オーラル・ヒストリーに何ができるか-作り方から使い方まで

宣伝ですが,御厨貴編『オーラル・ヒストリーに何ができるか-作り方から使い方まで』が岩波書店から出版されました。私はこの中で「「行革官僚」の成功と挫折」という短い文章を寄稿しています。大学院生の時に参加した田中一昭氏のオーラル・ヒストリー以来,いくつか参加している行政改革・民営化に関するオーラル・ヒストリーの成果を並べつつ,第二臨調を契機に出現したように見えた「行革官僚」とはどういう存在だったんだろうか,ということを考えてみたものです。今回は紙幅の都合もあって論じたりないところもありますが,今後もう少し行政改革や民営化について別のプロジェクトでも考えてみたいと思っています。

私は具体的にオーラル・ヒストリーを「使う」という感じのもので,本書の中で似たようなものとしては竹中治堅先生,高橋洋先生,佐々木雄一先生,あと前田亮介先生のものも似てると言えば似てるかもしれません。いずれもオーラル・ヒストリーの記録を使って何らかのテーマについて分析したものです。より古い回顧録を使っている前田さんのもの以外は「事例的考察」というくくりの中に入ってますが,他方でこの括りの中でも特定のテーマというよりも文部科学官僚について実施されたオーラル・ヒストリーについて分析する本田哲也先生のものも入っていて,「使う」については特に現代政治に関心を持つ研究者を中心とした多彩な感じになっています。

個人的には「応用的考察」のところが面白かったですね。こちらは歴史への志向がより強い感じでしょうか。牧原出先生によるオーラル・ヒストリーの記録の読み方,村井良太先生による「東京学派」(!)の歴史と可能性,手塚洋輔先生によるオーラル・ヒストリーの準備についての考察があります。それに加えて,特に一番若い世代である佐藤信先生と若林悠先生がオーラル・ヒストリーの「残し方」について検討しているものが広く読まれるといいな,と思いました。だいたいプロジェクトを始めた世代は拡大を考えて(持続可能性とは別に)方法論を確立することに熱心になり,自分も含めて定着してきた世代ではその中身について関心を強くしている,というカラーがあるような気がしますが,それに対してもっと若い世代では持続可能性や公開というテーマについて考えて刷新を提案する,という感じのようにも思います。