新築がお好きですか?日本における住宅と政治

このたびミネルヴァ書房から『新築がお好きですか? 日本における住宅と政治』という本を上梓しました。何か研究書っぽくない変なタイトルですが*1,英語タイトルも同時に考えていて,そちらの方はNeophilia? Housing and Politics in Japan ということになっています(一応目次の最後に書いてあるんですが,たぶんすごく分かりにくい)。Neophiliaというのは「新しいもの好き」みたいな意味で,まあ要するに日本人は新しいもの好きだから新築住宅を買うのか?-いや必ずしもそんなことはないだろう,というかたちで議論を展開していくことになります。じゃあなぜ日本は諸外国と比べて中古住宅よりも新築住宅が多いかといえば,それを促す制度が強固に持続してきたからだ,というのが本書の主張になります。政府の住宅に対する補助や都市計画を通じて,人々が中古住宅や賃貸住宅よりも新築住宅を購入しやすい環境が形成され,実際に新築住宅が多く購入されることを通じてフィードバックが生じ,新築住宅を購入するという行動がさらに正統化されるという制度の自己強化が起こった,という見立てです。

具体的な制度とその形成過程についてはぜひ拙著をご覧いただきたいところですが,本書を通じて議論したかったのは,日本において住宅・土地に対する集合的決定を適用するのが極めて難しかったということです。他の分野でも所有権は非常に強い権利だと思いますが,住宅・土地の所有権が非常に強いものとされているために,すでに住宅が建設されている地域の再開発や集合住宅の建て替え,中古住宅のインスペクションに関する制度などに関わる集合行為問題の解決ができず,またそれ故に家賃補助のような形での住宅保障が困難になっているのではないかというように考えています(その最後のところまで書ききれているかどうかは微妙ですが)。そして,住宅・土地の所有権を極めて強く保護することが,現在進行形の問題である負の資産-空き家や被災住宅-への対応について大きな困難をもたらし持続可能性を低めているのではないか,そしてこの問題があるからこそ近い将来制度が変わりうるのではないかと論じています。

本書はミネルヴァ書房のPR誌「究」での連載が元になったもので,さらにその元になったものとしては2014年度の首都大学東京での都市政治論の授業があります。いつの間にか4年の月日が流れてしまいましたが,この間いろいろと勉強してきたことを盛り込みつつ一つの本としてまとめることができてホッとした気分です。日本語の文献については,日本にいたときにある程度整理が終わっていて,UBCでは必要な英語文献にアクセスしやすかったので在外研究中に仕上げることができたという感じでしょうか。それでもそれでも少なからぬ本を買い足すことになりましたし,書き終わってからいくつか追加したいと思った書籍・論文も見つけることになりましたが…。

実際,研究しているといっても(都市についてではなく)住宅についての論文を書いた経験は少なかったわけで,考えていることがあっても論文というかたちでまとめるのは難しいなあ,という印象を持っていました。せっかくなので本の長さだからこそできる論じ方をしてみたいと思っていましたが,本書では一応そういう試みができたと思いますし,またこうやって本を書いたことで論文でどこに焦点を絞って書けばよいかということも見えてきたように思います。 とりあえず一本夏休みの宿題をこなさなくては…。

 

 

*1:とはいえ初めに考えてた『住宅と都市の政治経済学』とかだと売るのは難しそう…