分裂と統合の日本政治

このたび千倉書房から『分裂と統合の日本政治』を上梓しました。『地方政府の民主主義』以来二冊目となる研究書ということになります。実証研究の部分である2章から7章までは,主に大阪市立大学に在籍していたときに書いたもので,それをまとめ直したものになります。大阪大学にいた2014年に,1章のもとになった原稿を比較政治学会で報告させていただいて,まとめる道筋は立てていたのですが,思いのほか時間がかかってしまいました。ホントはこの本を書いたうえで,『民主主義の条件』につなげるつもりだったのですが。
元の論文は地方政治の色彩が強かったように思いますが,まとめ直す過程で中央地方関係を意識して整理したつもりです。中央政府の政治的競争とは異なる地方政府に独自の政治的競争を扱った前著の一番最後で,

日本においても首長のポストとそれをめぐる政治的競争が重要になる中で,地方政府における政治的なアクターの行動が,中央政府レベルの意思決定や,地方政府の政策選択を規定する「ゲームのルール」に与える影響は検討されていくべきであると考えられる。…(中略)…国会議員の経験者にとっても,地方政府の首長ポストがより重要な意味を持つようになることに象徴されるように,地方政治が国政に単純に従属するという関係ではなくなることで,中央政府は地方政府に対してより強い関心を持つことになるのである。本書の分析は,あくまでも所与の「ゲームのルール」のもとでの地方政府における政治的なアクターの戦略的行動のみに注目する,いわば「各地方政府を閉ざされた小宇宙として捉える」(曽我・待鳥[2007:319])議論としての限界を持っている。しかし,本書において得られた知見は,地方政治から中央地方関係をとらえる,という新たな可能性を示すものであると考えられる。この可能性を手がかりに分析を進めていくことで,本書の限界を超えて,政治的なアクターの戦略的な行動を媒介とする中央政府・地方政府の動態についての研究を展開させ,地方自治の理解を深めることができると考える。

と書いているのですが(最終校正前),まあ結果的にはこの方向で進めることができたかな,という感じはあります。最後のところ,「地方自治の理解」そのものというよりは,「中央地方関係の政治的側面からの理解」くらいの方が妥当な気はしますが。
本書の分析から得られる制度改革の含意のひとつに地方議会の選挙制度改革があります。これは『地方政府の民主主義』とそれを踏まえて書かれた『大阪』,そして本書の理解を下敷きに書いた『民主主義の条件』でもすでに論じていることですが,個別的利益を強調しがちなSNTVではなく,地方政府における多元的な集合的利益の表出を可能にするために比例制などの選挙制度を考えるべきだろうということです(詳細は『民主主義の条件』の他,以前に民主党政権時代の「地方行財政検討会議」での募集に応じて書いたパブリックコメントをご覧ください)。さらに,本書の最後に書いたように,国政においても政党間の公平な競争を行うことができるようにするための必要な制度的見直しという意味もあります。折しも,ごく最近総務省で取りまとめられた「地方議会・議員に関する研究会」の報告書では,都道府県議会を中心に比例制の検討が謳われることになりました。本書の「あとがき」でも書いたように,選挙制度の再検討は簡単なものではないはずですが,見直しが議論されるようになったことについて,個人的には望ましいことだと考えています*1
本書の出版で,一応博士課程以来続けてきた地方政治・中央地方関係の仕事にはひと段落がつき,当面は都市・住宅政策を研究対象にすることになります。まずはミネルヴァ書房のPR誌『究』で二年間続けてきた連載を単行本にするという仕事に取り組みますが,在外研究の機会を頂いていろいろ考える中で,次の研究書の構想についても少し見えてきました。以前にシノドスに書いたエッセイを軸に,『建築と権力のダイナミズム』『縮小都市の政治学』に寄稿した論文,大阪都構想と広域連携について書いた『アステイオン』や中央公論の論文,UBCで書いた住民投票の論文二つと現在構想中の論文を加えて,都市(自治体)の再編とその意思決定について書けるのではないかというイメージを持つようになりました。まあ帰国後にそれをまとめ切る時間が取れるのかわかりませんが…。残りの在外研究の時間では,これまでの研究を再編成して英文誌への投稿を目指したり,次の研究書の目標を見据えながらサーベイをしたり方法論を学んだりできればと思っております。引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

*1:とはいえ,長く政権の座にある自民党自身,1992年の「政治改革の基本方針」で地方議会選挙制度の見直しを謳っていたわけですが。