地方財政2冊

埼玉大学の宮﨑雅人先生から,『自治体行動の政治経済学』を頂きました。どうもありがとうございます。地方財政の非常に緻密な分析をされている本で,ここのところ少し地方財政の勉強をさぼってる今の私にはなかなか難しくて時間がかかったのですが(苦笑),非常に面白かったです。本書のメッセージを一言でいえば,一般財源こそが自治体の裁量行動の肝であって,地方自治体が国庫負担金や地方債を通じてレヴァレッジをかけるかたちで規模の大きな財政支出を行うことが,長期的に地方財政のあり方を変えていく,というものでしょうか。

より具体的に本書の構成について言えば,まず第2章と第5章で特に歳入面における制度的拘束が厳しいことが論じられていて,その拘束を前提としつつ,中央政府地方自治体の歳出を補助金を通じて誘導することが論じられています。それだけだと中央政府が非常に強い統制を行っているように見えるわけですが,地方自治体は残された一般財源の余力に応じて地方債を使いながら財政支出を行うことになります。そうすると,余力のある時期は国が考えてるよりも大きな規模で支出を行う一方で,補助金の超過負担が大きかったり,起債の後年度償還が一般財源を圧迫してくると投資を行うことができない(=国の誘導が効かなくなる)ことが出てくると。そうなると国としても新しい誘導の方法を考えないといけないので地方財政に変化が出てくる,というような見取りが示されていると思います。
その意味で本書のメインは4章の臨道債のところだと思いますが,実は私も以前地総債を対象に似たようなことを考えようとしつつもうまくいかずに断念したことがあります。まあ私の場合は,それに政治的要因を絡めつつ,というところではあったのですが。単に財政余力が大きい自治体が誘導に乗ってくる(乗りすぎる),っていうことだけじゃなくて,何らか政治的な理由があって乗ってきたり,場合によっては誘導があるのに乗らないってこともあるんじゃないかと。まあ私の方はそもそもうまく議論を組み立てることができなかったわけですが。
政治学者として感じたのは,これだけまとまった興味深い議論をされているのですから,冒頭でもっと「制度」の理論に関するようなことを展開されてもよかったのではないか,という気持ちもあります。おそらく経済学の方が因果関係を意識したより精緻な分析をされるところがあるのに対して,政治学の方はより大雑把な議論をしているようなところがありますが,その中で政治学の方は(大雑把ではありますが)モノグラフとして本全体を通じた理論的貢献のようなものを目指している気がします。そういう観点から見ると,本書では,例えば「制度変化」について考えるための重要な貢献がありそうにも思いますし,政治学者ならそういう感じで書くかもなあと感じたところがあります。まあそれはディシプリンによる違いということも大きいわけですが。 

自治体行動の政治経済学:地方財政制度と政府間関係のダイナミズム

自治体行動の政治経済学:地方財政制度と政府間関係のダイナミズム

 

次に東京大学の林正義先生ほか著者の皆様から『地方債の経済分析』を頂きました。どうもありがとうございます。こちらも地方財政ですが,特に地方債を対象とした本ということになります。はじめに持田先生のオーバービューがあり,それから地方債の制度についての分析が続き,次に地方自治体間の差異の分析となります。地方債の信用リスク・格付けの効果に続いて行われている銀行等引受債の経済分析が,個人的にはこれまでにほとんど見たことがなく,非常に面白かったです。そのあとは地方債務の持続可能性と地方債に関する研究のサーベイということで,関連テーマについての現在の状況を知ることができる非常に便利な一冊になっています。

対象はもちろん専門的ですが,非常に整理されていて読みやすい本だと思いました。ただ一点だけ欲を言うなら臨財債についての章とか一つ欲しかったなあという気がします。「特例」の赤字地方債ですし,それこそ信用リスクや格付けなどを分析する本書の観点から言えば,「財政」の論理と「金融」の論理の折り合いが問題になる(p.189)微妙な存在だとは思うんですが,現在の地方財政/地方債をめぐる最も大きな問題のひとつのように感じるところなので。…まあ自分が知りたいだけなので,そこは勉強しなくては,というところでもありますが。

地方債の経済分析

地方債の経済分析