在外研究終了のごあいさつ

2016年8月からちょうど二年間にわたった在外研究が終了することになりました。40近くになって初めての海外生活ということもあり,行く前は不安ばかりでありましたが,バンクーバーでの生活はあらゆる意味で満ち足りたものとなりました。当地でお付き合いを頂いた皆さんをはじめ,機会を与えてくださった方々に改めて感謝申し上げたいと思います。また,帰国後ご一緒する皆さまには当初使い物にならなくてご迷惑をおかけすることもあろうかと思いますが,改めてご指導のほどどうぞよろしくお願いいたします。

さて,このブログでも何回か書いておりますが,この二年間は基本的にこれまでの研究の整理にあてられた時間が長かったと思います。10年くらいやってきた政党の中央・地方関係についての研究は『分裂と統合の日本政治-統治機構改革と政党システムの変容』にまとめられ,大佛次郎論壇賞を受けるという過分なご評価を頂くことができました。また,2014年ころから始めた住宅についての研究も『新築がお好きですか?-日本における住宅と政治』という著書にまとめることができました。何回か経験していることではありますが,本をまとめるためにはそれなりにまとまった時間を必要とするところがあり,この機会がなければそれぞれの仕事にさらに数年かかっていたように思います。

本のまとめに時間がとられてしまったために,新しい仕事が思ったほどできなかったというのは残念なところであります。新しい方法論の習得や英語,ということですが,結局ほとんどUBCの授業には出なかったこともあり(関係するセミナーは一生懸命出たつもりですが…),まあこの点やや悔いが残るところではあります。とはいえ,自分のスタイルとしても,論文執筆と切り離して方法論の勉強をするのが苦手なこともあり,時間があってもできたかはやや不透明ですが…。英語はやはり大学に客員研究員で滞在するだけではなかなか話す機会を得られないというのは(自分自身に)残念なところでした。なのでまあ客員で二年いた程度の英語ではありますが,一応来る前と比べて英語でのアウトプットに対する抵抗感がずいぶん薄れたというようには思います。

論文仕事で言うと,著書になった連載を除いてこちらで書いたのは住民投票についてのものが二本(『社会が現れるとき』と『公共選択』)と,大都市の比較について書いたもの(『レヴァイアサン』近刊)の三本がメインになると思います。これに『建築と権力のダイナミズム』『縮小都市の政治学』に寄稿した論文,大阪都構想と広域連携について書いた『アステイオン』『中央公論』の論文を加えて,シノドスに書いたエッセイを軸にまとめる感じで次の研究書を書くことができればいいかなあと思うところです。あと1-2本論文を足すとか,先行研究を整理しなおすとかのまとまった時間が取れるのかはよくわからないところがありますが…。まあ研究書の場合はだいたい一冊10年弱くらいなので,あと4-5年はかかるでしょうが。このプロジェクトの他には,オーラルヒストリーを利用した長めのエッセイを書いてますので,日本語論文は4本というカウントでしょうか。

英語については,学会発表を4回とUBCで1回発表したものがあります。もうちょっとでできたかなあという気もしますが,はじめの一年が本当に手探りだったことを考えるとまあこんなものでしょうか。しかし発表は全てこちらにいるタイミングがちょうどよくてご厚意でお誘いを受けて参加させてもらったものばかりで,貴重な機会を頂いたことに感謝しています。これから先は自分でそういう機会を作らないといけないなあと思います。二年目に入ってようやく自分の研究を投稿することを始めましたが,うまくいかなくても継続するというのが目下の目標になります。

というわけで,棚卸をしてみると,著書2冊,論文4本,学会発表5回(国際4・日本1),エッセイ・書評・査読などはそれなりに多数,ということになり,一定の仕事はできたかな,と思います。しかし個人的に何よりも素晴らしかったことは,家族が学校・地域社会にうまく溶け込んでくれたことであり,家族を通じて私もいろいろな経験をさせてもらいまったことです。普通,家族を連れていった方がいろいろな機会を提供するもんなんでしょうが,妻をはじめ家族に本当に助けてもらい,充実した在外生活にしてもらった感じが強いです。忸怩たるところもありますが,帰国後には少しずつそのお返しもしなくては,と感じています。

戻ってみると,この二年間が夢のようなものであったという感覚を覚えそうな気がします。ただ,せっかくの機会をいただいたわけですから,きちんと実体化すべく得られたコネクションを維持したり,英語での公刊を進めるという努力は続けなくては,と思うところです。帰国後の日程調整などをしていると不安は高まる一方ですが…。自分の研究についても,上記の三冊目の構想以降,研究書の構想があるわけではないので,それもボチボチ考えていく必要があるんだろうなあと。単著の研究書を書けるとしたらその辺が最後かもしれませんし。英語仕事とどちらか,という選択の問題になっていくのかなあ…という感じ。しかしそれでも帰国に合わせていくつかのプロジェクトが回り始めそうなので,しばらくはこれ以上に手を広げて新規にお仕事をするのは難しくなりそうです。要は一歩一歩,ということなのでしょうけど。 

分裂と統合の日本政治 ― 統治機構改革と政党システムの変容

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