『民主主義にとって政党とは何か』

京都大学の待鳥聡史先生に『民主主義にとって政党とは何か』を頂きました。ありがとうございます。政党についての歴史的・実証的研究を踏まえたうえで,日本を対象に戦前から現代にかけてその果たしてきた機能を確認し,将来の政党の役割を論じています。こういう大きな見取り図のもとで議論されるのはさすがだなあと思いました。政党については政治理論の研究者による議論は必ずしも多くないと思いますが,実証研究に関心を持っている側から政党についての政治理論(たとえば「情報縮約のための政党」とか)が提起されているわけですから,ぜひ応答(?)を読んでみたいものだなあと思ったところです。
しかし戦前の政党政治から議論するというのはなかなか大変だったと思います。私自身もいつか戦前の地方政治の話をしてみたいと思ってるのですが,地方になると結構気の遠くなるような話で…。本書だと,元老の役割とか議院内閣制じゃなかったこととか,政治史の人が必ずしも明示的に言わないようなことについて理論を根拠にした話が端々で展開されていて,個人的にその辺興味深かったです。
内容について,3章の理論的な部分などは,ほとんど同じような文献で勉強していると思いますので齟齬を感じないのはもちろんですが,何より同意したのは,165-166ページの1970-80年代についての評価です。

今から振り返れば,石油危機からバブルが崩壊するまでの15年ほどの期間というのは,日本の社会や経済にまだ十分な活力があり,だからこそ将来のための布石ができた時期ではありました。…(中略)…全体としてこの時期に十分な手を打ちきれなかったことは,その後の日本の社会経済にとって非常に大きなマイナスの影響を及ぼしたといわざるを得ません。近年,バブルが崩壊してから今日に至る期間を「失われた20年」と呼ぶことがあります。しかし,実は本当に失われた時間はここにあったのではないかという気がしてなりません。

拙著『大阪』(地方制度改革)でも今度の本(住宅への公的介入)でも,石油危機前後が一番制度改革の可能性があった時期で,その機運もあったのに結局できなかったのではないかという問題意識を持っています。本書では自民党の組織や政策決定過程からその理由を説明していますが,個人的に持っている仮説としては,そこで野党の行動が当時の政治制度に制約されていて,(今から見れば)変わるべきだったのにうまく変われなかったのが,そのあとに大きな禍根を残したのではないかと思うところですが。

政党なんていらんのだ,みたいな耳当たりのいい議論をする人たちが少なくない中で,本書に基づく理解がどのくらい広がるものかというとやや悲観的ではありますが,ぜひ多くの人に読まれることを祈っております。