という問いについては,大変残念ですが確定的なことは言えないというのがまず申し上げるべきことだと思います。現状の選挙制度に問題が大きく,その問題を緩和しつつ,移行可能性の高い,よりマシな制度を考えるべきではないかというのが私の基本的なスタンスです(このあたりのスタンスについては,九州大学の岡崎先生のブログで少しお話したことがあります)。現行の衆議院総選挙での小選挙区比例代表並立制を維持するのであれば,地方議会でも小選挙区制や完全連記制が考えられると思いますが,選挙区割りをしたり議員定数削減をしたりする必要が出るでしょうし,同じような多数制である首長との役割分担をどう考えるかも難しくなります(このあたり,『地方議会人』の原稿にもう少し詳しく書いています)。

やや余談ですが,実は滞在先のバンクーバー市(人口60万弱)は,首長と市議会が並立し,市議会は定数10の完全連記という制度を採用していて,それを見るに個人的には議員定数をかなり削減して完全連記というのはアリだと思っているのですが,日本で人口60万だと50人近くいる議員を一気に40人も減らすのは政治的にあまり現実的とは言えないだろうと。また二桁の議員を完全連記で選ぶというのは,有権者に過度の負担を与えることが予想され,私にはこれも現実的とは思えません。

小選挙区制の導入で二大政党制ができる」みたいなことを言えればいいのかもしれませんが,それができないのは,国政で多数制/地方で比例制というのは例が少なく,その効果を予想するのは難しいからです。有名なところだと,国政が小選挙区制のイギリスで,スコットランドでは日本でいういわゆる連用制を使っている例がありますが,この連用制ではSNPが相当議席を取っていて,かなり小選挙区部分が強く効いているように見えます。これも滞在中のブリティッシュコロンビア州で比例制導入の議論をしてますが,ぜひその効果を見てみたいものです。

 その中であえて効果を予測するとすれば,日本の場合ポイントになるのは長の強さだと思います。長が強い影響力を持つところでは長とあゆみを同じくする地方政党みたいな政党がある程度議席を取るのではないかと思います(もちろん前提として,簡単にでも地方政党/議員グループを法定する必要があります)。また,潜在的な長の候補となるようなスター議員候補者(たくさん票を獲って仲間に分けることができる)を持つ地域政党も同じような理由で生まれるでしょう。つまり,得票の源泉になるようなところが重要であって,それが地方レベルであれば一定の議席を獲得する地方政党の伸長が予想されるわけで,その時のカギが長の職だろうということです。そうやってできる地方政党は,必ずしも国政政党との一貫した連携関係を持たないでしょうし,むしろ地方政党が支持する国政政党を選ぶという場面が出てきても不思議ではないと思います。

他方,国政レベルでの政党ラベルを票の源泉とするなら国政政党が地方でも伸びても不思議ではありません。現在の地方財政制度を前提に考えると,補助金に頼らざるを得ない地域では,国政の政権党との関係が重視され,そことのパイプを持つ政党(まあ国政与党ですね)が強くなる可能性があると思います。国政野党はどうするんだ,ということですが,これは『分裂と統合の日本政治』でも議論してきたところですが,政策的なプログラムで票を集める戦略を採らざるを得ないので,それで戦えるのはまずは都市地域となるように思います。それでも現在の分裂状況よりは一貫した戦略を持って戦いやすいのではないかと思います。

ご批判いただいた「連動」という表現ですが,私自身は,どのような選挙制度の組み合わせをとっても「連動」は生じると考えています。もちろん現在の制度でもそうで,それは国政与党と国政野党が非対称なかたちで「連動」することになるという理解です。「連動」を国政政党の影響力増大と理解するならば,特に野党の地方議員にはそのような特定のかたちでの「連動」が起きにくいのが現在の組み合わせだろう,と。つまり私の理解は,どうせ「連動」が生じるならば,もう少しこのような非対称を緩和するかたちでの「連動」を考えることが,制度改革の必要性を生み出している理由のひとつだという理解です。

ツイッターのコメントでも納得する部分があると言っていただいているように,本筋は地方議会自体の機能不全をどうするか,というのが重要な議論です。ひとつには,寄稿で論じたように,当選に必要な得票数をあげることによってアカウンタビリティを高めるということがあります。さらには私自身が『地方政府の民主主義』や『大阪』で継続的に論じてきたことですが,地方議会で議員候補者の当選の閾が低いためにどうしても関心が個別的利益によってしまうこと,そしていわゆる二元代表制のもとで地域全体の集合的利益が首長に一元的に代表されてしまう(悪く言えば,いろんな集合的利益を「何でもやる」かたちで取り込んでしまう)問題に対して,地方議会が多元的に集合的利益を代表するようにできる制度としても比例制は検討すべきだと考えています。そのうえで,有権者が,ある程度一貫性・永続性を伴って集合的利益を主張する議員のグループ(これを政党と呼んでも呼ばなくてもいいでしょう)を選ぶようにできないものかと。

今回の寄稿で,1%以下の人々を代表しようとする議員ばかりになってしまうことが弊害のひとつだと書きました。少数であっても代表されるべきだ,というのはもちろんその通りですが,その少数がまわりの人々と協力して何とか多数を作り出していくというのが議会に期待されることだと思います。厳しい言い方をすれば,議員には,少数の代表としてその立場から正論を言う,それを聞かない方が悪いという立場は求められていないのではないかと。しかし現行制度にはそのような立場を作りやすい性格があるように見えます。非拘束式の比例制になれば,もちろんそういう一人政党で実質無所属を貫くことも不可能ではありませんが,協力する仲間を作った方が色々有利なことになるだろうとは思われます。

確定的なことはわからないといって提案するのは無責任だ,というご批判もあるかもしれません。比べればマシになる蓋然性が高い理屈は用意できるという程度だと言われればその通りだと思いますが,せっかくメディアで問題提起をする機会を頂いて,真面目な反応もいただいたので,私なりに足りない部分を説明できればなあと思ったところです。議論を深めるきっかけになれば幸いです。