『第一次世界大戦期 日本の戦時外交』ほか

帝京大学の渡邉公太先生から『第一次世界大戦期 日本の戦時外交-石井菊次郎とその周辺』を頂いておりました。ありがとうございます。外交史,しかも戦前の話なので,十分に理解できるわけではありませんが,興味深く読ませていただきました。基本的には,第一次世界大戦前の外交官中心であったいわゆる「旧外交」から,秘密外交の禁止・民主的統制・民族自決などを謳う「新外交」へと変わっていく期間における日本外交の歴史について論じられたものだと思います。石井菊次郎とその周辺,という副題になっていて,冒頭でも石井の話が出てくるので,もっと伝記風なのかなあと思っていたのですが,元老による外交のほか,加藤高明・本野一郎といった外相の政治指導についても多く紙幅が割かれています。非常に図式的に言うならば,加藤高明を中心とした日英同盟を何より重視する路線と,元老や本野一郎のようにロシアとの関係を重視する路線の対立がこの間の基軸になっている中で,ドイツの潜在的脅威を重視する石井菊次郎が両者の中でバランスを取りつつ,ロシア革命後に大きな問題となっていったアメリカとの外交交渉を行っていったという感じでしょうか。高校日本史で止まっている知識で出てくる「石井-ランシング協定」はその成果,ということになるのかと思います。

歴史的な状況をすぐに現代に当てはめようとするのはよくないですが,現代政治を研究している人間としては,やはり現代へのインプリケーションを考えてしまうところがあります。英国という覇権国家との強い関係が続いてきて,それを見直すような議論が出てくる中で,近接するロシアとの関係を強化することで自国の権益を守りたい。ロシアの方もヨーロッパとの関係が厳しいときは日本に接近してきて権益を譲るようなことも言うけど,ヨーロッパの方でのバランスが回復してくると日本との交渉は厳しくなる。その間出現した新興大国であるアメリカが中国市場に強い関心を持ち,長期的に国力が太刀打ちできなくなることが明らかな中でより厳しい交渉を行うことになる。まあそんなまとめ方をすると何となく現代にも通じる「バランスオブパワーの変化の中でどういう選択をするか」というケーススタディにもなっているように思います。

なお本書のなかでは中心的なテーマでないと思いますが,個人的には「外交調査会」による意思決定の一元化のところが興味深かったです。元老や外相,軍部が多元的に行ってしまうような従来の外交から,政党も含めてまとめて調整するしくみ,ということだと思います。結局ここでは何も決まらなくなる,ということもよくわかるのですが,まあおそらく現代の安全保障会議に通じるところもあるわけで,その辺の歴史を描く研究もできるのではないかなあ,と思ったり。 

第一次世界大戦期日本の戦時外交―石井菊次郎とその周辺

第一次世界大戦期日本の戦時外交―石井菊次郎とその周辺

 

村松岐夫先生に『政と官の五十年』を頂いておりました。ありがとうございます。村松先生が書かれてきて,これまでに単行本に収録されていない論文のうち,主に国政レベルの政治行政過程の実証研究を扱われたものと,中央地方関係や地方分権をテーマとされたものが収録されています。全体としては,はしがきにある通り,「政党と官僚の間では,「官僚が優位の関係に立っている」という通説に対しては,政党の影響力優位と見るのが適切」,「「地方自治体が自律的でなく,中央に支配されている,また地方議会に影響力がない」といった言説に対しては,種々の調査のうえ,これらの地方諸アクターに独自の影響力があること」が示されています。今となっては目新しい主張ではありませんが,村松先生がこれらの論文を書かれていた時には極めて革新的な主張であったわけで,現在の研究に至る「源流」をまとめて読むことができる本だと思います。 

政と官の五十年

政と官の五十年

 

 著者の先生方から『日本の連立政権』を頂きました。どうもありがとうございます。1993年の細川政権以降民主党を経て現在の第二次安倍政権に至るまで,日本で常態となった連立政権について,各首相ごとに分析が行われています。本書の編者のおひとりであり,選挙学会の会長を務められていた岩渕先生の還暦を記念して,関係の方々で始められたプロジェクトということですが,残念なことに途中で岩渕先生がご逝去されました。ご冥福を祈りつつ,勉強させていただきたいと思います。 

日本の連立政権

日本の連立政権

 

これも著者の先生方から『縮減社会の合意形成』を頂きました。ありがとうございます。副題が「人口減少時代の空間制御と自治」となっていて,「合意形成」に焦点を当てながら都市計画のような都市空間管理について分析するものになっていると思います。あとがきにある通り,本書の問題意識では,これまでの合意形成システムが「国政という全国レベルでの十分な合意形成を欠いたまま政策決定を行い,実際に影響の及ぶ地域レベルで,都道府県・市区町村・地元団体という3層の事実上の「自治行政単位」を媒介に,経済的便宜供与によって,国策への同意を求めるという「同意調達システム」」であったことが前提とされています。それを批判しつつ,縮減社会のなかで機能する合意形成システムの理論を構築しようとした,というのが本書のもとになったプロジェクトの狙いとなっているそうです。「自治行政単位」の境界をどのくらい自明視すべきなのか,という論点などもありそうですが,全国で様々なNIMBY問題が噴出している現在の日本において,取り組まれるべき課題ではないかと思います。 

縮減社会の合意形成-人口減少時代の空間制御と自治-

縮減社会の合意形成-人口減少時代の空間制御と自治-

 

 もうひとつ著者の先生方から『「18歳選挙権」時代のシティズンシップ教育』を頂きました。ありがとうございます。龍谷大学の先生方を中心としたプロジェクトで,シティズンシップ教育の現状や諸外国での経験,さらには龍谷大学で行われてきた取り組みについてまとめられています。基本的に大学生は有権者,という時代になっているわけで,政治学の研究者としても大学教育の中でやるべき仕事が増えている、ということなのかもしれません。自分の大学のことを思いつつ勉強させていただきたいと思います。 

「18歳選挙権」時代のシティズンシップ教育: 日本と諸外国の経験と模索

「18歳選挙権」時代のシティズンシップ教育: 日本と諸外国の経験と模索